倉方雅行 プロダクトデザイナー。1958年東京都生まれ、東京造形大学卒業。有限会社セルツカンパニー代表取締役、monos inc.専務取締役COO。東京造形大学、武蔵野美術大学、法政大学他東京デザイナー学院非常勤講師。
http://www.seltz.co.jp/
http://www.monos.co.jp/ |
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連載も前回、さまざまな立場からの意見を、束ねて解決していく方法を考える力を「統制力」と説明した。問題解決への道筋を整える方法が見つかれば、それらを実際にまとめていく作業に取りかかる。それが「協調力」となる。
問題点や道筋が分かったからといって、問題そのものが解決したことではない。デザインはここから最終的な作業に入ってくるわけで、場合によっては解決の糸口を探るために、最初からやり直さなければいけないこともある。
「協調」とは「利害関係の対立するものが、力を合わせて事を成し遂げる」と辞書にある。いわゆる行司役として力を発揮した「統制力」によって出てきた課題を次に実際に解決し、できるだけ多くの関係者が満足する答えを出さなければいけない。
デザインを進める上では数え切れないほどの人間が関わってくる。その時に、利害が異なる不特定多数の人の意見の落としどころを、どこにするか、それがここでの「協調力」だ。
関係者から出てきた意見を解決する手段を考える行為が、ここへ来てからの本来のデザインと言えよう。しかし、決してそれは妥協であってはならないわけで、デザイナーとしての「協調力」の発揮のしどころなのだ。
では、どのようにしてその「協調力」を鍛えるのか? それは状況によってさまざまで一言では難しい。事例を挙げて解説をしてみる。
pdwebのインタビュー記事「旬のプロダクトに迫る!」で福田哲夫氏がN700系新幹線を語っている。新幹線に限らず高速移動体のデザインには、流体力学などの自然法則の中での縛りがある。同じ高速移動体の航空機と高速列車の差は、列車は間近の距離でトンネル通過や車両同士のすれ違いがあり、何よりも上り下りがあるために、頭が尻、尻が頭になるという点だ。
人工物や自然物のすべてにおいて、世の中にそのような頭尻同体のモノは列車以外に存在しない。それを力学的、エネルギー的にも解決し、なおかつ美しいモノとして造形していくことへの落としどころは、相当なものであったと氏からも直接伺っている。
また、近年叫ばれているユニバーサルデザインの考え方は、万人に使いやすくという理想を追求する。これは、ある枠組みの中で展開するパーセンタイルとしての考え方の人間工学では、それほど簡単に解決できるわけではない。つまり解決策の多くに、相互間で利害の反することにもなりかねないものが多数見え隠れするのは事実だということを知ることが必要だ。そして、それら問題を妥協することなく解決していき、デザイナー本人も満足できるモノを模索できることがプロフェッショナルたる所以である。
さて、開発に関しての具体的な作業的な流れとそれに必要な「力」の話は、今回で終わることにして、次回の「計画力」からは、全体を俯瞰するための「力」の解説に入ることにする。
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