moviti/片山典子
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com |
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去年は体調理由でおとなしくしていた分、今年の8月はドロミテトレッキング/クライミングしてきます。ここに書くネタ探しになるかどうか。
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先日エボナイトの工場を見学してきました。というのは3月にミッドタウンでJDP主催で「TOKYO DESIGN&CRAFT MARKET2013ものづくりフォーラム・展示商談会)」というビジネスパートナー探しのイベントがありまして、そのときに日本唯一のエボナイトメーカー日興エボナイト製造所さんが出展していたのです。
http://www.nikkoebonite.com/index.html
エボナイト、というのはアンティーク万年筆のマーブル模様の軸、ということしか知らず、セルロイドと同じく[レトロなプラスチック]と思っていました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/セルロイド
←これはご参考まで、セルロイドは石けん箱やメガネフレームで使われてますね。
どうも私はマーブルなど「色が組み合わさって偶然の模様を作る」ものが気になる。人がコントロールしきれない部分のハプニングというか、オーガニックな成り立ちというか。あいまいにもやもやーっと色が混ざってる味わい。今でも作っている、しかも日本で唯一の工場が荒川にある、というのがびっくりしました。
もともと戦後まで牛舎だったという趣ある鉄骨の柱の工場には小さくてシンプルな構造の射出機や加熱釜が。ちょっと宮崎駿や鳥山明っぽいレトロな鉄メカのたたずまい。
エボナイトの製造工程
http://ja.wikipedia.org/wiki/エボナイト
・もともとは19世紀産業革命の頃、タイヤなどで使われだしたゴムの硬度を安定させたのが始まり。http://www.nikkoebonite.com/eb-ex.html#history
高度成長期に他の大量生産プラスチックに圧されて、目につかない樹脂になっていったが、今でも機能部品の素材として活躍している。
・天然ゴム(いわゆるアラビアゴム)に硫黄を混ぜて加熱(加硫)させて(エボ粉という材料になる)、それを押し出してさまざまな直径のチューブにする。1mの定尺に切り、蓋付の平たい缶に並べて缶ごと加熱窯に入れ、2日かけて加硫を完了させる。1回の加工で100×40×5センチの缶が10〜15個窯に入って100kg程度、小規模ロットだ。
・その後は二次加工。円筒型に成形されたエボナイトを別の型に入れて二次成形、サックスなどのマウスピース、オーディオ機器のインシュレーター、擦動部分のパッキンなど。・80℃ぐらいから柔らかくなるのでパイプ(喫煙具)の吸い口のような曲げ加工ができる。
・円筒形を切削して万年筆を作る、漆の万年筆の基材。重さや弾力性が高貴な印象の素材なのだ。さらに2008年からマーブル模様のエボナイトを作り、オリジナルの万年筆をネット販売や東京下町もの作り系のイベントに積極的に参加されている。上記の押し出し射出機に色を混ぜて、草の茎のようなナチュラステイストのカラー押し出しもある、自然素材のようで面白い。
万年筆用マーブルの色や模様はまさに職人芸、万年筆サイズの棒状に成形された塊自体も非売品、付加価値の高い素材である。
エボナイトの特徴
・エンジニアリング的な特徴はまず絶縁性、実は万年筆よりこちらがメインでした。古くは真空管のソケットとか。
・独特の"持ち重り"感。筋肉質でずっしりした弾力。プラスチックというより丸く製材した木に近い。口当たりも他の樹脂では表現できないから今でもマウスピース、パイプの吸い口で使われている。
・成形も切削(ネジ切り、バフ研磨)もできる。これは他の素材にはない特徴ですね。柔らかいので刃先が加熱したり屑の処理にクセがあるそうです。
・漆っぽいから食器用途は? と聞いたところ、80℃で柔かくなるから…とのこと、そうですね。
・経年で変色する。硫黄が表面に浮いてきて緑っぽくなり、艶が落ちる。日頃まめにクロスで磨くとかで味になっていくのかも知れないが。
・硬度を調節できる、のではない(成形する直径によって調節しているそうです)。やわらかいと艶出せないし。
・もともとの素材の色味のためデフォルトは黒、マーブル成形も全体に暗い、濁った色。ただし挿し色に鮮やかなピンクやイエローグリーンのもある。
コバルトブルーとブラックの微妙なマーブルは、貴石ほどきらびやかツンツンしてなくて落ち着いていて、なかなかいい感じ。
和装や洋装どちらにも使える大正ロマンな帯留めやブローチ、カメオのようなものができたらいいなあと勝手に思い入れて、友達のジュエリーデザイナーを同伴していった。
成形/切削/曲げ/研磨の技法を使える素材だけど、φ5mm程度の細棒を加熱して形状を作る、のが現実的か。比較的個人でコントロールできる温度で柔らかくなるのが可能性を感じる。
一方社長の遠藤さんは、ご自身もギターを弾くからか定評のあるマウスピースだけでなく、ギターのピックやピックガードに張ると、弾力性からか音響の広がりが違う、という特性に期待しているようです。確かにiPhoneの再生でも分かるくらいの音の嵳。
http://www.youtube.com/watch?v=iCvRc3gCgAM&feature=youtu.be
アメリカからダックコール(あひる笛)、南米から喫煙具の材料としてアリババ.comからグローバルに引き合いがある、という「古いけど独自の新用途」を見つけたエボナイト。絶滅危惧素材かと思ったらちゃんと新しいセールスポイントをキャッチアップして生き残っていました。
世界でも5カ所(ドイツ、中国など)しか作ってないそうですが、日本製はやはり品質がいいそうです、さすがモノづくりNIPPON。町工場っぷりや付加価値、用途が「タモリ倶楽部」風オトナの道具向けで、渋いプラスチックです。
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