moviti/片山典子
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com |
|
こんにちは、梅雨前の晴れ間をなんとか活かしたいですね。6月の旭川産地展で2年前にデザインしたhaikuソファの1人/3人掛けバーションが発表されます。他、1点物オリジナルを作る仕組みの企画をトライします。
**
6月10日まで銀座松屋でこういう展示をしています。先日須藤玲子さんと柴田文江さんのカジュアルなトークイベントがあったので行ってきました。
http://www.nunoworks.com/main/news.php
http://www.matsuya.com/m_ginza/exhib_gal/details/20130515_nuno.html
http://www.wwdjapan.com/life/2013/05/25/00004607.html
布=肌/自然と親和性の高い人工物。さらに一般のテキスタイルより質感や透け具合、張りや触感を感じる。布には表裏、凹凸があり2Dというより3D的だ。
概して男子より女子はカラフルな布が好き、端切れや色とりどりの糸があるだけでテンションが上がるもの、手芸魂が刺激されるのか。会場も女子率高し、でも男性もぜひ見ていただきたい。
プロダクトデザイン男子でもNUNOはAXISに載ったりショップがあったりしているのでご存じだと思います。もう30年だそうです。立ち上げた新井淳一さんの展示も先日ありました。オペラシティの大空間に金属や蒸着、二重織りのバリエーションや、60年代テイストなダイナミックでごつい男性的な布の展示。
https://www.operacity.jp/ag/exh148/
今回のnunoの展示、30年で数千種ある過去に作った布達から330種選んで2枚(白/カラー)の大きなタペストリーに仕立ててある。等身大でちょっとフォークロアな(モンゴルのテントのような)展示。チャーミングな模様がいっぱいで、はしゃいでしまう。
どうやって作っているのか? 壁には"族(綿、獣毛、石油系など)"分類と技法のマトリクスが貼ってある。私はスカーフデザイナーの黒石恵子さんと行ったので解説してもらった(持つべきものは友だわー)。
「"水に溶ける紙"を基材にして刺繍やテープ縫製をして、あとから水につけると生地の紙が溶けて刺繍やテープだけで構成されたレース状のができる」って。すごいちょっと化学実験のようだ。溶けると素材の張りの強さによって縮んだりちぢれたりする。偶発的にも見えるし、実験で得た結果のようにも見える。おそらく布の出来上がり寸法も結果オーライになるだろう。その素材本位の結果オーライが「有機的/オーガニック」な印象に?がっているのだと思う。
フリーハンドのひと筆書きで描いたような刺繍を長尺の布に連続させる、刺繍のミシン針のパスにフリーハンドを反映させるにはどういうプロセスを経ているのか? CAMのパスを規定するみたいな工程があるのかなあ。
他にもニードルパンチ(毛足のある布を針束で刺してからめ、フェルトのようにする)や編み込みセーターの裏のように糸が渡るように織った後で糸をランダムに切っていくとフラットな布のあちこちから糸がひょろひょろと出た布などなど。
基本となる技術は10余りだが、バリエーションの量がすごい。いわゆる競争相手のあるフィールドで戦ってない、オリジナリティ勝負の過去の自分が競合なのだろう。手仕事以上に手の痕跡 という言葉の通り。厳密には工場と手作業を組み合わせてできる可能性、知恵の痕跡なのかもしれない。
須藤さん他nunoのメンバーは常に「なんでも布デザインに見える」その中からやってみたいデザインが沸いてくる、のだそうだ。プリミティブで子供のように素直なクリエイティビティが原動力の活動が、仕事として成り立っている。
産地の工場の職人が「オレを動かしてください」と言うのだそうだ。なんかそれ分かる、私も「この道何十年の職人をぽっと来たデザイナーが動かそうってんだから、やる気にさせる面白いことを見つけたい」と思うもの。
さらにnunoはショップがあり、布だけでなく製品やワークショップを行っている。私も一度参加した。おそらくそのときの会話やお客様の布の合わせ方などからまたヒントをもらったりしているのだろう。元々着物作家志望だったそうで、形に決まりがある分、素材や柄で"個"を表現する、という意識が強いのだなあと感じた。
これから3Dプリンタや3D切削で1人ひとりに合ったプロダクツを製作販売するようになる世の中になるかもしれない。もちろん体格などのサイズオーダーもあるが、個人を表す、個人が愛着をもつディテールをもつフォルムを1品製作していくのがプロダクトデザインでも可能になる、という流れもできるだろう。
こうして30年間、アート/クラフト/デザインの境界で、アンテナを澄ませて少女のように軽やかに仕事をする女子デザイナーの歩き方に憧れるなあ。
|