芝 幹雄
1983年多摩美術大学デザイン科卒業、GKインダストリアルデザイン研究所に入社。1990年株式会社GEO設立に参加、医療機器の設計とデザイン、その他産業機械の設計を手がける。2007年3月独立、株式会社SHIFT設立。同社代表取締役。
http://www.shift-design.jp/ |
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●プロダクトデザイン業界は不況に強い?
いつの間にか見渡せば周りは、世界同時不況の話題であふれかえっている。いろいろな業種でその影響が出始め、お先真っ暗といった雰囲気がテレビのニュースを通して広められている。特に製造業は今回の不況の影響をもろに受けているようである。そしてその製造業とのつながりなしには成り立たないプロダクトデザイン業界にも、やがて波は押し寄せてくることと思われる。
しかし、ある部分ではプロダクトデザイン業界は不況に強いという定説もある。その理由は単純なものである。つまり不況だからといってすべての経済活動が停止するわけではなく、そんなときこそ誰しも新たなチャンスを探し回る。また産業界の中にも不況の時こそ強みを発揮する業種も存在し、またほとんど影響を受けない業種もある。医療業界などはその良い例といえる。
フリーランスのデザイン事務所の場合、クライアントは何か新しい試みをしたいという意志をもつ前向きな企業が多く、そうでない企業にはいくら営業に行っても仕事の1つもでてこないものである。
しかし、この話はいろいろな業種に関わりを持ち、地道な活動をしているデザイン事務所に限定される。またそのような事務所は、不況の影響を受けにくい変わりに好況時の影響も少ないものである。かつてのバブル時代がそうであった。
堅実なモノ作りを志すデザイン事務所の多くが、外タレデザイナーに仕事を奪われたものであるが、その代わりに今までデザインを外注したことのないクライアントが増え、結局プラスマイナス0という結果で、景気の浮き沈みの変動期にクライアントの入れ替わりはあるものの、結果として経営にさほど影響を及ぼすには至らなかったのである。
ただしこれは今までのこと、今回のような100年に1度と言われるような規模の経済危機は誰も経験したことがないわけで、世界中の経済活動が同時に凍結してしまうような事態になればどうなるかは分からない。
ではどうすれば良いのかと問われれば、もともと景気にあまり左右されない業種なのだから今までどおり堅実なモノ作りをより深く志向していれば良いのではないか、としか言いようがない。バブル期に恩恵を受け派手な活動をしていた多くのデザイン事務所、そしてその次に多角的な経営を始めた事務所は、バブル崩壊と共に姿を消していった。
あの時生き残ったほとんどの事務所は、堅実なモノ作りを着実に行っていた事務所だった。
足元を固めておかなければ地道な活動も堅実なモノ作りもできない。とは言ってもそんな思いがはっきりと自覚出来るようになったのはここ10数年ほどのことである。
●エンジニアリングの領域へ
10年ほど前、デザインの領域からエンジニアリングの領域に踏み込もうと決意した。決意したといっても、ある日突然そう思ったわけではなく、「こうではないか」という思いと、そう思ってからの数年の活動の結果から固まっていったものといったところである。
そして、それから10年以上を経てそれはようやく確信となっている。やはり堅実に、そして責任感のあるもの作りを志向するのであれば、プロダクトデザイナーはもっとエンジニアリングの領域に踏み込むべきである。
筆者は美大出身であるから、当然エンジニアリングに関しての基礎的な教育など受けていない、しかしそんなことは関係ない。実務を行いながら学ぶことは大学の教育などの比ではない。分からないことはインターネットで調べることが簡単にできる便利な時代である。そして得られた知識を実務の経験から体系化できれば、専門書を何冊読むより力となる。そうして今ではある分野では、どんなエンジニアにも負けないという自信を持てるに至っている。
ただし、得られた知識をそのまま散乱せたままではただの雑学にしかならない。またネット上の情報は専門書に比べ信憑性が低いことも多く注意は必要であるが、専門書より新しい情報が得られるのも確かである。興味があることに関しては出来るだけ幅広く知識を得るべきであろう。
興味がなければ難しいかも知れない。しかし、美大出身者には工学部出身者にはない大きなアドバンテージがあることを知ってもらいたい。それはデッサンができることである。デッサンは物の見方そのものの訓練であり、それができていれば頭の中で、いろいろなかたちを思い浮かべ、組み合わせ、動かしてみることができるようになる。それはまさに頭の中に3D CADをインストールしたよなものである。そしてデッサンの習得はエンジニアリングの基礎知識の習得より難しいと思う。
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