大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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かつて、10倍を超える光学ズーム機能を持つデジタルカメラは、L字型筐体を持った、いわゆるネオ一眼的な製品の独壇場であった。しかし、光学設計技術がさらに進化した結果、それらのハイエンドコンパクトデジカメは20倍超のズーム域へと移行し、代わって直方体がベースの一般的なボディ形状を持つ製品が10〜12倍のズーム域をカバーするようになってきた。
キヤノンのPowerShot SX200 IS(以下、SX200 IS)は、35mm換算で28mmからの光学12倍ズームレンズをポケットサイズの筐体に収めた製品。CCDの解像度は高ければそれで良いというものでもないが、同クラスの製品が軒並みオーバー1,000万画素のスペックをセールスポイントに挙げてきている中で、このカメラも12.1メガのものを搭載し、充分なマージンを確保した。
IXY DIGITALのような小型化重視の製品と比較すればボディは大柄(突起部を除き103.0×60.5×37.6mm)だが、それだけの高倍率ズームを屈曲光学系なしに実現していることを思えば、十分にコンパクトだといえる。
SX200 ISの正面。大口径のレンズを強調し、他の要素をシンプルにまとめることで、12倍ズーム機であることを強く印象づけており、レンズカバーは6枚羽の巧みな設計だ。カラーは、光の当たり方で上品なブラウンにも見えるウォームブラック。他に、ボルドーレッドがある
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12倍ズームレンズを収めるため、サイズは突起部を除いて103.0×60.5×37.6mmとコンパクトモデルの中ではやや大きめだが、断面形状の工夫により視覚・体感的な厚みを抑え、ホールド感も良好だ。手前のクロームパーツの上部カバーの中にA/V端子とHDMIのミニコネクタを装備する
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キヤノンのコンパクトデジカメラインは、伝統的にIXY DIGITALシリーズとPowerShotシリーズに分かれている。
前者がどちらかといえば嗜好品的なカメラの魅力を高めるデザイン傾向を持つのに対し、後者は価格重視のモデルから性能重視の製品までバラエティに富み、型番ごとに個性の異なるデザイン展開が行われてきた。
SX200 ISでは、高倍率望遠レンズを収めるために必然的に大型化するボディのボリューム感を視覚的、体感的に軽減し、クラスに見合う高級感を醸し出すことにデザインの主眼が置かれている。
上下の角を丸めたことや、ツートーンカラーの採用によって視覚的な厚みが薄れ、ボディの一部を前方に反らせて構成したグリップは、大げさな感じを与えずにホールド感を向上させる。背面にも親指をしっかり当てるための凹みがあり、安定して構えられることも、体感的な重みを減らす上で貢献している。
一方で、ストラップホール側の側面やシャッターボタンのクローム仕上げは高級感の演出につながっており、落ち着いたボディカラーと相まって、強い主張はないものの独自の個性を作り上げた。
上部から見ると、右手グリップ部分を前方に反らせた形状にして握りやすくしていることが分かる。また、電源投入時にはレンズがここまで繰り出す(左が広角端、右が望遠端)。鏡胴を2段式にすることで、これだけの光学系を厚み37.6mmの筐体内に収めているのだ
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機能面に目を向けると、SX200 ISはハイアマチュア好みの細かい設定も可能ながら、オート機能も充実させたオールマイティな1台を目指した製品だと分かる。
例えば、続く作例はプログラムモードを選び、ほとんどカメラ任せで撮影したものだが、目立った破綻もなく美しく撮れている。そして、同じ位置からズームを最望遠側(35mm換算で336mm)で撮影してみると、その性能の高さを気軽に使えることのメリットを如実に感じられる。
実際の使用シチュエーションで言えば、展示会などでの気になったアイテムのメモ的な撮影から、建築物のディテールに至るまで、広範囲な撮影状況をカバーする実力がある。
広角端での大阪城の撮影例。プログラムモードでの撮影だが、露出のバランスも良好で、手前の池の底から雲が浮かぶ青空まで、良好に描写されている
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池の対岸にいる2人の子供を望遠端で捉えてみた。12倍ズームの威力が感じられるイメージだ。撮影時に露出補正をかければ、左の子供の白いシャツの白飛びも抑えられただろうが、これはこれで周囲の緑が映える1枚だ
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同じく望遠端による天守閣のイメージ。たまたま伊丹空港に向かう旅客機も写っているが、極端な歪みもなく、露出も的確だ
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さすがにこれだけのハードの駆動と筐体の小型を両立させる上では、乾電池ではなく専用充電池が採用されているが、フル充電での撮影可能枚数の公称値は約280枚なので、日常使用には十分であろう。
底部のカバーを開けると、専用充電池とSDカードスロットが表われる。もはや、あまり意味はないかもしれないが、SDカードのラベル面は撮影者の側(現状とは反対側)に向く設計のほうが、撮影途中での確認が行いやすいと思われる
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見た目だけでなく、実際の作りもしっかりしており、ネジの露出を極力少なくした設計や、ポップアップ式ストロボの作り込みも、高品位感に貢献している。
構造上、シルバーの帯状パーツは側面でネジ留めされるが、黒い本体パネルのネジ留めは底面で集中して行い、目立つ場所には極力ネジを露出させないデザイン。側面の手前角に設けられた複数の穴はスピーカーホールだ
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ストロボユニットのポップアップ動作は凝っており、上面のシルバーパネルの一部が常にユニット後端を覆うように動く。これは、ストロボ発光部がなるべく前端部の高い位置にくるようにヒンジのリンク設計を行い、しかも本体とのギャップが生じないようにしたためと思われる
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さらに3.0インチサイズの液晶ディスプレイは、写真の再生に適したサイズと画質を備えており、iPodのスクロールホイール的な機能を持つコントロールホイールと画面内の動きの作り込みによって、操作して楽しいユーザーインターフェイスに仕上がっている。
FUNC/SETの文字のある操作スイッチの周囲(ローレット風の滑り止めのディテールがある部分)が、指先で回転できるコントロールホイールになっている。これを利用すると、例えば再生時の画像をiTunesやiPodのカバーフローのように連続的に表示することが可能になる
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その他の操作系も分かりやすく作り込まれており、その選択時にもコントロールホイールを利用することで、アイコンや機能の選択などが楽に行えるようになっている
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高倍率ズームと筐体のコンパクトさや、高機能と手軽さなど、相反する要素を1台のデジタルカメラに盛り込んだ場合、ともすれば欲張りすぎてバランスを欠く製品になることもある。しかし、SX200 ISはそれらを見事に調和させ、一眼レフとは異なるモバイルな万能機が生み出されたと言えるのではないだろうか。
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