倉方雅行
プロダクトデザイナー。1958年東京都生まれ、東京造形大学卒業。有限会社セルツカンパニー代表取締役、monos inc.専務取締役COO。東京造形大学、武蔵野美術大学、法政大学、明星大学、昭和女子大学講師。
http://www.seltz.co.jp/
http://www.monos.co.jp/ |
|
前回は、観察力の重要性を語った。実った果実を眺めるのではなく、実る過程を発芽から含めて観察する大切さを述べてみた。次にこの「解析力」では、その結果得られた観察経過の情報から、自分なりのキーワードを抽出することを考えてみよう。
一口に解析のキーワードといっても、開発関係者のさまざまな視点からそれを語ることができる。デザイナー側、作り手側、流通側、そして生活者側。それらの視点からのキーワードの多くは、ときとして相反するところに位置する場合がある。
デザイナーは今までにない、または今まで以上のデザインクオリティのモノを考え出そうと、命題に対して得られた情報を解析する。一方、とき同じくして、例えば流通側も自らの立場での解析をしている。市場に出るモノは同じモノであるはずだが、ここで繰り広げられる内容は、まったく違ったモノである場合がとても多い。
例えば、とてもきれいなこだわりの樹脂成形製品の開発情報のキーワードとして、デザイナーは「美しく流麗」などと考えたとする。しかし、それを実現するためには、形状によっては高度な金型と十分な射出成形技術と時間が要求され、価格は高くなる。だが、そのときに流通側が「市場への普及」と考えた場合、それらの部分が小売価格という点では、結果的に相反してしまうことになる。そこで歩み寄りをし、お互いが解決できる内容で納得することが開発を始めるための必須条件となる。
それを解決する方法の1つに、私は以前からキーワード探しに5W1Hの手法を使っている。簡単にいえば、ある架空の人物を想定して、その人物がそのモノを手にする状況ストーリーを作り上げてみるのだ。さらに、その人物をデザイナー側としての自分以外の関係者と共有する。そして、得られた情報から、その人物だったら、キーワードとして何を思い浮かべるだろうと考えるのである。つまり、そこで出てきたキーワードは、開発関係者の間では大きなブレは生じにくくなり、それぞれの場面での関係者がその人物の立場になってその要求を考え、立場になって応えることが可能になる。
そうして、関係者間で大きな外れがなくストーリーやキーワードが共有できてきても、デザインアイデアが出てくるにつれ、細部でつじつまが合わなくなることが起こってくる。そのときには、現在持っている情報だけでなく、他の情報に目を向け、耳を傾けることの大切さに気がつく。そして、それらを今の情報とどのように融合させ利用するか、それが、次回にお話しする「応用力」につながっていく。
|