大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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「mindbike」は、年内の発売を目指して開発中の次世代自転車である。
従来の金属チューブを溶接する、あるいはカーボンファイバーを成型し焼成するといった高度な技術や職人技が求められる労働集約型の自転車生産方式からの脱却を目指し、溶接を使わずに、アルミ押し出し材をボルト締めして組み立てるという画期的な構造を持つ製品だ。
完成車の重量は、パーツの選択にもよるが、9kg台に収まる見込みで、このクラスの自転車としては軽い部類に属している。
現在、数台の実装可能なプロトタイプにより最終的なテスト走行を行っており、初期ロット1,000台の予約が確定すれば、1台分のフレームセットが5万円台で販売可能となる。
発案とデザインは、pdweb.jpで「3D CADお役立ちTIPS」の連載を担当されたこともあるTSDesignの角南健夫さんが行い、趣旨に賛同する個人や企業が、それぞれのノウハウを出し合って、手弁当で製品化を目指すプロジェクトとなっている。また、筆者も構成メンバーであるプロジェクトチームでは、「mind to 仙台」という名称の一般参加型チャリティランを計画中で、来る8月17日から21日にかけて、東京・代々木公園から仙台市荒浜のHEARTQUAKE Base Campにて自転車修理ボランティアをされている「R自転車集団」のもとまでリレー形式でmindbikeを走らせることを予定している。チャリティランにより集められた義援金は、R自転車集団に直接渡され、修理パーツの購入などに充てられる。
詳しくは、mindbokeプロジェクトのこちらのページ(http://www.mindbike.net/mindtosendai)をご覧いただきたい。チャリティランへの申し込みも、同サイトから行える。
ということで、mindbikeだが、これはデザイナーであれば一目で分かるように、その製造方法が素直に反映された形状をしている。外観における最大の特徴は、フロントフォークとメインフレームの部材が、長さや穴の位置まで含めてまったく同一形状となっている点であり、一般自転車に比べて全体の部品点数も少ない。
mindbikeのチェーン側のサイドビュー。本来、フレームはアルミ合金製だが、この特定プロトタイプはマグネシウムを使った実験モデルのため、表面が酸化してムラのあるガンメタリック色となっている。
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反対側のサイドビュー。前後片持ち式でタイヤが支持されていることがよく分かる。片持ちハブ自体は、自転車用に量産されており、強度的な不安などはまったくない。
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フロントフォークと前輪のアップ。考えてみれば、自動車の車輪はすべて片持ち式であり、誰もそれを奇異に感じない。片持ちハブには、タイヤ交換やパンク修理が容易になるというメリットもある(クリックで拡大)
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フロントギアからリアフォークにかけてのアップ。このプロトタイプには、フロントギアに内装2段変速のSpeed-Driveが組み込まれ、走行中にかかとで変速できるようになっている。
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アルミ押し出し素材のメリットをさらに活かすために、フレームの構成パーツには全長に渡ってチャンネル(溝)が設けられ、これがシートポストやクランクの受け、アクセサリ取り付けの共通インターフェイスとして機能する。将来的にはライト、荷台、カゴ、iPhoneマウントなども、すべて、このチャンネルを使って合体できるようになる見込みだ。
フロントフォークを正面から見たところ。ここではケーブルをさばくためにフレームのチャンネルが利用されている(クリックで拡大)
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フロントフォークとまったく同じ部材なので当たり前だが、メインフレームにも全長に渡ってチャンネルが設けられている(クリックで拡大)
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これは実写ではなくCGだが、部品点数の少なさが分かる。また、フレームのチャンネルを共通インターフェースとして、バスケットやキャリアなどのアクセサリを装着可能であることが分かる
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その他、フレームの組み上げや、ハンドルなどを取り付けるためのパーツも、すべてボルト締めされることを前提として設計され、形状的にもフレームにマッチするようにデザインされている。
ハンドルを固定するパーツもフレーム形状に合わせて独特のスクエアなイメージでまとめられた(クリックで拡大)
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シートポストとクランク受けのパーツは、フレームを上下から挟み込むように取り付けられている。シートポストの位置やチェーンの張りを微調整することも、簡単に行える(クリックで拡大) |
フロントフォークとメインフレームの接合部のパーツは、強度と滑らかなハンドルの動きを両立させるように設計された(クリックで拡大)
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たとえば、押し出し材の長さをそれぞれ少しずつ短くしたバージョンを作れば、それがそのまま子供用自転車となる。あるいは、メインフレームのみを延ばしてシートポストとクランクユニットを2セットずつボルト締めすれば2人乗りのタンデム自転車なども比較的簡単に実現できる。
このように、拡張性まで含めたシステムとして考えられた新発想の自転車、それがmindbikeなのである。
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