moviti/片山典子
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
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春がきてばたばたと花が咲き、しばらくは梅雨まで気持ちの良い気候が続く、はずですね。山肌の緑がいろんな色。
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デザイナーたるもの、美しいとか物語を真正面に共有できるカタチにするような仕事をする一方、知恵とか気が利いてる、まさに機能がカタチになったようなモノ、そういうものに意図のない美しさを感じてそーっと萌えてるので、今回は語ってみたいと思います。
食品のパッケージ、工場からお店まで、買ってから家で保存するためのプロダクト。あらゆる人が使う、安全安価でたくさん作れる、ゴミが少ない。糊や溶着の強度、密閉できて強度もあって必要に応じて手で切れる切り目、など。素材と品質保証、使い勝手(運搬、棚陳列含め)量産適性とのバランス。このあたりの担当は設計者になるのか、デザイナーなのか。
以前プロダクトにおける「日本らしさ」をディスカッションする機会があったのですが、そのとき「日本のモノづくりの精度」の体験、体感にこの「刷り込まれる手応え」が大きいことに気づいた。心地よいクリックでぱちんと蓋が閉じる。ペットボトルの封を切るねじる動作の力の掛け具合がちょうどいい。蓋を閉めたら漏れない。鋏なしで開封できるパウチ。
ディスポーザブルなパッケージにおいて「機能する手応え」はプラスチックの魅力がいっぱい。
パック豆乳の注ぎ口、少し前までの平たいヒンジドア型の注ぎ口だったのが、筒タイプに移行。斜めに切ったストローに蓋をつけたようなプラスチックの注ぎ口が小さなビニール袋に入れて添付されている。買ったら自分で取説に従いシールされた口にパーツを慎重に挿す。ネジ蓋が取り付いて売られているのと同じく傾けても接合部から漏れない。細く綺麗に注がれ、小さな蓋がぱちん、斜めの角度も萌えます。おそらく保存期間を延ばし、特許を回避する知恵の競い合い。
小麦粉にもプラスチックの注ぎ口がついてるものがありますね。買ってから自分で取り付けるのだが、袋に開ける穴のサイズをつい大きく開けてしまうと接合部からもふっと粉が出てしまう。ううむ、自分の要領の悪さかパーツ形状の工夫の余地か。先日「パスタの袋の先端につける蓋」というのを見かけて買ってみた。パスタの袋の長さ方向にゆとりがないので、袋を挟み込むパーツにパスタも挟んでしまったり、ちょっともたついたが、セットできると蓋で袋が自立するのが面白い。
当然IKEAの袋留めクリップを初めて見たときには萌えた。輪ゴムからセンタクバサミクリップ、ビニールタイを経て、ああこのカタチだったのか。バチンと挟み込んでもう取れない。
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一方で昔から変わらない工業製品の姿を留める食品パッケージもある。
シャンパンの蓋。銀紙を剥がすとキノコの形のコルクを丸い銀紙と針金をねじって締めこんでいる。プリミティブそして素材からして昔からの方法。針金を逆にねじって緩め、どきどきしながらコルクを親指で押し出すとポン! という動作もセレモニーらしくてなくてはならない。(上手くシャンパンが開けられたときの地味さと言ったら)勝手にフランスのエスプリを感じるのだ。王冠を栓抜き? ラムネ式? やはりあのカタチが今も一番合理的そしてレトロ、スタイリッシュ、愛らしいのだろう。「獺祭」など発泡日本酒では栓はプラスチックもある。滅菌イメージすぎて情緒がないような。もしくは透明な日本酒と最新技術の融合として逆に現代日本らしいのか。
コンビーフの缶、台形の缶側面の出っ張りにプリミティブな形のネジ金具をひっかけて、缶側面に沿って自転公転よろしくぎりぎり巻き取ってぱかっと中身を塊で取り出す。金属をテープ状に切り出しながら巻き取る? なんて斬新! 昔の製造上の理由でできた台形状の缶だが、丸缶だと売れないそうだ。あの開け方自体がもうコンビーフを食べる作法のひとつに組み込まれている。最近スマートカップという名称でプラスチック容器のコンビーフが売られているようだが、一度見てみたい。
テトラパック、袋のシール方向を直角にするだけで強度がある空間を確保できるカタチが作れる。このカタチすごく気が利いてる、可愛らしくオリジナルなフォルムでいつ見ても見惚れる。最近はサラダの菜もの野菜のパックに使われているようだ。
ネクターも昔は小さい缶切がついてて、飲むときに2か所缶の上面に穴を開けるタイプだった(1964〜1972年)。子供心にコンビーフと同じくらい作法のように感じた開封動作。知らないよねえ、ぐぐってもほとんど出てこなかった技術。砂浜で危なかったリングプルタブが取れちゃう飲料缶も1990年になくなったそうです。現在の缶はステイオンタブ方式。平成生まれは知らないんだね。
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