大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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●機能に見合うデザインが欲しい使える電子ペン
ハイテク機器や電子ガジェットというと、すぐにアメリカや日本、韓国などが技術先進国として思い浮かぶ。しかし、文字認識や画像処理、暗号に関する高度な軍事技術を擁するイスラエルも侮れない存在だ。
そこから派生したアイデアは、これまでにも、ペン型のスキャナ内蔵辞書などの民生品として結実している。そのイスラエルの技術を使って作られた電子ペンが、今回採り上げたMVPenだ。
この製品は、付属ソフトの機能に差があるもののWindows/Mac対応のハイブリッド製品(MVPen:12,600円)と、Windows専用の有線タイプ(MVPen PC:7,980円)が販売されている。ここでは、筆者の私物でもあるMVPenを紹介する。
基本的には、機能面では素晴らしく、完全に実用になる製品なのだが、デザインからはその先進性が感じられない。その意味で、モバイルデザインの反面教師としてピックアップした次第だ。
レシーバー(上)とペン本体からなるMVPen。後述のように機能は素晴らしいのだが、今ひとつ垢抜けないデザインが惜しい
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使用する紙は、A4縦サイズ以下の方形紙であれば自由。Windows XPでは、クリップ式のレシーバーを紙の角に装着しても機能するが、VistaやMac OS Xでは上部中央付近にセット。ペンは、形状や太さ自体は一般的なものと変わらず、使用時の違和感はない
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入力は、内蔵充電池で駆動されるレシーバーをA4縦サイズまでの紙やノートにセットし、普通のペンと同じように、MVPenでその上に文字や図形を描いていく。この簡便さは、逆に機能面での不安を感じさせるほどだが、実際の完成度は非常に高い。
この種の電子ペンは、従来、紙の下にデジタイザを敷く必要があったり、微細パターンを印刷した特殊な専用紙を用いる必要があった。しかし、MVPenではミントケースサイズのレシーバーと専用デジタルペンのみで事足る。用紙も、ボールペンに適した紙質ならば市販品で良く、紙の色も関係ない。
その秘密は、超音波技術を使った防御兵器の研究成果から生まれたトラッキング技術にある。ボタン電池駆動のMVPenは、線を描いている間に超音波と赤外線を発しており、それをレシーバーで受けることで、三角測量の原理によってペン先の位置(軌跡)が高精度に記録されるのだ。
そして、レシーバーのLCD横にある白い丸ボタンを押すことで内部的な改ページが発生し、再び白紙状態からメモを追加していくことができる。
レシーバーのスイッチ(白い丸ボタン)の長押しで電源が入り、そのままペンで文字や図形を描いただけで、リアルタイムに情報が蓄えられる。レシーバーはUSB給電の充電式。ペンはボタン電池で約90時間(通常の利用で3ヵ月程度)連続使用できる
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ページをめくって書き続けるとき、あるいは同一ページ内でもデータを区切りたい場合には、レシーバーのスイッチを短く押す。すると、ページナンバーが加算され、それ以降の筆記が別のページとして認識される
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ここでは、レシーバーのほうでバーチャルなページめくりをしつつ、あえて同じ紙の上に図形情報を追加してみた(クリックで拡大)
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レシーバーには、A4サイズの平均的なメモ書きデータが50枚分以上保存できる。コンピュータへの転送は、USBケーブルを接続して行い、自動的に転送処理が完了する。そして、ページごとにTIFFイメージとして保存され、プレビューアプリなどから利用可能となる。
また、レシーバーをUSBケーブルで接続したまま、MVPenをマウスとして利用することもできる。このマウスモードでは、タブレットを使用している感覚でポインタを操ることが可能となり、グラフィックツールを使った描画にも対応する。
USBケーブルでコンピュータ(この場合にはMac)に接続すると、自動的にレシーバー内のデータが転送後に消去され、描いた線はTIFFデータとして保存される。これを開いてみると、最初のページに描いた線はこのように表示された(クリックで拡大)
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そして、同じ紙の上に描いても、バーチャルなページめくり後に描かれた線は、別ページとして保存されていることが分かる。細かいニュアンスの線まできちんと拾われており、これだけでも実用性は十分だ(クリックで拡大)
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同梱されるWindows版のソフトには、フリーハンドの筆跡(図、表、記号含む)から文字認識を行ってテキストデータを得ることができる。フリーハンドメモからの文字認識率は驚くほど正確で、崩れすぎた字でなければ、英語と日本語が混在していてもかなりの精度で認識される。
それだけに、少しの努力でレシーバーとペンの外装デザインを良くすることができたはずであることを思うと、残念で仕方がない。日本の文房具(筆記具)を見れば分かるが、限られたコストの中でも、かなり水準の高いデザインが実現されている現在、次期MVPenでは、その点にも力を入れてもらいたいものだ。
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