大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
|
以前にこのコラムでも採り上げたJAWBONEのJAMBOXは、ポータブルなワイヤレススピーカーの世界に新風を吹き込み、充電式/Bluetooth接続/コンパクトなサイズ/豊かな再生音などの点で絶対的なベンチマーク製品となった。それ以降、他社の同ジャンルの製品にも、デザインや機能面で明らかにその影響を受けたものが目立っている。
The VAMP(http://thevamp.co.uk。49.99ポンド)もその1つだが、他製品がJAMBOXにない特徴を出そうとして防滴機能や耐衝撃性を付加するなど、プラスαの発想に基づくのに対し、こちらは要素をマイナスして、独自のポジションを築いている。
マイナスされたのはスピーカーであり、The VAMPは単体では音を鳴らせない。つまり、これは既存のスピーカーをワイヤレス化するアダプタなのである。こうしたアダプタは他にも存在するが、公称10時間駆動の充電式+4Wのアンプ内蔵であることやシンボリックなデザインを持つ製品は、The VAMPのみだ。
ボール紙の質感を活かしてエコロジカルな製品であることをアピールするパッケージは、各面がThe VAMPの楽しみ方を伝える役目も果たす。まず、好みのスピーカーを探し…(クリックで拡大)
|
|
The VAMPを接続して…(クリックで拡大)
|
Bluetoothを介して音楽を再生するといった具合だ。(クリックで拡大)
|
|
|
パッケージのイラストを見ても分かるように、The VAMPは、基本的に1つのスピーカーを接続して使う仕様になっている。配線を分岐すれば複数スピーカーの接続も可能だが、出力信号はあくまでもモノラルで、ステレオ再生には対応していない。
この割り切りもユニークだが、小さなスピーカーではいずれにしても本来のステレオ感は得られないことや、コスト面、そして、この製品が生まれた背景から、発案者のポール・コックセッジはモノラルで十分という結論に至った。
というのは、The VAMPという製品名を直訳すれば「妖婦」という意味だが、これはrevamp(修繕、修復する)という言葉にもかけている。つまり、古くなって、最新のデジタル機器と組み合わせて使われることのなくなった旧き良きスピーカーを蘇らせようというのが、そもそもの製品開発の動機である。
The VAMPが生まれたイギリスのロンドンには、数多くの古道具屋や蚤の市が存在する。そこで、気に入ったスピーカーを安く買ってきてこれにつなぎ、自宅で楽しんだり、パーティなどに持ち込んで鳴らしたら面白いだろうという趣向なのだ。
パッケージ内には、The VAMP本体のほか、取扱説明書、充電用USBケーブル、赤黒のワンタッチ式スピーカーケーブル、3.5mmオーディオジャックからmicro USB端子への接続ケーブル、磁石が付く金属面以外にtHe VAMPを固定したい場合に利用する丸いメタルディスクが含まれている。(クリックで拡大)
|
|
より、塊感のあるまとまった形に折りたたまれる。(クリックで拡大)
|
筐体のフォルムは、立方体を基本としながらも、1つの頂点をカットし、そこが底面になる設計だ。スピーカーの上に置くと、The VAMPが貫入して一体化しつつあるように感じられる。
シリコン素材で覆われたThe Vampは、基本的に各面が正方形を基本とする立方体のフォルムをしているが…(クリックで拡大)
|
|
1つの頂点をカットすることでフォルムの面白さを得ると共に、スピーカーなどの上に置いたときに、あたかもそこにめり込んで一体化しようとしているかに見える。(クリックで拡大)
|
また、古いスピーカーは当然ながらミニジャックを装備しておらず、昔ながらの2線のワンタッチ式端子による接続が一般的なので、The VAMPもそのための端子を備えている。さらに、初期のiPodなど、Bluetooth対応ではない音楽プレーヤーなどを接続する場合には、ミニジャックからThe VAMPのmicro USB端子につなぐことで、アンプ的な利用も可能である。
中心に、昔ながらのワンタッチ式スピーカー端子を備え、その周囲に(左、上、右の順で)電源スイッチ、充電や音楽ソースとの有線接続に使われるmicro USB端子、オーディオ出力用のミニジャックが配されている。(クリックで拡大)
|
|
もちろん、クラシックなスピーカーをつないでも楽しそうだが、こんな米軍放出品の弾薬箱を改造したスピーカー(非売品)もワイヤレスで鳴らせるようになる。(クリックで拡大)
|
The VAMPは、いわば、古い革袋に新しい酒を入れるような製品だ。最新技術を詰め込みながら、その成り立ちがロンドンという街の文化に根ざしているのは、とても興味深いと言えるだろう。
|