大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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セグウェイは、ロボット特区のつくばでのみ、限定的な公道走行が可能となったが、現在の日本では、新機軸の乗り物を自由に乗ることがほとんどできない。もちろん、安全性の検証やその乗り物に対する免許の区分(あるいは、それ以前の要・不要の検討)など、考慮すべき課題はあるものの、もっと多くの人々がそうした新交通手段(特に、パーソナルモビリティ)に触れて、議論を活発化できる仕組みがあっても良いはずだ。
今回採り上げたYikeBike(ヤイクバイク)も、この種のパーソナルモビリティに相当し、現状では公道走行ができない。しかし、こうした今までにない発想こそが今の日本には必要なのでは…との思いから、イベント貸し出しなどのプロモーションのサポートを行っている(株)ロノフデザイン(http://lonof-design.jp/)の臼木 幸一郎さんのご厚意で、試乗して記事にまとめる機会を得た。
YikeBikeはニュージーランド生まれで、創業者のグラント・ライアンらが5年の歳月をかけて開発した。モデルはボディ素材の違いで、アルミ&コポジット製のフュージョン(14kg)、カーボンファイバー&&コポジット製のシナジー(12.7kg)、そしてカーボンファイバー製のカーボン(10.2kg)の3種類があり、今回試乗したのは、最上位のカーボンにロノフデザインが電飾カスタマイズを施した特別モデルである。
YikeBikeの特徴は大きく2つ。1つはその独特の乗車姿勢、もう1つは巧妙な折りたたみ機構だ。
乗車は、車体の中央上部に設けられたシートに対して、大径ホイールの前輪側から行う。その状態で、身体の左右にあるハンドルを握り、ステップに足を載せれば完結する。重心の取り方が一般の原付や電動スクーターとは異なるため、最初は戸惑うが、後方に体重をかけて力まずに走り出せば、車輪のジャイロ効果によって安定するようになる。
最高速度は23km/hで、家庭用電源での120分(標準充電器)、もしくは50分(オプションの急速充電器)の充電により、公称10kmの走行が可能となる。
YikeBikeの走行姿勢。シートの後ろから前方向に伸びるハンドルを体の左右で握り、前輪のステップに脚を載せて走る。乗り手は、今回の試乗の手配をしていただいた(株)ロノフデザインの臼木 幸一郎代表。(クリックで拡大)
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モーターやバッテリーは前輪の内側部分に内蔵され、それを覆う三日月型のカバーがデザイン上のアクセントになると共に、後述する折りたたみ時のフォルムのまとまりにも貢献している。
YikeBike単体の姿。前輪の三日月型の部分にモーターやバッテリーなどが収まっている。ちなみに、車輪のリムやシート下のLEDライトが装着されたこのモデルは、最上位でフルカーボン素材のボディを持つYikeBike|Carbonをロノフデザインがカスタマイズしたもの。(クリックで拡大)
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ハンドル部分の後方にテールライト、同じく側面にウィンカーを備えている。一見すると、小径ホイールのほうがフロントに思えるが、実際には大きなホイールが前にあたる前輪駆動車だ。(クリックで拡大)
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法規の規定とは無関係に、YikeBikeには標準でテールライトやウィンカー類が備わっている。ただし、たとえばデザインを崩さずに実用的なバックミラーを装着したりするのは難しそうだ。
折りたたみは、前輪と後輪、そしてシートの角度を固定しているラッチをそれぞれ解除して折り込み、ハンドル基部を開放して下方向にたたむことで実現している。構造的なポイントは、小径(8インチ)の後輪が、大径(20インチ)の前輪の内側に入れ子的に格納される点にあり、これで左右方向の幅を最小限に抑えている。
メインフレームに見える穴は、折りたたみ時にハンドルに設けられた突起をキャッチして固定するためのディテールである。(クリックで拡大)
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折りたたんだ状態のYikeBike。小径の後輪が大径の前輪の内部に収まるなどの巧みなアイデアにより、塊感のあるまとまった形に折りたたまれる。(クリックで拡大)
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前輪のステップも、携行時にはたたんで突起物をなくし、走行時にのみ展開する構造を持ち、左右がリンクして動くことで、操作時の手間を省いている。
前輪の造形と走行時に足を載せるステップを示す。折りたたみ時の関節となる部分に設けられたラッチメカニズムも収まり良くデザインされている。(クリックで拡大)
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(クリックで拡大)
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非使用時のステップは前輪の側面に面一の状態でたたまれるほか、リンク機構によって、片方を操作するだけで、もう片側も開閉される仕組みだ。(クリックで拡大)
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後輪のステーは見た目がとても薄く、当初は強度面での心配を感じたが、少なくとも短い試乗では、問題と思える挙動は発生しなかった。実際にはデモ車両は累積でそれなりの距離を走っているはずなので、耐久性も確保されているようだ。
片持ちの後輪を支えるステーは非常に薄く見えるが十分な強度があり、走行中もしっかりと荷重を支えていた。(クリックで拡大)
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特異な全体形状に合わせて、ヘッドライトや電装スイッチ類の操作系のレイアウトもうまくまとめられている。ただし、アクセルとブレーキ操作が、左右に振り分けられているとは言え、どちらもグリップと一体化したレバーを利用している点は、やや改善の余地がありそうだ。というのは、とっさの時にライダーは反射的にグリップを握りしめると考えられるため、その際に誤ってアクセルをフルスロットル状態にしてしまうことも十分考えられるからである。
また、駆動メカの関係からか、電動にしては走行ノイズも大きめなことも現状では気になったが、これは今後の改良で改善されているものと思われる。
ヘッドライトは常時点灯式で、左右のハンドル先端部に埋め込まれており、常に前輪と同じ方向を照らすようになっている。(クリックで拡大)
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(クリックで拡大)
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同じく、左右のハンドル先端部には、メイン電源スイッチ(緑)、ホーンボタン(青)、そしてウィンカースイッチ(赤)が設けられている。アクセルとブレーキは、ハンドルのグリップ部分と一体化したレバーを握る強さに応じて機能する。(クリックで拡大)
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確かに、このまま公道を走らせるには、解決すべき課題はありそうだが、コンパクトに持ち運びも可能な電動コミューターを実現して、都市部の交通問題や駐輪問題を解決しようとする熱意は、大いに賞賛されるべきだ。現時点では少量生産ゆえに価格も税込みで315,000〜504,000円と高めなものの、開発・販売元には、公道バージョンの市販なども視野に入れつつ、今後とも研究開発を続け、完成度を高めていってほしいと思う。
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