大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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手回し発電やソーラー発電、あるいは振って発電するタイプの懐中電灯は以前から存在したが、同じハンドクランクスタイルでもイケアがペッパーミルを思わせるデザインのフラッシュライトを安価(499円)で販売したり、充電池の代わりにキャパシタを利用することで充電に伴う労力と時間を大幅に短縮(30秒のツイストで4〜5分点灯)したエバーブライトという製品も登場するなど、価格や構造面でのバラエティが拡大している。
そんな中で登場した「liminAID(以下ルミンエイド)」(3,360円)は、手間のかからないソーラーパネルを利用しつつ、周囲を照らす配光特性を重視。発展途上国での室内外照明としての用途から、災害時の灯り、アウトドアにおけるレジャーユースまで幅広く使えることを目指したLEDランタンである。
元々、2010年のハイチ地震に心を痛めた2人のコロンビア大学生が企画し、3年の歳月を経て本格的な量産が開始された製品であり、約5時間の太陽光充電で5時間(読書や作業用の強)から8時間(安全灯向きの弱)の点灯を実現する。
携帯時のルミンエイドは手のひらサイズ。一般的な懐中電灯8個分の容積に50個のルミンエイドを収納できるため、災害用品の備蓄や救援物資の送付の際などにもスペース効率が高い。表側の面積の半分弱がソーラーパネルで覆われている。(クリックで拡大)
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たたんだ状態を保つために、樹脂製のホックが設けられている。開発当初はなかったディテールとのことだが、別体のバンドなどで固定するよりもスマートで便利だ。この部分の出っ張りが、販売時のブリスターパックのアクセントにもなっている。(クリックで拡大)
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機能上のポイントは、周囲に光を拡散させるデフューザーの存在と携帯性を両立させたことにある。
懐中電灯ならばある程度のスポット光でよいが、ランタンとして利用するには光が全周に広がる必要があり、しかも人間の情緒面に考慮するとLED本来の点光源的な特性が感じられないほうが適している。既存の一般的なLEDランタンでは、硬質樹脂製のシェードを設けることで光を拡散させているが、それでは筐体が懐中電灯並みの太さになってしまう。そこでルミンエイドでは、薄いソーラーパネルと、筐体を空気マクラのように膨らませることで使用時のみシェード的に働く機能性を組み合わせたソーラー・インフレータブル・テクノロジーを開発。見事に問題を解決した。
また、回路をPVC素材でカバーすることにより、構造は単純だがIPX7(日本工業規格の規定する電子機器の防水性能に関する等級で「防浸形」を意味し、特定条件下で一時的に水没しても浸水せず機器に悪影響が出ない)相当の防水性を確保している。水中での利用は想定されていないものの、水に浮かべてイベントなどでの幻想的な演出に用いることも可能だ。
デフューザー(光の拡散機構)部分を広げると、携帯時の約8倍程度の面積になる。(クリックで拡大)
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発・蓄電部と発光部は、完全にPVC素材のデフューザー内に密閉されており、IPX7相当の防水機能を有する。ただし、完全防水ではないため、水中での使用は不可とされている。(クリックで拡大)
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操作インターフェイスも極力単純化されており、スイッチは1つだけで、2段階の照度(読書や作業用の強と、安全灯向きの弱)とオフが順次切り替わるほか、赤いLEDのインジケータランプで充電状態を示す仕組みになっている。
操作インターフェイスはシンプルで、メインスイッチ(照度2段切り替え)と充電状態を示すインジケータランプ(赤色LED)のみ。(クリックで拡大)
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ちなみに、日本や欧米では、たとえば浮き袋の空気の吹き込み口には逆止弁がついているが、発展途上国ではこのような機構に慣れていない人が大半であるため、ルミンエイドにはあえて逆止弁を設けず、キャップを開けるとそのまま空気が抜ける構造が採用された。こうしたディテールも、既成概念に捉われずに市場をゼロから見つめ直すことで生まれている。
広げた状態のルミンエイドを裏返したところ。手提げにしたり、フックやロープなどで固定できるように、上部に穴が設けられている。(クリックで拡大)
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空気が入っていない状態では、照明用の白色LEDは、ほぼそのままの点光源にしか見えない。(クリックで拡大)
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空気を入れてデフューザーを膨らませると、本体自体も、すりガラスの向こうにあるかのように見えなくなる。(クリックで拡大)
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この状態で点灯すると、このように光が拡散し、周囲を明るく照らせるようになる(肉眼では、もう少し全体的に白く見える)。(クリックで拡大)
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メーカーでは、ソーラー・インフレータブル・テクノロジーを応用した製品ラインを拡充していく予定とのことで、今後、どのようなプロダクトが産み出されてくるのかが楽しみである。
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