大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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韓国モホック社の「スマート・アンブレラ」という製品シリーズの1モデルであるこの製品は、一見すると普通の折り畳み傘と変わらない外観を持つ。面白いもので、人は傘のカラーや柄には、さしている本人が思っているほどには関心を示さないが、形の変わった傘に対しては好奇の目を向けることが多い。したがって、新しい機能性を普及させる場合でも、形が常識的な傘のデザインを逸脱しないようにすることは、案外、重要なポイントだともいえる。
開いたところは、何の変哲もない普通の傘に見える。(クリックで拡大)
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付閉じて畳んだところも、やはり一般的な折り畳み傘の風情である。(クリックで拡大)
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しかし、リバース・フォールディングと銘打たれたこの傘は、実際には、その名の通り折り畳まれ方が通常とは逆転しているという大きな特徴を持っている。その目的は、畳んだときに濡れた面を表に出さず、また、水滴を内部に溜めて、外に漏れないようにすることにある。
デザイナーがこのような傘を開発した背景には、近年の韓国における環境意識の高まりがあり、特に雨天時に小売店やデパートが店内の床を濡れさせないように用意するビニール製の傘袋が(リサイクルされるとしても)資源の無駄遣いになっていると考えた結果だった。
確かに、高々数分から数十分の買い物のために、どれだけの傘袋が消費されるかを考えると、コスト的には大したことがなくても、もったいない気にはなる。筆者などは貧乏性なので、回収箱に捨てられた袋を拾って使っていたりする。この問題を、傘自体のデザインによって解決しようとしたのが、スマート・アンブレラのリバース・フォールディング・モデルなのである。
折り畳まれる途中段階のこの状態を見て、ノーマルの折り畳み傘との違いに気づいたとすれば、かなり観察の鋭い人だといえる。実は畳むと、さしたときの下面=乾いた面が外側になるようにデザインされている。(クリックで拡大)
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参考までに、他の折り畳み傘の畳まれ方を示すと、骨の先が下向きになって畳まれることが分かる。つまり、さしたときの上面=濡れた面が外側になるわけだ。(クリックで拡大)
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折り畳み方を逆にするというのは、簡単に見えて、実際にはかなりの苦労が伴ったと考えられる。実はスマート・アンブレラにはこのモデルの前に2つの製品があり、それらは一般的な折り畳み方式で、垂れてくる水滴をカップ形状のグリップで受ける仕組みだった。このカップ式のグリップはリバース・フォールディング・モデルでも用心のために採用されているが、その容量は他モデルよりも小さくなっている。
他の2製品では既存の傘の構造やパーツを流用できる割合が大きいが、リバース・フォールディング・モデルの場合にはゼロから設計し直す必要があり、開発に時間がかかったようだ。
また、傘の基本性能の部分で壊れにくい製品とするために、骨の一部にグラスファイバー素材を用いており、長持ちすることも環境負荷を少なくする特性であると捉えていることが理解できる。
この構造(リバース・フォールディング)を実現するために骨も専用設計となり、強度を確保する目的で一部にグラスファイバー素材が用いられている。(クリックで拡大)
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さらにスマート・アンブレラシリーズのすべてに共通するディテールだが、石突きに相当する部分に格納式のフックが組み込まれている。
これは、普通にグリップ側のストラップなどでぶら下げると傘自体が上下逆さまになり、カップ式のグリップ内やリバース・フォールディング・モデルでは防水布の間に溜まった水滴がこぼれてしまうため、さしている状態と同じ上下を保ったままで持ち歩いたり、テーブルの端からぶら下げられるように考えられた工夫である。
こうすることで、休憩中も常に傘を身近に置くことができ、盗難や置き忘れを防ぐ副次的効果も生まれたのだった。
また、石突きに相当する部分のキャップにも工夫が見られる。(クリックで拡大)
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キャップ内部を外すと、持ち手を兼ねたヒンジ機構が現れて…(クリックで拡大)
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このように、テーブルの端などからぶら下げられるようになっているのだ。これにより、傘立てに入れて盗難に遭ったり、置き忘れてしまうことを未然に防げる仕組みである。(クリックで拡大)
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