倉方雅行
プロダクトデザイナー。1958年東京都生まれ、東京造形大学卒業。有限会社セルツカンパニー代表取締役、monos inc.専務取締役COO。東京造形大学、武蔵野美術大学、法政大学、明星大学、昭和女子大学講師。
http://www.seltz.co.jp/
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応用が利くアイデアが出てきた次には、さらに一歩踏み込んだ、新たなアイデアを生み出す力「展開力」が必要になる。この部分が知恵の見せどころとでもいうか、それぞれのデザイナーとしてのアイデンティティが試される第一段階でもある。そして、展開力はデザインを行う上で、最も重要な部分だといえる。なぜならば、この力がデザイナーそれぞれのキャラクターとしての尺度にもなり得るからだ。
食材が同じでも違う料理が出来上がるのと同じように、与えられた命題に対しての条件が同じであっても、出てくるアイデアが異なるということとまったく同じだ。
では、どのように今まで得た条件を展開すればよいかというと、それらに対して多面的な視点に立つ必要性を強調したい。そのためには、どうしたらよいのか。
前回、容器に孔を開けてザルとして使う話をした。今回はそのザルの作り方と同じ手法で、その先の別の使い方を考えてみよう。
金属製のボール状の容器に釘のようなもので孔を開けたとする。前回書いたように、内側から開けると「ザル」になる。しかし、今回は外側から孔を開けてみよう。そうするとどうだろうか。これは「おろし金」になる。釘などが刺さって、ささくれた所が、大根などをおろすときにちょうど良い刃になるのだ。外側なのか内側なのか、単純にそれだけの違いで用途の違う道具になる。つまり、既存のごくありふれた行為であっても、視点を変えることでまったく異なる進展をすることが分かる。
単純な例えの言い方をすれば、縦のモノを横に、丸いモノを四角に、隠すモノを見せるモノになど、対極に位置する形状や動作を考えてみる。そうして見ることで、今まで気がつかなかったことを気づき、そこで違ったアプローチが発見できる。
それは必ずしも新発見である必要性はない。求められている結果は、発端が異なるだけで違ったモノとして見られ、ある種の新規性を出すことができる。そういう点で展開力を広げるということは、単にスタイリングだけにとどまらず、作法や用途のアイデア展開をする上で、必ずあなたを支える力の1つになるだろう。
そこで、前回に続いて鍛え方の例を挙げてみる。穴に「ひよこ」が落ちてしまった。その救出に使ってもよいモノがいくつか用意されている。それは、「木の枝」「砂」「水」で、とうてい救出するような本来の用途は持ち得ていない。さて、無事に「ひよこ」を救出するためには…。
皆さんに考えていただくようにするために、あえて答えは次回に書くことにしよう。
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