大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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早くも第4世代となったiPod nanoのフォルムは、iPhone 3Gや新型iPod touchと同じく、手になじむことを一番に考えてデザインされたように感じる。
90.7 × 38.7 × 6.2mmのサイズで36.8gという重量は、長さを除けばすべて歴代のnanoで最小・最軽量。ここまで薄くなると、持ちにくさや強度面の不安などが出てきそうだが、それを中央部をわずかにアーチ状に膨らませた楕円断面のアルミボディで解消しようとした結果が、今回のフォルムにつながったのではないかと思う。
販売台数ではヒット商品であり続けているものの、さすがのiPodも成長率には鈍化が見られてきた。シリーズで最も売れているnanoは、再び新規需要を喚起する重要な役割を負わされており、iPod史上最多でウォークマンをも凌ぐ9色のカラーバリエーションや、大型化した画面、新たに組み込まれた加速度センサーなど、複数のアピールポイントを盛り込んできたことは、ユーザー層のさらなる拡大を真剣に考えてのことだろう。
全9色展開というiPod史上最多のカラーバリエーションで展開されるiPod nano。中でもイエローは、今までアップル製品に同系統の色がなかったこともあり、非常に目立つ存在だ
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楕円断面のため、カラーの表情はさまざまに変化する。ガラス製のスクリーンカバーはもちろん、クリックホイールまで表面の曲率に合わせてカーブしている
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第3世代で、一度、横に広くなったフォルムが挟まれたことによって、縦長の第4世代は改めて新鮮に見える。そういうことまで計算して製品デザインのサイクルを決めているという考えも、あながち的外れではないだろう。
一方で、カルチャーアイコンとしてのiPodのイメージは、どの世代のnanoでも一貫しており、今回の新型でもその点ではブレがない。各部の仕上げにもアップル流が貫かれ、ネジを露出させない構造で組み立てられている点も過去のiPodに準じている。
スライド式のホールドスイッチの上面は円周状に刻み目が付き、滑り止めになるとともに光の当たり方で美しく輝く
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加速度センサーによる縦横表示の変化はもうおなじみと思うが、筆者が注目したのはメニュー選択に応じて表示内容が変化する画面下部のエリア。大型化したスクリーンを巧みに利用したインターフェイスのアイデアだ。
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本体を横にするとアルバムアートのカバーフロー表示になったり、本体を振って楽曲がシャッフル再生されるなど、加速度センサーを利用した小粋な機能も潜在ユーザーの心をつかむに十分だ。しかし、個人的にはそれよりも、大型化した画面を縦使いしたときに生じる表示エリアの余裕を、情報表示に利用するインターフェイスのアイデアが気になった。
第3世代モデルでも、横長の画面を縦に二分割してアルバムアートなどが表示されてはいたが、いささか窮屈な印象を受けた。今回の縦型画面では、メニューと情報表示エリアのバランスも良く、その意味でも第四世代nanoは、クリックホイールiPodの1つの完成形になったと言ってよいだろう。
一方のiPod touchは、一見すると初代モデルとあまり変化していないように感じられる。事実、正面から見たときの縦横のサイズは同じであり、縁が従来のガンメタリック的な仕上げからiPhoneに似たメタル調になった程度の違いしかない。これはiPhoneともども、アップルが今は、そのデザインのイメージを定着させる時期と考えているためだろう。
第2世代のiPod touchは、正面から見る限りでは初代との外観上の違いがほとんどないばかりでなく、縦横の寸法も同一である
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裏返してみると、背面カバーの素材は初代と同じくポリッシュされたステンレスだが、iPhone 3Gのような曲面構成となり、それに合わせて樹脂製のアンテナカバーも曲線的な形になるなど、より洗練された印象だ(以前にも書いたが、初代モデルのこの部分のデザイン処理には、多少の違和感があった)。今回、スピーカー(iPhoneと異なり、筐体の表面に開口部を持たない)が新設されたことで、ボリューム調整のためのハードウェアスイッチも設けられたが、これによってカバンの中などに入れた状態での操作性が大幅に向上した。
背面はiPhone 3Gを思わせる曲面構成になっているが、内蔵アンテナ数が2種で位置の干渉が少ないためだろう。素材はステンレスが引き継がれた。黒く見える樹脂パーツは、右からアンテナカバー、電源スイッチ、新設のボリュームスイッチだ
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背面カバーの周囲のRはかなり小さく、ドックコネクタ端子もイヤフォンもかなり面に沿って後方に切れ込んだ形状となっているが、従来のドックコネクタやイヤフォンはそのまま挿すことができる
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一部の報道やレポートでは、初代モデルよりも薄くなったという記述も見られるが、実は厚みは8mmから8.5mmへと増加しており、薄く見えるのはMacBook Airなどと同じデザイン的なトリックだ。とは言え、おそらくそんなことを気にするユーザーはおらず、純粋に手にしたときのフィット感が向上したことを喜ぶのではないだろうか。
新型はバッテリー駆動時間が公称22時間→36時間(音楽連続再生)、4時間→6時間(ビデオ連続再生)と延びているが、これはおそらく回路の最適化だけでなく、厚みの増加をバッテリー容量の強化に利用しているのではないかと推測される。ゲームなどのエンターテイメント用途をアピールするためにも、駆動時間の長さは重要だからだ。
無闇に薄さを追求するのではなく、意味のある厚さで付加価値を高めたところに新型のポイントがあると思う。
実は、iPhone 3Gと同じく、iPod touchでも初代より厚みはわずかに増しているが、より手になじむ形状となった上、MacBook Air風の断面処理により厚みを感じさせない
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この赤いアイコンは、Nike + iPodのアプリケーション。クリックホイールiPodと異なり、新型iPod touchはNike + iPodのセンサーモジュールに専用の無線アダプタなしで対応可能となった
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ちなみに、第4世代iPod touchは、ナイキとアップルのコラボレーションで実現したランニング支援システム、Nike + iPodに標準で対応し、無線アダプタなしでシューズ内のセンサーと連携可能となった。
新型にはiPhoneと同じようにBluetoothのチップも搭載されているが、一般的なワイヤレスヘッドフォンなどへの利用には解放されていない。このチップを用いて上記の機能を実現していると思われるが、対応可能な機能をすべて盛り込むのではなく、一番訴求したいことだけに技術を利用するという方向性にアップルのストイックさが感じられるのである。
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