倉方雅行 プロダクトデザイナー。1958年東京都生まれ、東京造形大学卒業。有限会社セルツカンパニー代表取締役、monos inc.専務取締役COO。東京造形大学、武蔵野美術大学、法政大学他東京デザイナー学院非常勤講師。
http://www.seltz.co.jp/
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この連載もいよいよ残すところあと3回になった。今までは、プロジェクトを進める上での直接的な作業で大切と思われる内容を解説してきたが、今後は全体的に俯瞰する視点で、販売までにいたるデザイン開発上での重要な部分に触れていこう。
その1つ「計画力」は、何事においても大切であり、それほど得意でもない私が解説するのはおこがましいが、自分自身に言い聞かせる意味で、皆さんにもお話ししたい(笑)。ここで言う「計画力」は、単に予定を決めることではなく、仕組みを考えることと前置きしておき、それがいかに全体を通しての製品開発や流通に関わりがあるかを検証してみる。
何もないところから企画がスタートし、最終的に商品が店頭に並ぶ。そこには、巧みなダイヤグラム(運行計画、時刻表)の考え方が必須になる。それは開発計画におけるダイヤグラムと、製品そのものに持たせるダイヤグラムの2つの考え方がある。
1つは、時間軸上での「事」が「物」にどう絡むかを論理立てること。例えば東海道新幹線には、1つのレールに「のぞみ」「ひかり」「こだま」の3種類の特急列車が走っている。それぞれの停車駅の違いによって運転速度が異なり、追い抜きや待ち合わせ、また在来特急との乗り換え連絡など、利便性や快適性が保たれている。移動するという「事」が乗り物という「物」とうまく関わっている。
製品をターゲットユーザーがいかに買い求めたくなるモノにするか? そこには、発売時期、販路が最終目標になり、生産数量などの量産体制やプロモーション戦略なども絡んでくる。そこを見据えた上で時間を逆算して、フィッシュボーン・チャート(原因-結果チャート)などを利用し開発がスタートする。
特に時間がかかる型の製作などは、読み間違えると軽くひと月以上ずれてしまう。また、アイデア出しや試作や論理モデルに対しての実験は、結果が予定通りの時間内に終わらないことも多々ある。そこで必ず達成できることと、予定通りには結果が出にくいことを分けて、作業時間の余裕や別作業のシンクロができるようなプランが望ましい。
2つ目は、「物」が「事」を誘発する仕組みだ。例えば自動車は、運転をしているとやがて燃料がなくなる。すると給油をしなければいけない。そしてまた運転をすると…。つまり、その「物」の持つ特性を利用するには、所有者がそれを放棄しない限り、永久に「事」を繰り返さなければいけないことになる。その論法からすると、もしトヨタと新日本石油が同じ会社だったら、すごいことになっていたかもしれない。
実はその仕組みを利用したほんの些細な例が、私のオリジナルプロダクトのキャンドルホルダーなのだ。顧客は、最初に付いているキャンドルをすぐに使い切ることは分かっているので、ホルダーを購入する際に必ずリフィルも買い求める。そして、リフィルがなくなると、大抵は同じ店で補充をする。幸い私の場合は、この仕組みを利用することを前提に、キャンドルも卸せる流通形態を取ることができた。
「物」「事」のダイヤグラムを組み立てるためには、その製品を使うに当たっての生活者の行動パターンをはじめから開発計画に取り組むように考える。すると、販売店側にとってもリピーターを自動的に取り込むことができ、他の商材に目を向けてもらえるチャンスが増す。そしてその中に新製品も投入しておくのである。
このように、顧客が購入した「物」を継続使用するために、再来店を促し他の商品に目を向けてもらう「事」、そのときに間接的に新製品を顧客へアピールできる「事」。これらは新たな購買欲を誘発し、売る側と消費者にとって、良いことであるのは間違いない。
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