芝 幹雄
1983年多摩美術大学デザイン科卒業、GKインダストリアルデザイン研究所に入社。1990年株式会社GEO設立に参加、医療機器の設計とデザイン、その他産業機械の設計を手がける。2007年3月独立、株式会社SHIFT設立。同社代表取締役。
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前回、デザイナーをうまく使うクライアントの話と、デザイナーがやる気を失ってしまう出来事をご紹介したのだが、なにせ12時間のプレゼンテーションでの出来事、簡潔にお伝えしようにも限度がある。というわけで今回はその続き。
製品を設計製造する会社のエンジニアの一言で、まとまりかけていたデザインの話も吹っ飛んでしまったわけで、なんでもっと早く伝えてくれなかったのかとは思うが、筆者はこのエンジニアたちを非難しているのではない。今まで出会ったエンジニアの中でも優秀で信頼できるエンジニアであったと思う。ただ事の進め方に問題があったのと、プレゼンテーションの気迫に呑まれてしまったことが残念であっただけである。
この話の場合ガックリとはきたのだが、また気を取り直して再度デザインを練ればなんとかなるわけで、実際その後、この企画の商品は大幅な見直しの末、なんとか商品化にこぎつけた。
プロダクトデザイナーとエンジニアの関係は密接でありどちらも振り回し、振り回されながらの関係は断ち切ることができない。さらにフリーランスデザイナーの場合は、相手のエンジニアがクライアントであったり、強力会社であったりとさらに複雑になってくる。
優秀でやる気のあるエンジニアと出会うかそうでないかで、デザインの可能性は大きく違ってくる。経営者の中にはそのことが理解できていない方が多いのも現実である。
よくあるパターンは社長が一人やる気があるのだが、その会社のエンジニアはやる気があまりない場合。このようなパターンの場合では、我々フリーランスデザイナーは社長からのトップダウンで依頼を受けることが多い。そして多大な期待が寄せられる。しかし、エンジニアたちがついてきていないのを社長が知らないとすれば、これは最悪のパターンとなる。
その会社のエンジニアにとって我々外部のデザイナーは邪魔な存在となり、どのようなアイデアを提案してもなかなか受け入れてもらえないものである。その状態が見極められたのであれば、泥沼に陥る前に撤退するのが得策である。この場合やる気のないエンジニアより社内の状況が見えていない経営者側に一番の問題がある。残念ながら一フリーランスデザイナーの立場からはどうすることもできない。何度も泥沼に陥った経験をした今ではそう考える。
しかし、時としてやる気がないように見えるエンジニアが、経営者と社内に内包する問題を一番理解している場合もある。この場合はエンジニアとの密なコミュニケーションによってプロジェクトが問題なく進行することもあるので、よく見極めることが大事である。
プロダクトデザイナーは、今までにない構成、構造を提案するのが重要な仕事であるが、エンジニアの仕事は確実に商品を作り上げること。PL法施行後、この「確実」という言葉の重みはさらに増している。しかし実績が有るなしで判断されていてはどのようなアイデアも成就しない。1案1案メリット、デメリットをエンジニアの立場から丁寧に吟味してほしいものである。同じ機構設計のエンジニアであっても、会社が違えば考え方も違うし、取れる手段も違ってくる。なかなか難しいことではあるが、デザイナーもその違いを理解できるようにしたいものである。
出会うエンジニアによって自分のアイデアを左右されたくないと思っていたら、最近筆者の仕事は半分以上が機構設計になってしまった。デザイナーからエンジニアに転向するにはそれなりに時間と労力が必要なので誰にでも進められることではないが、エンジニアとしての技量が不十分でも、常に最終形状を想像しながら設計をできることはそれなりのアドバンテージになると思う。そしてそのことはデザインの観点から考えれば大きな意義を持つことになるだろう。
しかし優秀なエンジニアの中にはそれができる人がいる。その分デザインに関して含蓄もあり手強い相手となるのだが、そんなエンジニアに出会ったならば、デザイナーは設計検討会議が楽しくてしようがなくなるだろう。そんな視点でエンジニアを見てみるのも面白いと思う。
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