大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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従来、iPhoneやiPad向けのスピーカー製品は、ドックコネクタを利用したものが大半だった。そうすることで、Made for iPod/iPhone/iPadの認定が得られ、特定のユーザー層にアピールしやすくなるからだ。
しかし、Bluetooth接続のポータブルスピーカー「JAMBOX」(http://www.assiston.co.jp/?item=2129)をデザインしたfuseprojectのリーダーでジョウボーンのCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)でもあるイヴ・ベアールは、独自の観点からドックコネクタを採用しなかった。それは、ドック式スピーカーがiPhoneやiPadを単なる音源にしてしまい、音楽再生の間、他のインタラクションができなくなるためだ。
また彼は、イヤフォンを使って1人で楽しむことが普通になった音楽を、再び多人数で共有できる存在にしたいと考えた。そこで、ジョウボーンの技術陣の協力を得て、持ち運びが容易なサイズで最大限の音量と音質を実現することを目標とし、JAMBOXを完成させた。突起物を最小限に留めたスムーズな直方体の筐体は、このようにして生まれ、4つのカラーとスピーカーグリルのパターンによって個性が与えられている。
名刺と比べても、そのコンパクトさが際立つJAMBOXとそのパッケージ
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基本形はシンプルな直方体。スピーカーグリル部分は塗装された薄いステンレスシートであり、上面と下面は弾性素材のキャップになっている
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電源スイッチを除けば、操作ボタンは3つだけ。それぞれ、○、−、+の形をしており、詳しい説明がなくても、とりあえず触れて押してみることで、その機能が分かる仕組みだ。
また、シンプルさを追求してディスプレイすら内蔵されないため、バッテリーの充電量や操作に関わる情報は音声によってユーザーに伝えるようになっており、MyTALKと呼ばれる専用Webサービスを通じて、その文言を含む機能やファームウェアのアップデートが可能な点も画期的と言える。
電源スイッチ以外に、操作ボタンはこの3つだけ。あえて筐体上に説明書きはないが、左からファンクション呼び出し、ボリュームダウン、ボリュームアップの機能を持つ
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側面には、上から電源兼Bluetoothペアリングスイッチ、ケーブル接続時用の入力端子、充電およびMyTALKからのアプリダウンロード用USB端子が備わる(クリックで拡大) |
スピーカーグリルは、当初、4枚あるいは2枚のパネルで構成することを考えていたそうだが、最終的には1枚の薄いステンレスプレートにパターンをプレスした後で折り曲げて、継ぎ目が1カ所にしかない構造を実現することに成功した。
カラーバリエーションは4色あり、それぞれにグリルのパターン(上から、ダイヤモンド、ウェーブ、ヘックス、ドット)も異なるものが用意されている(クリックで拡大)
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前面の2つのフルレンジユニットと背面のウーファーユニットが作り出す最大音量は、そのコンパクトでシンプルな外観からは想像できない85デシベル。サイズを考えれば音質も素晴らしく、ホームシアター的な用途にも対応できる。
パッケージ裏に書かれた最大音量の目安は、バイク音とロックコンサートとの中間的な85デシベル。内蔵充電池による連続再生時間は10時間である
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JAMBOXは、サードパーティ製品としては初めて、充電量インジケーターをiPhoneの画面上に表示することを許された。これはアップル社の協力なしには実現しない機能であり、同社がJAMBOXのデザインと性能を認めて、純正品並みの待遇を与えたことを意味している。
アップルの技術協力により、Bluetooth接続されたiPhoneの画面には、JAMBOXの充電量のインジケータ(赤い矢印部分)が表示される。この機能がサードパーティ製品に開放されたのは、JAMBOXが初めてだ(原稿執筆の時点では、iPadはこの表示機能に対応していない)(クリックで拡大)
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しかも、JAMBOXは単なるスピーカーとして機能するだけでなく、マイクも内蔵しており、Bluetooth接続された携帯電話に着信があれば、ハンズフリーのスピーカーフォンとしても利用できるのだ。
JAMBOXは、iPhone側の電話の着信を受けてハンズフリースピーカー&マイクとして利用できるほか、ファクションボタンを長押しするとiPhoneの音声コントロール機能が立ち上がり、設定されていればボイスダイヤルで電話がかけられる
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パッケージまでアップル製品並みの細心さを持ってデザインされており、すべての付属品にラベルが付いて取り出しやすいようにしてあるほか、ケーブル類などは一度取り出すと戻すのが難しくなるほど、最小のスペースに要領よく収められている。
また、付属品は汎用品ではなく、すべて専用にデザインされており、キャリングケースに至るまで一切の手抜きがない。
製品本体のみならず、グラフィックスからパッケージまですべてをデザインするイヴ・ベアールらしく、ケーブルなどの付属品の収納もしっかりと考えられている
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USBケーブル、筐体色とマッチしたカラーの音声ケーブル、ACアダプタまですべて汎用便は使わず、専用にデザインされている。一番手前はキャリングケース
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伸縮性素材で作られたキャリングケースは、折りたたまれた状態ではフラップ部分がマグネットで固定されている
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そして、内部にJAMBOX本体を収納したときには、異なる位置にあるマグネットキャッチによってフラップが固定される仕組みだ
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音声ケーブルコネクタの形状も、ケーブル断面に合わせたフラットな端からプラグ側の円形までをスムーズにつないだ凝ったデザイン
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パッケージラベルに記された“Designed in San Francisco”の文字は、アップル製品の“Designed in California”に倣ったものと思われる。今後、デザインに誇りを持つ他の製品の間でも、こうしたラベル表記が増えるのかもしれない
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JAMBOXの製造は中国で行われており、それによって19,800円という(内容を考えれば)低価格が実現された。しかし、そのパッケージラベルには、象徴的に“Designed in San Francisco”の文字が見られ、アップルと同じくイヴ・ベアールも、これからは、どこで作られたかよりも、どこでデザインされたかが重要だと考えていることが分かる。
JAMBOXも既存の技術の組み合わせによる製品だが、その組み合わせ方や、製品の方向性の着目点がユニークであり、結果として従来にない革新的な製品に仕上がっている。技術とデザインを結び付ける開発手法において、ジョウボーンはアップル社並みの体制を敷いていると言えるだろう。
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