インドネシアの冷蔵庫売り場
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Domestic Design, Global Design.
世界の中の日本デザイン
このコラムではコンセプター坂井直樹さんに、日本のプロダクトデザインをグローバルな視点から眺めていただきます。ドメスティックな感性とグローバルな対応力が、デザイナーに求められているのかもしれません。
コンセプター。1947年京都生まれ。京都市立芸術大学入学後、渡米。サンフランシスコでファッションビジネスを立ち上げる。帰国後はテキスタイルデザイナーとして活躍後、1987年に日産から販売された自動車「Be-1」のコンセプトで脚光を浴びる。その後au design projectで数々の先進的な携帯電話のデザインをプロデュースする。慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科教授。
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今回は夏真っ盛りということでアジアの冷蔵庫をテーマにした。冷蔵庫にはそれぞれの国の食文化が直に反映されている。ドアの枚数、冷凍庫のレイアウト、色、置く場所などは国によってさまざまで、いわゆる白物メーカーはローカライズに苦労している。
●インド
インドでは数年前に「6,400円の冷蔵庫」が話題になった。やはりBOP(世界の所得別人口構成の中でもっとも収入が低い所得層)では価格は重要な要素なのだろう。この超低価格冷蔵庫は、インド・ゴドレジ財閥の家電大手が開発した「チョットクール」という製品だ(ちなみに「チョット」はヒンディー語で「少し」を意味するのだそうだ)。重量は8〜9キロ。コンプレッサーを使わず、「サーモエレクトリック」と呼ぶ電子冷却方式で庫内を5〜15度に保ち、野菜、果実、飲料を保冷できる。冷凍室はない。
機能を必要最低限に絞り込んだ仕様が、同じインドのタタ財閥が開発した自動車「ナノ」を想起させることから、「冷蔵庫版ナノ」と紹介しているメディアもある。インドでは、あまり冷蔵庫にモノを入れない家庭が多い。冷蔵庫の中は水と牛乳がほとんどだ。日本では「冷蔵庫は野菜室が重要」というのが常識だが、インドでは野菜は毎日近所で買ってその日のうちに食べるのが習慣なので、野菜を冷蔵保管する必要があまりない。
●中国
中国のキッチンは一般的に小さく、冷蔵庫を置くスペースがあまりない。中華料理は油を多く使用するため、油汚れの掃除を効率化できるよう、キッチンを小さく作る傾向があるという。パナソニックが従来販売していた幅60cmの冷蔵庫は、中国の調査対象の3割の家庭でキッチンに置くことができなかったが、幅55cmであれば、調査したすべての家庭に置けることが分かった。そこで、230リットルの容量で幅55cmのスリムサイズの冷蔵庫を販売したところ、同クラスの容量の冷蔵庫の販売実績はなんと前年の10倍に達した。
しかし、日本メーカーの中国進出以上に中国メーカーの躍進は凄まじい。その筆頭格が中国家電大手のハイアールである。日本経済新聞社がまとめた2011年の「主要商品・サービスシェア調査」によると、ハイアールは洗濯機(12.3%)、冷蔵庫(16.5%)ともに世界シェアのトップを独占し、その勢いのまま日本市場でも橋頭堡を築いてきた。
日本進出の際の戦略も巧みである。ハイアールはいきなり日本に攻め込むことはせず、2012年1月に三洋電機から洗濯機/冷蔵庫事業を買収して傘下に収めた。そのため、三洋が誇っていた「AQUA(アクア)」ブランドの技術力と人材をそのまま継承する形で認知度を上げ、自社ブランド製品との棲み分けをうまく図ることに成功した。
機能を最小限に絞り込んだインドの低価格冷蔵庫
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横幅が狭くスリムな中国の冷蔵庫
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●韓国
韓国でヒットした、生鮮野菜の保存などに最適とされる「キムチ冷蔵庫」は、その国の文化の独自性を商品開発に反映した成功例として有名だ。韓国の家電メーカーの大宇は、キムチ冷蔵庫「クラッセ」の海外販売にも力を入れている。海外に居住する韓国人が主なターゲットだが、同社の米国法人関係者は「キムチ消費の多い韓国人社会と日本人社会を中心にキムチ冷蔵庫の需要が高まっている」と述べており、キムチの人気が高い日本への輸出も2013年から積極的に推進する予定だ。
さらに調査会社のGfKとNPDによると、サムスン電子はフレンチドア(観音開き)冷蔵庫の世界市場で33.1%のシェア(金額ベース)を占め、LG電子(26.4%)、米ワールプール(12.3%)を抑え6年連続で世界シェア首位を維持した。サムスン電子は1997年に韓国でフレンチドア冷蔵庫を発売して以来、約130カ国・地域に輸出している。今やフレンチドア冷蔵庫はプレミアム冷蔵庫として世界市場にすっかり定着し、韓国メーカーの白物家電における躍進を象徴している。 ダイソンの掃除機を見ても分かるように、白物家電の領域は、デザインや技術の力でまだまだプレミアム化できる可能性を秘めた市場といえる。
キムチ専用の冷蔵庫もある韓国の冷蔵庫
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キムチ専用冷蔵庫のドアを開けてみる
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●東南アジア
東南アジアでは、中間層向けの冷蔵庫は、多くの国で価格の安い地場ブランドが売れ筋となっている。好みの色はインドネシアでは黒・紫・赤などの強い色で、ベトナムやフィリピンなどでは薄い色が人気だ。ただ日本ブランドの商品が全般的に優位で、ほとんどの都市では2万円前後で販売される150〜250リットルの2ドア冷蔵庫が主流となっている。
インドネシアでは、中・低所得者層の顧客ニーズとして、電力の供給容量が小さく、省エネ・低入力電源の商品が人気である。さらに冷蔵庫は大型の野菜庫が必要とされ、大きいサイズのペットボトルを大量に収納するなどこの国に特有のニーズが存在する。ただ、インドネシアでは冷蔵庫の普及率が2010年時点で35〜40%とまだまだ一般化しておらず、Facebookは使っていても冷蔵庫はない、という家庭もあるそうだ。
一方タイでは、冷蔵庫は1ドアタイプなら6,000バーツ(約15,000円)程度で購入できる。写真はパナソニック製の1ドアタイプの冷蔵庫だが、冷蔵庫を開けなくても冷たい水が出るウォーターサーバーになっている。灼熱の国タイならではの冷蔵庫だ。上部に水を溜められるようになっていて、3リットル程度なら軽く入る。ここでも「信頼できる」「使い慣れている」という理由で日本ブランドの人気は高い。富裕層の間では2ドアタイプが人気だが、個人の部屋用に追加で小型の1ドアタイプを購入するケースも見られる。タイは外食文化のため、食品を長期間保存することへの需要は低い。主に飲み物用として、冷蔵庫をリビングルームに置く家庭も多く、インテリアとしてデザイン性が重視され、カラーバリエーションも豊富である。
●日本
最後に日本だが、日本製の冷蔵庫は高機能かつ多機能が特徴的だ。たとえば高い省エネ基準達成率、全室ナノイー(水に包まれた微粒子イオンである「ナノイー」が冷蔵庫全室に循環することで、庫内を除菌・脱臭し食品を衛生的に保存する)、エコナビ運転(家庭の生活パターンを曜日や時間ごとに記憶・分析・予測し、当日の使用状況と併せて冷却効果や電力消費を自動でコントロールする)などが挙げられる。またカラーは99%が白に近いと言われている。
派手目な色が好まれる傾向の東南アジアの冷蔵庫
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大きなペットボトルを冷やすことに特化したインドネシアの冷蔵庫
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日本のパナソニックの最新型冷蔵庫
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