大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
|
このところ、ポケットサイズのプロジェクターを採り上げることが続き、特にDPL方式の製品の小型化には目を見張るものがあった。その一方で、いわゆるモバイルプロジェクターと呼ばれるB5サイズクラスの製品も、筐体サイズや内部設計の余裕を活かして大きな進化を遂げている。
今回は、2009年6月発売予定のソニー製データプロジェクター「VPL-MX25」を採り上げて、そのデザイン面と使い勝手の工夫を見てみることにする(なお、試用したのは量産前のデモ機であり、製品版とは細部が異なる可能性のあることをあらかじめお断りしておく)。
VPL-MX25は、0.63型でXGA解像度(1,024×768ピクセル)のLCDパネルを3枚用いた製品で、3LCD方式のプロジェクターとしては厚さ約45mmという業界最薄のサイズを達成している。
また、筐体素材へのマグネシウム合金の採用で、軽量化(約1.7kg)と強度の確保を両立させ、突起の少ないボディ形状と相まって、携帯時の収納性と耐衝撃性を両立させた。
さらに、ソニー独自の無機配光膜を採用した「BrightEra with Long Lasting Optics(ブライトエラ ウィズ ロング ラスティング オプティックス)」と呼ばれる新開発の光学ユニットを搭載することにより、高輝度化(同モード高:2,500ルーメン、ランプモード標準:2,000ルーメン)と長寿命化も実現されている。
VPL-MX25と付属のリモコン。マグネシウム合金製筐体のサイズと重量は、突起部を除いて273×45×206mmと約1.7kg。厚さ45mmはLCDパネル採用の機種では業界最薄とのこと。発売は6月を予定
|
|
このようなキャリングケースがバンドルされ、リモコンやケーブル類のアクセサリ一式をスマートに収納して持ち歩くことができる
|
デザイン的に見ると、正面は、インナーズーム方式によって出っ張ることがないレンズ部のカバーを、あえてレンズ自体よりも大径にして上端をカットした処理が、視覚的な薄さを一層印象づけている。
背面も、上下面からそのまま連続するようにゆるいカーブを描くシルバーのパネルが、ダークグレーの薄い帯状のスイッチパネルに収束することで、やはり視覚的なスリムさが強調された造形だ。このディテールは、持ち運びの際に手にフィットする断面形状にもなっており、エッジが指や手のひらに当たることなく、楽に持つことができる。
レンズ部は透明パネルでカバーされており、携帯時にも、使用時にズームを利用しても出っ張ることがない。また、XGAの文字のあるパネル(見る角度で色が変わる)の中にリモコンの正面受光部がある
|
|
背面にはスイッチ類が配され、左半分にはメインスイッチや入力ソース切り替え、メニュー、PIC MUTING(映像の一時非投影)ボタンが並ぶ
|
同様に右半分には、オートフォーカス、ズーム/マニュアルフォーカス、ティルト/歪み補正の各ボタンと、ジョイスティックタイプの選択スイッチがある。左右の中心には、リモコンの背面受光部が位置している
|
|
この背面の形状は、垂直な平面ではなく、上下方向にゆるいカーブを描いている。この造形とカラーリングがVPL-MX25の視覚的な個性であると同時に、ここに手を掛けることで移動時に持ちやすくなるというデザイン上の配慮にもなっている
|
ほとんどのプロジェクターがケーブル端子を背面に設けている中で、VPL-MX25ではスクリーンに向かって右側面に配する選択が行われた。これは、プレゼンルームなどでプロジェクターよりも後ろに座った人に、ケーブル類が目障りにならないようにとの配慮によるものだ。
ただし、部屋の配線の都合などで、スクリーンに向かって左側から電源や映像のケーブルを這わせる場合には、かえって取り回しが長くなる場合もあり、一長一短とも言える。それでも、この配置のおかげで前述の背面パネルの造形が実現したことを思えば、評価に値するレイアウトと言えよう。
その一方で、反対の側面に設けられた2連の排気ファンは、それなりの風や音を発生するため、こちらの側に座った人にとっては、少々邪魔に感じられるかもしれない。
投影面に向かって右側面の後方にまとめられた端子類は、上段が左からUSB、ビデオ、VGAで、下段は電源入力。普通は背面に配置されるが、後ろから見て目障りにならないように、この位置が選ばれたという
|
|
逆の左側面には、排気ファンが2基付いている。排気音はそれなりのレベルだが、パワーオフ後、すぐにケーブルを抜くことのできる「パワー&ゴー」に対応後する。ただし、キャリングケースに入れる場合には、十分冷えてから行う必要がある
|
使い勝手の面では、スイッチオンでチルト角からフォーカス、台形歪み、映像ソースの選択をフルオートで行う、アドバンストインテリジェントオートセットアップ機能が魅力的だ。モバイルプロジェクターを使う目的は、あくまでプレゼンテーションそのものにあって、プロジェクターを使うことではないので、このような全自動化もユーザー体験のデザインの一部としてとても重要に感じられる。
アドバンストインテリジェントオートセットアップ機能により、電源ボタンを押すだけで本体がチルトアップ。フォーカス合わせから、Vキーストーン(垂直方向の台形歪み)の補正、映像ソースの判別と切り替えまでをすべて自動で行い、投影スタンバイの状態にしてくれる
|
|
|
投影画面の明るさやコントラストなどの基本性能の高さはもちろんだが、広角レンズ設計による投影距離の短縮化や、USBメモリ内および無線LAN接続されたWindowsコンピュータ内の各種データファイル(JPEG、Microsoft Office PowerPoint/Excel/Word、Adobe PDF、WMV)を変換なしに直接再生できる点なども、最新機種らしい仕様であり、これからのモバイルプロジェクターの1つの指標となる製品と言えるだろう。
部屋の照明を落とし、カーテンから外光が多少透過する状態での投影では、もちろん問題なくくっきりとした投影イメージが得られる
|
|
2,500ルーメンの明るさによって、天井の照明(一般的なオフィス環境よりやや暗め)を点けた状態でも、投影画面は十分な視認性を保つことができる
|
彩度が高くメリハリの効いたこれらの投影画像は、画質モードで「プレゼンテーション」を選ぶことで得られる
|
|
広角レンズ設計により、約2.4mの投射距離で80インチサイズの投影画面が得られる。写真は、一般的な画角のプロジェクター(手前左)と比べて、同一サイズの投影を得るためのスクリーンからの距離の違いを、感覚的に示したもの
|
なお、VPL-MX25の価格はオープンだが、市場想定価格は23万円前後と言われている。USBと無線LAN機能を省いた廉価版のVPL-MX20も20万円前後で先行発売されているものの、約3万円の差であれば、VPL-MX25の機能性は大いに魅力的だ。そして、できればWindowsのみならずMac OS Xでの無線LAN接続にも対応してもらいたいものである。
|