倉方雅行 プロダクトデザイナー。1958年東京都生まれ、東京造形大学卒業。有限会社セルツカンパニー代表取締役、monos inc.専務取締役COO。東京造形大学、武蔵野美術大学、法政大学他東京デザイナー学院非常勤講師。
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早いもので、連載開始からあっという間に10回を数え、今回が最終回の「説得力」。5回目の「表現力」の時に予告したように、ここでは人に思いを伝える「表現力」の延長線上に、「説得力」が位置するという前提で、解説することにしよう。
すべての過程において、自分から相手に何かを伝え、それを聞き手に納得していただく行為を促す「力」を「説得力」として考えてみる。
メンタルマネージメントの考え方に基づき、1つの事象をプロセスの違いで検証すると、次のことが分かる。例えば、子供に何かを任せたとする。そこで、その子にあなたが一言「失敗しないようにね」、または「きっとうまくできるよ」と声を掛けたとする。これは数学的な数式論ではほぼ同じ意味になるが、受け手の印象論では、前者はネガティブな表現、後者はポジティブな表現として大別できる。
そして、現実はどのようになるかというと、前者を聞いた子はネガティブな「失敗」を、後者を聞いた子はポジティブな「上手」というキーワードを連想しながら行動を起こすことになる。果たして結果がどうであっても、行動の結果へのプロセスは、「失敗」から始まるか「上手」から始まるかで、まったく違う印象として残るだろう。
ここで大事なのは、聞き手がいかに最初に良い印象を持つかということだ。それによって、その後のプロセスが大きく変わってくる。統計的なことは分からないが、おそらく、「上手」と印象を受けた子供のほうが、よりうまくできたに違いないだろう。
日本語には謙譲的な言い回しがあるが、この場合にも言い方ひとつで印象が変わる。例えばよく使う「つまらないものですが」は、個人的にはあまり良い印象を持っていない。むしろ私なら「気に入っていただけると良いのですが」を使いたい。
受け手の立場に立ってその人が言われて気分が良いことに注意しながら言葉を選んで、できる限り否定した言い回しにならないように話すことだ。
デザイナーとしては、前述の例を特にプレゼンテーションや関係部署への依頼のときなどに思い出していただきたい。
ちなみに悪い例としては、聞かれてもいないネガティブな部分を自分から話すこと。例えば学生がプレゼンテーションのときに言う、「時間が足りなくて…」などがそれだ。また自分の意見を伝えたいがために、威圧的な語り口調になり、聞き手がしらけ顔なることなどが挙げられる。
ところで、何となく話をしているのだけれど、聞き手が知らないうちにそれを手助けしてしまい、相手の口から「私がやりましょうか?」などと自然に言わせてしまう「おねだり上手」と言われる人が、世の中には結構いる。そんな「おねだり上手」になることも、「説得力」を磨く上で重要なことかもしれない。
以上、わたしの思うことや体験談を自分への言葉としての意味合いも含め、10ヵ条として解説してきた。どれだけ読者の方々に確実に伝わり、印象として残っただろうか。私自身の「説得力」を思いながら最終回とする。
読んでいただきありがとうございました。
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