大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
|
すでに20万本に迫る勢いのiPhone/iPod touchアプリの中には、優れた楽器系アプリも多く含まれている。中でも、マルチタッチ機能を生かしたギターやキーボード系のアプリは、音色から微妙な余韻に至るまで再現されたものまであり、実際の楽器は使わずにiPhone/iPod touchのみの演奏を多重録音をして作品を仕上げてしまうアーティスト(http://www.youtube.com/watch?v=a-jhElp6WJs)なども出てきた。
しかし、楽器の場合、実は演奏時のスタイルや気分も重要である。iPhone/iPod touchを片手に演奏すると、ともすれば往年のトニー谷(http://www.youtube.com/watch?v=vWxPh7W9dtA)のようになりかねない(それはそれで1つの芸風だが)。
そこで、楽器アプリをきちんと楽器的に弾けるように開発されたのが、トリニティのEvenno(エベンノ)ブランドから5月に発売予定の「Fingerist(フィンガリスト)」(14,800円/http://www.evenno.com/jp/fingerist/fingerist.html)だ。
Evennoは、元MacUser誌編集長の松尾公也さんの発案により、トリニティ(株)、(株)バード電子、iPod Styleの共同プロジェクトとして立ち上げられたブランドで、手作りのウッドボディを持つ「EZISON 100」(http://shop.bird-electron.co.jp/shopdetail/006001000026/)がプロトタイプ的限定バージョン、Fingeristが樹脂ボディの量産バージョンという位置づけになっている。
筐体素材以外の両者の違いとしては、前者がイヤホン接続で外部出力がないのに対し、後者はドックコネクタ接続で外部アンプなどにもつなげる点が挙げられる。趣味性の高さでEZISON 100、より幅広い実用性ではFingeristということになろうか。
Fingeristは、専用キャリングケースも含めて、まさに1つの楽器として販売されるiPhone/iPod touchアクセサリだ。
Fingeristは、刺繍ロゴ入りで格納式ハンドルを装備した専用キャリングケースに入って販売される
|
|
ファスナーを開けると、分厚いスポンジに守られた本体が現れる。実際には、ボリュームスイッチ周辺とネックの右端部分を保護する、小さなスポンジブロックも付く。ストラップも付属し、ユーザーはiPhone/iPod touchと電池のみ用意すればよい
|
ギター系アプリを起動したiPhoneがセットされた状態のFingerist全体形。木目調の部分は樹脂製だが、落ち着いた感じの仕上げになっている
|
|
|
デバイスの着脱機構もうまく考えられており、ドックコネクタが基部をヒンジとしてポップアップするので、そこにiPhone/iPod touchを差し込んで、筐体と面一になるように倒す。すると、窪みの底部にある板バネがデバイスを押し返してくるので、ストッパーをスライドさせて固定する仕組みだ。
iPhoneとiPod touchでは厚みが異なるため、2種類のシリコン製スペーサーが付属しており、これらはデバイスをFingeristに装着しないときにもプロテクターとして利用できる。
iPhone/iPod touchとの接続はドックコネクタを介して行われ、コネクタ部分のポップアップ機構とデバイスが収まる窪みの底部にある板バネにより、着脱を容易にしている
|
|
厚みの異なるiPhoneとiPod touchをフィットさせるために2種類のシリコン製スペーサーが付属する。将来モデルにもスペーサーの追加で対応できる設計だ
|
iPhone/iPod touchの上端は、スライド式のストッパーによって固定される
|
|
|
実際にマルチタッチ対応のギターアプリなどを演奏する場合、iPhone/iPod touch単体では本体を支えながらコードを押さえることが難しい場合もある。これに対し、Fingeristと組み合わせると、全体をストラップで吊り下げた状態でネック部分に軽く手を添えながら運指ができるため、演奏に専念することが可能となり、アプリが対応していれば加速度センサーによるワウ効果もネック部分の振りによって誘発可能となる。
このあたりは、松尾さん自身による模範演奏例(http://www.youtube.com/watch?v=q7zlw0DTNlU)を見れば、理解しやすいだろう。
例えば、Pocket Guitarなどの楽器アプリを使うと、マルチタッチで実際にコードを押さえる感覚で演奏できる(写真は、分かりやすいように上から押さえているが、実際にはネック部分を握って演奏する)
|
|
|
その他のインターフェイス(ボリュームノブや外部出力端子)の位置関係はエレキギターに準じており、全体サイズと演奏法(Fingeristの胴体部分ではなく、あくまでもiPhone/iPod touchの画面上でピッキングなどの操作をする)は異なっても、ギター的な感覚で利用できる。
演奏時の右手を降ろした位置に電源スイッチ兼ボリュームノブがあり、側面には外部アンプなどにつなげる出力端子も備わっている
|
|
内部スピーカーと外部出力端子の切り替えは、筐体上部のスライドスイッチによって行う |
電源は単三電池3本。EVENNO(エベンノ)というブランド名は、カタカナを右から左に読むと由来が分かる
|
|
|
個々の楽器の形状には、それぞれの歴史や進化が培ってきた理由があるわけだが、iPhone/iPod touchというマルチな音源と、伝統的なギタースタイルの融合は、携帯する楽器に新たな1ページを加える存在として大いに期待できると言えるだろう。
|