倉方雅行
プロダクトデザイナー。1958年東京都生まれ、東京造形大学卒業。有限会社セルツカンパニー代表取締役、monos inc.専務取締役COO。東京造形大学、武蔵野美術大学、法政大学、明星大学、昭和女子大学講師。
http://www.seltz.co.jp/
http://www.monos.co.jp/ |
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前回、解析力の項で、最後に関係者間の情報やキーワードの共有に、つじつま合わなくなることが出てくることがあると語った。例えば、デザインアイデアの膨らみに満足が得られないことが起てきたり、関係者の誰かに次の構想が広がってくると、持ち合わせている共有情報ではその隙間を埋めにくくなる。
そうしたときには、その案件以外の、まったく異なる情報を取り込んで、これまでのものに融合させて違うアプローチを試みる。そのときに必要な力が「応用力」だ。この応用力と次回で説明する「展開力」はかなり近い面があるが、前者は既存のアイデアを何か他に流用したりすることを指し、後者はそのことからさらに一歩進んで、新たなアイデアを生み出すことである。
応用力は、問題解決を客観的に行う際に発揮される。簡単に言えば、「知恵」とでも言うのか、違うアイデアの融合を利用して問題を解決することに似ている。容器に孔を開けてザルとして使う、空き缶をカップの代用にする。そうした行為は、本来の目的以外の役目を果たすために一工夫を凝らしたり、機能目的を究極に絞り込むことで、役割を果たそうとしている。
ごくありふれたアイデアでも、もしかしたらここに使えるかもしれない、などと考えることが応用力であり、次に来る展開力の基礎的な部分として重要度はかなり高い。
では、具体的にどのようにすれば、応用力が鍛えられるか。それは簡単ではなく訓練的要素が必要となる。
例えば、山中で水場を見失ってしまったとする。しかし、水を手に入れたい。持ち合わせている道具類は、ごく普通のハイキング程度の装備。もちろん、木々を傷つけてはいけない。さてどうするか…。ここで使うのは、水の基本的原理。蒸発して水蒸気になるという点を応用する。
まず、湿り気の多い地面にすり鉢状の穴を掘る。そして、その穴の中央にカップを置き、雨具(これはビニル・ポンチョなどがよいのだが)をかぶせて、周囲を適度なおもりで固定しフタをする。さらにその中央のカップの位置に、上から軽い石などを乗せる。ちょうど、四角錐や円錐を逆から見ているような状況だ。すると、時間の経過とともに地表から水蒸気があがり、雨具面で結露し下に流れてカップに溜まる。
もちろん、時間のかかることだが、こうして水は手に入れられる。誰もが知っている道具で、誰もが知っている原理を応用し、まったく違う方法で問題を解決してみようとする。
この応用力、アイデアサバイバルとでも呼んでもよいくらいだろうか?
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