大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー、自称路上写真家。 Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple
Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。 |
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三洋電機のデジタルムービーカメラXactiは、初代のグリップスタイルのモデルが出てから常に注目していたが、実際の購入にはい至らなかった。しかし、DMX-CA65(以下CA65)は発売と同時に購入し、毎日持ち歩いて映像メモ代わりに使うようになった。
理由は、水深1.5mにおいて連続30分の動画撮影が可能な完全防水仕様であること(特に、回転式のディスプレイを備えながら、この防水性能を確保したことは素晴らしい)。動画(+音声)のフォーマットがMPEG-4のH.264/AVCであり、画質・音質に優れ、QuickTimeやiPodとの相性も良いこと。日常遣いやちょっとした取材には必要十分な600万画素の静止画解像度を持っていること。そして、何よりデザイン的なまとまりが、個人的な嗜好に合っていたためだ。
もちろん、日常的に水中撮影を行うわけではないが、自転車での移動が多く、多少の雨でも走ってしまう自分にとっては、濡れても汚れても気にせず使える完全防水性は大いに魅力的だ。また、映像メモ代わりとはいえ、画質については水準以上のものを確保したいので、動画フォーマットや静止画解像度も重要である。
さらに、この種の動画カメラはバッグやポーチなどにしまい込まずに、常にスタンバイ状態で使いたい。そこでタフなストラップホルダー(三角穴)付きで、腰からぶら下げられる滑らかな全体形状が気に入ったのである。現実にケブラーケーブル仕様の巻き取り式キーホルダーを利用してむき出しで腰に装着しており、細かいキズは絶えないが、撮りたいと思ったときにすぐに構えられる便利さが気に入っている。
握って構えたときにレンズが水平となるXacti独自のグリップスタイルに加え、外縁部を一周するダークグレーのパーツが特徴的なCA65(ステッカーは自前)。上に見えるカメラは1965年に発売されたPolaroid Swingerだが、どちらもプラスチックの特性を生かしたグッドデザインだと思う
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ヘアドライヤーのようにも見えるシンプルな背面デザイン。柔らかな造形は、右の手のひらにしっくりと収まる。Xactiシリーズの他のモデルに比べると防水仕様のために大きめだが、個人的には十分携帯できるサイズだ
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従来のXactiは、小型化を意識して不要な部分を削り込むようにデザインされたためか、ややゴツゴツした印象を受けることもあった。しかし、CA65は防水化のために必然的に拡大した筐体を、過剰にならないフォルムとディテールで巧みにまとめている。これに対し、シェルホワイト、マリンブルー、ブライトイエローの3種のカラーリングは、どれもメタリック/パール調だが、製品の性格を考えると傷ついても気にならない樹脂着色のソリッドカラーでまとめるべきだったのではないだろうか。
電源オフからの起動はやや時間がかかるものの、ディスプレイを閉じるとスリープとなり、再び開くとすぐに復帰するので、一度スタンバイしてしまえばストレスを感じることはない。一方で、Xactiは伝統的に静止画用と動画用の2つのシャッターボタンを備えるが、動画の電子手ブレ補正機能をオンにしていると、そのアルゴリズム上、静止画とは画角が異なる(動画のほうが拡大気味となる)ため、どちらを押すかによってLCD内の被写体の見え方も違ってくる。はじめは、その点に違和感を覚えた。
後者の問題は、動画の電子手ブレ補正機能をオフにすれば解消するが、現状、自分ではオンにした上で、LCD上の画角は静止画優先で設定している。これならば、撮影前に静止画のフルフレームをLCD上で確認でき、そこにオーバーレイして一回り小さな動画用の枠が表示されるので、どちらを撮る場合にも都合がよいからだ。このあたりは慣れもあるので、使い方に応じた設定を見つけるのがよいだろう。
完全防水カメラの場合、設計者はスイッチのまとめ方に苦労するものだが、CA65はやや曖昧さはあるものの、個人的には合格点を与えてもよいと思う。ただし、グリップスタイルは動画撮影には適していても、静止画撮影では不安定になりがちだ。特にシャッターボタンを親指で操作する形式なので、押した瞬間にブレやすくなる。光学5倍のズーム機能を生かす上でも、静止画撮影時にも手ブレ補正機能があればと感じる。
そういうわけで、小さな不満はあるものの、全天候で気兼ねなく撮影でき、動画を核に静止画もカバーできるCA65は、日常遣いで気軽に利用するのに適した1台である。個人的には、個性的なデジタルカメラが比較的安価に手に入るようになった今だからこそ、目的によって複数台を使い分けるカメラライフを実践しているが、YouTubeに代表される動画サイトが市民権を得たこともあり、CA65が活躍する機会はますます増えそうだ。
ちなみに、Xacti 2.0プロジェクトにも参加している(株)ボイスバンクが、主要な動画サイトにムービーデータを簡単にアップロード可能な「Xactiアリゲーター(仮称)」を開発中だ。8月1日に専用サイト(http://www.blogcasting.jp/alligator/ index.html)でMac版のダウンロード販売が開始され、追ってWindows版も追加される予定。Xactiの使い勝手がさらに良くなるものと期待している。
CA65の雨中・水中撮影の動画サンプルをYouTubeにアップロードした。YouTube側のデータ変換によりブロックノイズが増えるなど画質が落ちているが、あえて現実的な使い方として紹介しておく。CA65の名誉のために付け加えれば、元データの画質は非常に優れている。
1つは、大阪市下水道科学館の人工降雨ブース。ここでは、最大100mm/時の雨が再現されている。もう1つは、やはり大阪市内の靫公園で撮影したもので、完全に水没させてみた。もちろん、どちらもまったく問題なく、その後も続けて他の撮影を行うことができた。静止画に関しては、大阪の街角のスナップショットを3枚ほど紹介したい。製品の性格的にも気合いを入れて撮る類のカメラではないが、必要にして十分以上の性能が確保されている。
レンズの樽型ゆがみはそれなりにあるが、ディテールまでしっかり写り、立体感のある描写が得られる。電子的な手ブレ補正が行われる動画と、その機能がない静止画では画角が異なるため、最初は少し戸惑うかもしれない
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暗い部分では画像にノイズが乗りやすくなるものの、一般的な条件下では撮影データの発色は鮮やかで、日常遣いのカメラとして十分実用的な範囲内にある
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普通にグリップスタイルで構えたまま、縦長の写真を撮ることもできる。実際には単なる撮影時のトリミングであり、解像度も300万画素相当となるが、LCDには撮影範囲が縦長で示され、昔のハーフカメラのような感覚で面白い。こういう遊び心は重要だ
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