大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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今も地球上には、電気のない地域がかなり広範囲に存在する。そのような地域では、灯りや調理を燃料に薪を使う原始的なコンロに頼ることが多く、不完全燃焼による一酸化炭素中毒による死亡事故も少なからず起こっている。
BioLite(http://biolitestove.com)は、元々、そうした事故を未然に防ぐ目的で、理想的な燃焼状態を作り出し、さらに熱エネルギーを利用した発電も可能なHomeStove(家庭用の薪コンロ)からスタートした。
CampStoveは、その小型版として、名前の通りにキャンプなどでの調理や、携帯電子デバイスへのUSB給電を主目的に開発された製品だ。
したがって、デザイン的にも携帯性を重視して、燃焼筒と発電機部分を分離でき、前者の中に後者をすっぽり納めて持ち運べるような構造が採られている。
黒い袋は筆者が100円ショップで買い求めたものだが、携行時のCampStoveは、このように発電機部分を燃焼筒の中に入れ、さらに全体を付属のキャリングポーチに入れて持ち運べるようになっている。(クリックで拡大)。
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燃焼筒は本体部分がステンレスで、折りたたみ式の3本脚スタンドがアルミ製。電気回路を内蔵しないので、水洗いが可能で、食洗機にも対応している。
一方で発電機部分は水没は不可だが、洗剤を含ませた布で清掃できる耐熱樹脂性の外装を持ち、燃焼中でも熱くなりにくいこの部分を握ることで、CampStoveを移動することができる。
ただし、耐熱とは言え、炎が直接当たればダメージを受ける可能性が高いので、風がある場合には、発電機部分が風上側になるように置くことが推奨されている。
発電自体は、特許技術の熱エネルギーの直接交換システムによって行われ、蒸気タービンこそないが超小型の火力発電所といった感覚だ。CampStoveを組み立てた状態では、発電機部分から伸びたヒートパイプが、燃焼筒の上部中央部分に突き出す形となる。
また、発電機部分には充電池と電動ファンも内蔵されており、このファンによって燃焼筒内に空気を送り込むことで、理想的な燃焼状態が得られるように工夫されている。このため、最初の(あるいは長期間使用しなかった場合の)使用前に、USBケーブルをつないで充電池をチャージしておく必要がある。
しかし、この充電池はあくまでもファンの駆動用で、USBポートからの給電は熱による発電でまかなわれる。
発電機を取り出したところ。燃焼筒はステンレス製で食洗機でも洗え、発電機部分の外装は耐熱樹脂で作られている。そこから後ろに伸びた銅色のパーツ(赤丸で囲った箇所)は、熱を伝導によって発電機に送り込むヒートパイプだ。(クリックで拡大)
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発燃焼筒と発電機は、このように合体する。燃焼中は、矢印のように発電機内の電動ファンが筒内に強制的に空気を送り込んで燃焼効率を大幅に向上させる。(クリックで拡大)
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燃焼筒と発電機部分の合体時のロック機構がなかなか良く考えられており、使用中に不用意に外れないように工夫された構造となっている。
合体時の固定方法が秀逸だったので、その部分を拡大してみた。発電機側の突起が、燃焼筒の折りたたみスタンドの基部と噛み合い…(クリックで拡大)
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…その部分をスタンドパーツがカバーすることによってロックされる仕組みになっている。使用中にスタンドがたたまれることはないので、意図せず分離するような事故を未然に防ぐことができる。(クリックで拡大)
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燃料は、どこにでもあるような小枝で構わず、それが筒の中に縦に並ぶことによって燃焼効率の向上にも貢献しているように思われる。点火して火が回った頃合いに電動ファンのスイッチを入れると、空気(酸素)が強制的に供給され、目に見えて燃焼の勢いが増す。送風口や経路は、空気が燃焼筒の内部で渦を巻くように設計されている。
ファンの強弱を切り替えることで、火力の調整ができる。
組み立てられたBioLiteと燃料となる木の枝。枯れた木の小枝などが最適で、非常に効率良く燃焼させることができる。(クリックで拡大)
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点火して10秒ほどしたところで、電動ファンのスイッチを入れ、低速で空気を送り込むと盛んに燃え始める。
(クリックで拡大) |
少し燃焼が進んだところで再度スイッチを押すと、ファンが高速モードになり、さらに強い火力を得ることが可能となる。(クリックで拡大)
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燃焼効率の高さは、1リッターの水が4分半で沸くという性能にも表れている。ヒートパイプが十分に熱せられるとUSB給電が可能となったことを示すインジケーターバーが緑色に発光するようになる。
USB給電機能は、連続で2W@5V、ピーク時には4W@5Vの定格出力を持ち、要求電力の大きなスマートフォンでも、燃料を絶やさずに最大燃焼状態を保つことで、断続的な充電が可能となる。
1リッターの水をわずか4分半ほどで沸かすことができ、この小型のエスプレッソ用ポットの場合には、下部の水タンクの圧力が高まって上部に蒸気が送り込まれるまで3分程度だった。(クリックで拡大)
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電源ボタンの下方には、電動ファンの動作モード(低速か高速)を示すインジケーターランプとUSBポートがあり、ポート上部のバーの色で充電を開始できるだけの発電量があるかがわかる(緑になれば充電可能だが、写真はまだ途中段階であることを示す)。(クリックで拡大) |
湯を沸かし終えた頃、iPhoneを充電できる状態となった。要求電力の大きなスマートフォンの場合、充電が断続的になるとの説明がマニュアルに書かれているが、このまま燃料となる木の枝を補えば、満充電まで持っていくことも十分可能であることが伺えた。(クリックで拡大)
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筆者は時々、自転車関連雑誌の取材で飛行機を利用した輪行キャンプに出かけるが、旅客機には当然ながらキャンプストーブやバーナーのための液体燃料やガスボンベを持ち込めず、スーツケースなどに入れて預けることもできない。
そして、もしも燃料なしで製品のみを持って行き、現地調達でガソリンやガスを確保して利用したとしても、帰りにタンクやボンベが空になっていなければ、やはりセキュリティチェックに引っかかる。
しかし、BioLite CampStoveであれば、このような心配が一切なく、まさに移動手段を問わずモバイル用途に供することのできる製品に仕上がっている。もちろん、災害時にも大いに役立つことは間違いなく、その意味で、さまざまな施設に常備されてもおかしくない、考え抜かれたコンセプトとデザインだと言えるだろう。
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