大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
|
2010年の秋に発表された第6世代のiPod nanoにはアナログ時計表示機能が標準で備わっている。筆者もすぐに、あり合わせの時計バンドに取り付けて,即席のマルチタッチ式ウォッチを作ったりしたが、サードパーティも革やナイロンなどの素材を使い、専用アクセサリとしてのウォッチバンド製品を発売してきた。
だが、その多くは既存の時計バンドとほぼ変わらず、iPod nanoのクリップを利用して固定するものばかりが目立っている。その中で、ひときわクオリティが高く、デザイン的にも樹脂や金属部品まで新たに作り起こしてiPod nanoとの一体感を追求した製品が、今回採り上げたMINIMALのTikTok(ティクトク)とLunaTik(ルナティク)という2つの姉妹製品だ。
これは、以前に紹介したKickstartterのサービスを利用して約8,100万円の資金を集め、製品化されたもので、デザイナーのスコット・ウィルソンは元ナイキウォッチのクリエイティブディレクターだった人物である。
パッケージから中身を引き出すと、クリアな樹脂板の間に浮かぶように製品が固定され、鮮やかなブルーのカードにデザイナーからのメッセージが書かれている
|
|
LunaTikにiPod nanoをセットして腕に装着したところ。やや大ぶりだが腕時計そのものに見える
|
独立後に設立したMINIMALでは、マイクロソフト(Xbox 360)やデルなど、大企業をクライアントとする仕事をこなしているが、それでもやはり自分の美学や哲学を100%貫けることはなく、Kickstarterの力を借りて、自社ブランドでTikTokとLunaTikを作り出すことを決意したとのこと。
そのためか、iPod nanoの固定方法も、異なる2つの方式を同時に開発し、それぞれ利用する素材の特性を活かしたものに仕上げるという、贅沢な仕様となっている。
また、そもそもiPod nanoを腕時計的に利用するという発想は、標準で備わる時計機能と、本体背面のクリップから生まれたものだが、TikTokとLunaTikでは合体時の統合感を重視して、あえてクリップは使わない固定方法を採った。
「プレミアムウォッチ」とは、デザイナー自身がこの製品の特徴を表すために使っている言葉だが、実際にそういう雰囲気を出すために、iPod nano本体の仕上げに負けないディテールの作り込みが行われたことが分かる。
TikTok(左。39.95ドル)とLinaTik(カラーにより79.95〜89.95ドル)では、バンド部分は基本的に同一だが、ベゼルに相当する部分の素材とiPod nanoの固定方法が異なる(クリックで拡大)
|
|
TikTokの場合には、iPod nanoがそのままはめ込まれるように固定される。硬質ラバー/樹脂系素材の特性を活かした設計だ |
iPod nano用の時計バンドアクセサリでは、本体のクリップ機構を利用して留めるものがほとんどだが、TikTokではあえてクリップを使わずに、全体としての一体感が重視されている
|
|
一方のLunaTikでは、ベゼル部分はアルミ切削の分割式パーツとなっており、そこにiPod nanoを差し込むようにして固定する
|
パッケージや説明書に至るまで、デザイナー自身が吟味し、同種のアクセサリとは一線を画す出来になっているが、今後は、Kickstarterのようなサービスを利用して、B to Cのビジネスを行うことで、デザインのクオリティを保とうとするクリエイターやデザイン事務所も増えてくるのではないかと思われる。
ベゼルは、バンドの固定ネジによる共締めで固定される、シンプルかつ巧みな構造を採用した
|
|
LunaTikにiPod nanoをセットして腕に装着したところ。やや大ぶりだが腕時計そのものに見える(クリックで拡大)
|
|