大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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3Mと言えば、貼ると見えなくなるスコッチテープや、簡単にはがせる付箋紙のポストイットなど、アイデアやコンセプトに優れた文具系の商品による知名度が高い。しかし、実際にはオフィス用エレクトロニクス機器の分野でも、オーバーヘッドプロジェクターや、超接近投影が可能なウォールマウントタイプのデジタルメディアシステムを開発・販売してきた歴史がある。
その3Mが、プロジェクターの小型化に興味を持つのは、ある意味で当然だったかもしれない。
より携帯電話に近いサイズとデザインを持つOptoma PK101に比べ、もう少し縦長で厚みのあるMPro110は、独自の面構成とツートーンのカラースキームを持つ外観が特徴だ。シルバーとブラックというコントラストの効いたカラーリングと、周辺部を僅かに厚み方向に湾曲させることで、筐体を薄く見せる効果を得ている。
造りはしっかりしており、一部報道で試作機の弱点とされたフォーカス調整ノブやVGA端子回りのガタつきは感じられず、量産モデルでは組み立て精度も上がっているようだ。特にフォーカスは、ノブの位置やギヤ比の関係もあって、PK101よりも調整が行いやすかった。
ファンレス設計にするための放熱口もデザインディテールとして組み込んだ全体形は、新しい映像ツールというイメージの打ち出しに成功しており、この分野に進出した3Mの意気込みが感じられる。ただし、モバイル用途を想定しているのであれば、バッテリー以外の電源に専用コネクタを採用せずに、USB給電に対応させてACアダプタもUSB仕様とするほうが便利だったと思う。
長さ115mm×幅50mm×厚さ22mmのMPro110は、前回のOptoma PK101よりも12mm長く、7mm厚いが、それでも十分に小さい。バッテリー込みで約160gという重量は、見た目が小さいだけに、意外と重みを感じる
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左側面には電源スイッチのみが配されており、照度切り替えはない。シルバーとブラックのツートーンカラーで構成された筐体は実際以上にスリムに見える視覚効果を生み、質感もそこそこ高い
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右側面には、AVアダプタからのケーブルを差し込む電源ポートがある。内蔵充電池で約1時間の連続投影が可能だが、モバイル用途なので、できればUSB給電にも対応してほしかったところた
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本体後部には、ミニプラグ仕様のビデオ入力端子と専用の小型コネクタを使用したVGA端子が用意される。VGA端子のすぐ上に見えるスリットのようなものは、電源オンや充電時のインジケーターランプだ
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直径11.9mmのレンズは奥まって配置され、指が触れにくい構造。レンジ左上のボリュームのようなものがフォーカス調整ノブで、位置や形状、ギヤ比の関係からOptoma PK101よりもピント合わせは行いやすい
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筐体の長さや厚みは、VGA入力の回路を含めたことや、光学エンジンにDLPではなく反射型LCDを用いるLCOS(Liquid Crystal on Silicon)を採用したことから決められたと考えられるが、それでも、VGA/コンポジットビデオ両用のポケットプロジェクターとしては最小の容積に収まっている。
また、空間的な余裕を活かして標準的な三脚穴も内蔵された。メーカーサイトのイメージビデオでは、手に持って投影することも想定されているが、やはりテーブルの上などに固定して使うケースも多いはずであり、そのまま三脚が取り付けられるのはありがたい。
その一方で、付属の専用VGAケーブルはプロジェクター本体のサイズを考えると径が太く、ポケット三脚などで位置決めをしようとしても、ケーブルの反力で動いてしまうことがあった。ノイズ対策などもあろうが、もう少し細くしなやかなほうが、使い勝手は向上するはずだ。
底面には、標準的な三脚穴が設けられている。シルバーの部分がバッテリーカバーであり、開けるためにはネジを1本外す必要がある。放熱用のリブやスリットを多数配したことでファンレス設計が実現されたが、それでも投影中や直後に触れると、多少の熱を感じる
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ノイズ対策などのために同軸仕様のものを採用した結果と思われるが、同梱の専用VGAケーブルはやや太め。本体が小さく軽いため、照射方向を決める際にケーブルの弾性がやや邪魔に思えることがある
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肝心の投影性能に関しては、解像度の点でVGA(640×480ピクセル)をクリアし、コンピュータとの接続を実現した一方、照度や色再現性、コントラストの面では、DLP方式のPK101(480×320ピクセルでビデオ入力のみ)に一歩譲る印象を受けた。
3Mは、DLP方式のプロジェクターも手がけているので、さまざまなファクターを考慮した上でLCOS方式を採用したはずである。例えば、販売台数もその理由の1つではないだろうか。
PK101にも採用されているDLP方式のPico光学エンジン(テキサスインスツルメンツ製)の量産体制は、2008年の下半期に整ったばかりで、まだ大量の需要を満たせるところまできていないようだ。そこで、3Mとしては生産台数を確保するためにも、あえてLCOS方式を採用したものと推測される。
MPro110はPK101よりもやや広角の投影が可能であり、例えば、スクリーンから1.8m離れて投影した場合の画面サイズは、PK101の45インチ相当に対し、MProでは48インチ相当となる。
3Mは、投影距離と画面サイズ、および推奨される使用環境(利用場所の明るさのレベル)の関係を、MPro110紹介のサイト内で公開しているので、それを参考に自分の使用目的に合うかどうかを確認するとよいだろう。
解像度をとるか、カラーの画質をとるかは難しいところだが、iPhoneなどからの写真イメージが中心の投影であればPK101、ノートPCを使ったテキスト・数値データやグラフが主体の投影にはMPro110といった棲み分けが考えられる。
加えて、PK101には0.5Wの小出力ながらスピーカーが内蔵されているが、MPro110では外付けのスピーカーを利用することになる。音声再生不要のプレゼンテーションもあり、コンピュータを利用する場合にはそちらの内蔵スピーカーから音を出せるので、これも用途によって見極めることになろう。
MPro110に関する問い合わせは下記URLへ。http://www.mmm.co.jp/vsd/customer/mpr.html
Optoma PK101よりもやや広角の投影が可能(スクリーンとの距離が同じでも、画面サイズは大きくなる)で解像度が高い反面、色再現やコントラストではやや劣るように感じられた
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コンピュータからの映像出力に直接対応できる点が大きなポイント。投影画素数は640×480ピクセルだが、入力自体はVGA、SVGA、XGAをサポートしている
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プレゼンテーション画面の例。640×480ピクセルでも、この程度のテキスト量と文字サイズならば十分に判別できる。プレゼンテーションの基本から言っても、これ以上情報を詰め込んだ画面は、かえって逆効果とも言えるわけだが
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一般的な白い壁(右半分)と市販の高輝度スクリーンによる見え方の違い。後者のほうが明らかに彩度やコントラストが高く、見やすくなる。できれば、携帯型のスクリーンを持ち歩いて使いたい
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