大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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アメリカでは、以前に紹介したKickstarterのサービスを利用して、これまで需要予測が立てにくく、製品化が難しかったアイデアがいろいろと現実化している。今回、採り上げるGoPano micro ( http://www.take-online.jp/shopdetail/091006000001/。10,500円)もその1つであり、iPhoneのアクセサリとして360度のVRビデオ撮影を可能とするものだ。
1つの画像の中で、見る方向をインタラクティブに変更できるVR(バーチャルリアリティ)のイメージは、1990年代からQuickTime VR技術などにより、パーソナルな環境でも作成や再生が可能となっていた。しかし、機材や撮影の手間という面では、一般的なカメラと専用雲台を用いて複数枚撮影したり、180度以上の画角を持つ高価な魚眼レンズを一眼レフに取り付けて2枚の撮影を行ってスティッチ(「縫い合わせ」の意)合成するなど、手軽とは言えなかった。
最近では、専用レンズアタッチメントを取り付けて360度VRビデオ撮影可能なソニーのBloggyが市販されたこともあったが、ビデオデータをコンピュータに吸い上げてからの変換作業が必要で、即時性や簡便さに欠けるものだった。GoPanoにも、市販のデジタルカメラのレンズに取り付けるタイプの製品があり、解像度的には有利だが、Bloggyと同様の難点がある。
これらに対してGoPano microは、iPhone 4/4Sに取り付けるアタッチメントの形式を採ることで、iPhoneの処理能力の高さを利用して撮影自体をVR表示の画面を見ながら行え、保存・再生・専用サイトへのアップロードまでを完結できるソリューションとして開発された点に大きな特徴がある。製品は、iPhoneに装着する専用ケースと、ケースと合体するVR撮影用アタッチメントからなり、携帯時にはアタッチメントを外して付属の袋に入れるようになっている。
GoPano microの核となるVR撮影用アタッチメントと、携帯用に付属するマイクロファイバー製の袋(クリックで拡大)
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アタッチメント自体は樹脂製で逆円錐形状をしており、上部の隙間から入った光(周囲の光景)が三次曲面の鏡面に反射し、内部の透明カバー(ホコリが侵入しないためのバリア)を通って、下端のiPhoneカメラと接する部分にドーナツ状の像として降りてくる(実際に結像するのはCMOS面だが…)(クリックで拡大)
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パッケージ内には専用のiPhoneケースも同梱され、これに対してアタッチメントが結合する。プロテイン塗装のしっとりした触感で、滑り止め効果のある表面処理が施されている(クリックで拡大)
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アタッチメントの位置決めが重要なだけに、ケースもなかなか考えられており、分割式ながら、噛み合わせの部分を曲線で構成した上で凹凸をはめ込むことにより、剛性を確保している。また、アップルマークの部分に空けられた穴が、本体グリップ時の指がかりとしても機能する。外す際には、はめ込まれた凹凸部分を爪などで持ち上げることで分離できるが、ややコツが必要だ。
ケースとアタッチメントの結合は固すぎず緩すぎず、安定して取り付けられ、簡単に取り外せるものの、脱着の頻度が高いため、長期の使用による摩耗の心配は残る。
2分割式のケースは、巧妙な噛み合わせにより、はめやすく、しっかりと固定される。外すにはややコツが必要だが、アタッチメントの位置決めが重要なので、その点を優先した構造といえる(クリックで拡大)
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ケースとアタッチメントの結合部。ケースの穴に対して、アタッチメントの出っ張りの形状は意図的に歪ませてあり、はめ込んだときに弾性と摩擦で固定されるようになっている(クリックで拡大)
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アタッチメントを結合すると、iPhoneから潜望鏡が生えたような印象になる。個人的には、結合部を人差し指と親指で握り、手のひらでiPhoneの上部をグリップするスタイルで撮影することが多い。なるべく目立たせないための工夫である。
iPhoneにケースを装着し、アタッチメントも合体したところ。やや高さがあるため、撮影時には結構目立つことを覚悟する必要がある(クリックで拡大)
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その裏側の様子。本体部分をグリップすると、人差し指を引っ掛けるのにちょうど良い位置に、アップルマークが見える穴が来る。ただし、筆者は少し持ち方を工夫している(本文参照)(クリックで拡大)
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専用アプリはApp Storeから無料でダウンロードできる。撮影・保存・VRビデオ専用のGoPanoサイトへのアップロード、他のユーザーの映像再生が1本で可能であり、シンプルだが、使い勝手良くまとまっている。特にアタッチメントと撮像素子の中心を合わせるキャリブレーションが自動で行われ、撮影時にもリアルタイム変換された動画イメージを画面に表示できる点は特筆に値する。
筆者が撮影したサンプル映像は、< http://www.gopano.com/person/kazugraph >で閲覧可能だ。
App Storeから無料でダウンロードできる専用アプリGoPanoの起動画面。サインインしなくても利用できるが、当然ながら撮影はGoPano micro購入者のみが行える(クリックで拡大)
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ほとんどのデジカメと同じく、iPhoneのカメラ部の製造時の公差でCMOSの取り付け位置に僅かなバラツキがあるので、専用アプリにはその差を自動的にキャリブレーションする機能が設けられている。図で中心部の円がダルマ状に重なっているのは、まだキャリブレーション前の状態だからだ(クリックで拡大)
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撮影自体は、他のビデオカメラアプリと同様に簡単に行える。つい、目的の被写体を写そうとしてiPhoneの向きを変えてしまうが、実際には360度が映っているので、その必要はない。また、撮影中でも画面のスワイプで表示される部分を変えることができる(クリックで拡大)
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撮影したビデオは、このようなパノラマイメージのサムネールでリスト化される。動画を選択すれば、フルスクリーン表示され、再生やGoPanoサイトへのアップロードが可能となる(クリックで拡大)
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デジタルカメラ業界では、高画素・高画質化を追う従来からの流れが一段落し、立体撮影やスイングパノラマ撮影など、イメージそのものの意味づけを拡張する方向を模索する動きが強まっている。360度のVRビデオも、インスタント・リアリティとでも呼ぶべき映像世界を作り出す存在として、今後の発展が期待できるだろう。
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