大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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今やアップル製携帯デバイスの中で、iPhoneやiPod touchにすっかり主役を奪われた感のあるiPod nanoだが、今回のモデルチェンジでは、動画の撮影はおろか再生機能も割愛し、同時に内蔵スピーカーも取り去って、小さくて楽しい音楽プレーヤー(+α)という原点に戻った製品となった。
一度付けた機能を外すというのは、他メーカーでは難しい判断だが、それをできてしまうところもアップルの強みだ。特に今回は、iPod touchにカメラ機能が付いたため、棲み分けを明確にしたということもあろう。
代わって付加されたのは、これまでiPod shuffleにのみ与えられていた裏面のクリップであり、ほぼ正方形のコンパクトなフォルムと相まって、完全にウェアラブルな製品へと生まれ変わった。
店頭に並ぶパッケージの段階からiPodならではのユーザー体験を打ち出す手法は従来通りだが、新型では小口断面を生かしたディスプレイ手法が新鮮に映る。
従来の樹脂ケースのテーマを継承しつつ、本体のフォルムに合わせて開口部が小口断面側に設けられたパッケージ。スクリーン部分には、画面表示を再現したステッカーが貼られている
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中には、本体のほか、イヤフォンやUSBケーブルが手際よく収まっている。本体は透明テープを使って樹脂プレートに巧みに固定されている
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正面を全面スクリーン化しつつ、頻繁に使うと思われるボリュームスイッチは物理的なものを独立して設けているのは、iPhoneやiPadなどと同様で、賢明な設計判断といえる。初代iPod touchでは、起動兼スリープオン/オフ以外はスイッチレスとした設計が使いにくさを招き、それ以降はiPhone以外のタッチデバイスにもボリュームスイッチを組み込むようになった。
筐体上部には、起動兼スリープオン/オフスイッチのほか、独立したボリュームスイッチ(+とー)が設けられた
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同じく底面には、ドックコネクタとイヤフォン端子が備わっている |
クリップは、ほぼ背面全体を覆うサイズでしっかり留められる反面、支点と指で押す作用点との距離が近めなので、広げる際に少しコツがいる。
この種の家電製品に付きものの種々の表示(原産国や認可マークなど)は、クリップで隠れる部分に印字されており、外観デザインを妨げない。同様に、切削加工で作られていると思われる筐体には一切の継ぎ目がなく、回路を入れた後でスクリーンでフタをする構造のようだ。さらに、クリップのバネもほとんど露出させないという具合で、こんなに小さな製品であっても、アップル製品ならではのデザインへのこだわりが随所に見られる。
新たに背面に付加されたクリップには、アップルマークがレーザー刻印されている。その他に表示が義務付けられている原産国や認可に関する表示は、クリップの下に位置しており、通常は目に触れることがない
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クリップの支点(赤丸内に拡大した部分)にはバネが組み込まれているが、縦方向に貫通する心棒の先端のほかは、横から見てもまったく露出がないという徹底ぶりだ
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一方で、インターフェイスに関しては、一見、iOSデバイスと同じに思えるが、物理的なホームボタンは設けずに、画面の長押しでホームに戻るようになっている。アイコンの長押しで震える表示にすると移動が可能になる仕様もiOSデバイスに準じるが、任意のアイコンを削除することはできない。
機能の遷移は、アイコンやリストのタップで行う部分と、左右のスワイプで対処する部分があり、慣れるまでは戸惑うユーザーもありそうだ。
1画面当たりのアイコン数は4つ、ページ数も4ページで固定。iPhoneなどと同じく、アイコンの長押しによって震える表示にすると移動が可能となる
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液晶画面は特に上下の視野角が狭いものの、そうした角度から見ることは少なく、実用上は問題ない |
標準状態での2ページ目のアイコン表示。ラジオは、イヤフォンのケーブルがアンテナを兼ねる仕様だ
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同じく、3ページ目のアイコン表示。壁紙は、この水滴イメージのほか、ジーンズ生地や水玉模様など9種類から選択できる
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同じく、4ページ目のアイコン表示。フィットネスは、標準の歩数計とオプションでNike + iPod Sport Kitをサポートする。オーディオブックとiTunes Uのアイコンは、登録データに応じて表示される
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スティーブ・ジョブズは、iPod nanoがマルチタッチ対応であることを強調したが、実際にマルチタッチ操作できるのは、画面の回転のみ。写真の拡大・縮小もダブルタップで行うようになっている。このあたりも、何がセールスポイントになり、何をするとやり過ぎになるかということをわきまえた仕様と言えるが、それにしても贅沢なマルチタッチの使い方ではある。
マルチタッチは、ある意味で非常に贅沢な使い方、すなわち画面の回転機能にのみ用いられる。例えば、クリップを上から差し込んだ場合、画面は横倒しになるが…
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2本指で画面を回転させることで、正立状態に戻すことができるわけだ。このためだけにマルチタッチがあるという機能の割り当てに驚かされる
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ちょっと考えると、写真アルバムの表示などにも、iPhoneやiPadのようなピンチアウト/イン操作による拡大・縮小表示機能があっても良さそうなものだが…
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サムネールからタップして1枚の写真イメージを表示した後は…
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最後に、あえてアナログ表示にこだわった時計表示は、正方形の画面とクリップ付き筐体の特性をうまく生かした機能だ。欲を言えば、この盤面のデザインをカスタマイズできるようになっていたら、さらに楽しめたことだろう。
例えば、針と曜日・日付の部分は変えられなくとも、盤面のみ写真アルバムからインポートできるような仕組みは比較的簡単に用意できるはずだ。ファームウェアアップデートの際に、そんな仕様が実現することに期待したいと思う。
ダブルタップによる拡大・縮小のみがサポートされる。おそらく、このような小さな画面でのピンチアウト/イン操作は、技術的に可能でも実用上は無意味と判断したためだろう
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すでに、時計ベルトなどと組み合わせるアイデアがネット中にいくつも見られるが、白地と黒地の文字盤が選べるアナログ時計機能は視認性も良く、重宝する
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