大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodを作った男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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この連載のテーマは、モバイルデバイスのデザイン分析だが、そのような切り口の記事が成り立つということは、取りも直さず、我々がそうしたモバイル機器に囲まれた日常を送っていることに他ならない。
個々のデバイスにはそれぞれ固有のデザインチームが存在する一方で、上記のような日常そのものに対してアプローチしようと考えるデザイナーもいる。The Sanctuaryをデザインしたドミニク・シモンズは、後者に属するクリエイターだ。
自分自身が複数のモバイルデバイスを使いこなすユーザーでもあるシモンズは、それらのデバイスや身の回りの小物(鍵束や腕時計など)を煩雑にならないように管理し、かつ充電できるソリューションを探していた。そして、自らThe Sanctuaryを作り出したのである。
あくまでも充電される機器が主役であることを暗示するシンプルなトレイ型のデザイン。本体カラーは、ホワイトかブラックの2種類
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既存のモバイルデバイスの充電ソリューションとしては、各機器に付属のACアダプタを格納するタイプのものは存在したが、それではどうしてもサイズが大型化しがちだ。普段、持ち歩くべきものを玄関近くやリビングなどにコンパクトにまとめて置けるようにするために、シモンズは大胆な解決方法を採った。市場に存在する主要なモバイルデバイスのコネクタを揃え、接続機器に合わせて電力を自動調整して充電するというものだ。
固定の11種類のコネクタは、The Sanctuaryが販売される国に応じて組み合わせが異なり、日本でも国内で普及している携帯電話のバリエーションにマッチするものとなっている。また、その中には、ミニUSBやマイクロUSBが含まれており、さらに12番目のポートとしてフルサイズのUSBも用意される。
最後のUSBポートは、内部の電源供給が独立しているため、要求電力の大きなiPhone 3Gなどを専用充電ケーブルを使って単独で接続するなどの用途に向いている。そのためのケーブルをまとめるフックのようなディテールも内部に設けられており、見えないところまできれいに整理できる。
内部は、11種類のコネクタを持つケーブルが変圧部から伸びるが、使用時には、必要なものしか見えず、スッキリした外観となる
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電源として内部回路が独立している12番目のポートには、USBケーブルの直接接続が可能。ケーブルもきれいにまとめられる
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電源部を共用する11本の充電ケーブルは、もちろん総容量が限られているので、すべてを同時に利用することはできないが、ここでもThe Sanctuaryは巧みにデザインされている。
まず、一般に充電時の要求電力は機器の大きさに比例していることが多いため、小さなデバイスであれば同時充電数が多く、大きなデバイスでは少なくなる。そこで、モバイルデバイス3〜5個分の大きさを持つトレイの面積が、サイズの面から自然に同時充電数の上限を規定する。
そして、内部にある緑のインジケーターランプが、総充電量が定格内であれば点灯、定格を超えると点滅状態になり、最後に接続した機器を外すように促すのである。
緑色のランプは、総充電容量チェック用のインジケーター。点灯状態にある限り充電機器を追加できるが、点滅状態になったら最後に接続した機器を外すなりして調整する
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The Sanctuary自体のACアダプタ。独特の形状は、おそらく、海外仕様のコンセントに合わせたモデルと外装を共用しているためと思われる
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外観がシンプルなので、19,800円という価格は、やや高めに感じられるかもしれない。しかし、各デバイスに標準で付いてきたACアダプタは出張や旅行用にとっておき、予備のアダプタを購入することを思えば十分にリーズナブルだ。
そして、要素を加えることよりも、可能な限り余計なものを省いて目的の機能を達成することがモダンデザインだとすれば、The Sactuaryは、それだけの価値と機能を持ったデザインの見本だといえるだろう。
ニンテンドーDSや、前回採り上げたPNDのガーミンnuvi 250、iPhoneを充電中の図。余ったスペースを腕時計や鍵束の定位置にしても良い
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トレイの底面はブラックとタンのリバーシブルになっており、好みやインテリアに合わせて選択可能だ |
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