大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
|
かつてカメラ専門誌などで、地の果てまで持っていくべきカメラは何か? といったマニアックな問いかけを見かけたことがある。
オートフォーカスや自動露出など、フィルムカメラの電子化が盛んに行われていた時期で、硬派なカメラユーザーにとっての模範解答はほとんど常にライカかニコンあたりの機械式マニュアルカメラであった。極限状態では、フィルムさえ入れれば撮れるということが必要条件となり、電池が切れたら使えなくなるような軟弱なカメラは失格と見なされたのだ。
その後、キヤノンがコンパクトフィルムカメラの分野で、ソーラーパネルを搭載したオートボーイSEを1995年に発売し、これはデザイン的にもかなり面白い製品だったが、1世代きりで姿を消した。
そしてデジタルカメラの時代となり、写真を撮るのに電源の確保が不可欠という状況が当たり前となった今、突然登場したのが、電気を自給自足できるSUN&CLOUD(18,900円)だ。
開発・販売は、トイカメラを核としたカルチャービジネスを展開するパワーショベルであり、最初の発想から4年以上を経て製品化にこぎ着けたという。プロジェクトが前進した大きなきっかけは東日本大震災で、特に防水機能や耐衝撃性能を備えているわけではないものの、太陽か手動による充電で撮影ができるという意味では、災害時にも記録としての写真を残しやすいカメラである。
プロ用のハイエンド一眼レフから、携帯電話の内蔵写真機能へと連なるカメラのヒエラルキーの外にある製品として開発されたSUN&CLOUDは、その基本フォルムも縦型の直方体と非常に個性的だ。
製品のイメージを全面に押し出し、森の写真で構成されたパッケージ。市販バージョンでは、SUN&CLOUDを手にした人々の写真も使われている。(クリックで拡大)
|
|
デジタルカメラというよりも音楽プレーヤーを思わせるハードウェアインターフェイスが特徴の、SUN&CLOUD。個人的には、初代MacやiPodを思わせる懐かしさも感じる。(クリックで拡大)
|
しかし、じっくり見てみれば、箱形の二眼レフカメラのモチーフを巧みに引用しながらも、ソーラーパネルの面積や陽当たりを考えてトップパネルと一体化させたり、手回し発電機を回す際のグリップ感を考慮するなど、この製品に与えられた機能性に基づく理に叶ったデザインがなされていることが理解できる。
カメラという意味では、二眼レフの箱形ボディを想起させるフォルムを持ち、いずれにしても機能的な特徴と記号性を巧みに両立させたデザインと言える。(クリックで拡大)
|
|
トップパネルは、ほぼ全面が太陽電池となっており、直射日光下では約12時間でフル充電となる。(クリックで拡大)
|
フィルム巻き上げレバーを思わせる手動充電用クランクは、回転方向を問わず充電でき、100・150rpmの回転数で1分間続けて回した場合。4・8枚の静止画撮影が可能となる。クランク横の丸いスイッチがシャッターボタンで、下部のスライダーはレンズカバーの開閉に使われる。(クリックで拡大)
|
|
側面パネルには、メインの電源ボタンとその上に充電状態を示すインジケーター、そしてカバー内に充電用のUSBポート(75分でフル充電)、リセットボタン、microSDカードスロットがある。上部の2つの穴はストラップホール。(クリックで拡大)
|
底面には、しっかりとした三脚穴も備わっている。(クリックで拡大)
|
|
|
太陽電池でフル充電まで12時間、1分間の手回し発電で4・8枚という仕様は、人によっては物足りないと感じるかもしれないが、前者は放っておけばよく、後者は歩きながらでも回せる(半分の30秒で2・4枚撮れる)ことを考えれば、個人的には十分と考える。また、すべてを自動化するのではなく、ピント合わせは手動のゾーンフォーカスで行うなど、トイカメラ的なツボも押さえられ、ユーザーとの関係性を深める工夫がなされている。
正面には、暗所撮影用のLEDフラッシュ、マイク穴、レンズ下にフォーカス調整レバーがある。マニュアルのゾーンフォーカスを採用し、マクロ:約25〜35cm、ポートレート:約60〜150cm、ノーマル:約150cm〜∞の範囲で調整できる。(クリックで拡大)
|
|
LEDフラッシュは静止画撮影時の発光(モードはメニューで設定)のほか、背面のスライドスイッチにより連続点灯も可能。そのように謳われているわけではないが、緊急時にフラッシュライト代わりとしても利用できる。実際に夜間に使用してみると、かなり明るく十分実用になった。(クリックで拡大)
|
画面内のインターフェイスは、凝ったアニメーションなどもなくシンプルなものだが、製品全体のデザインバランスとしては、これで合っている。使用フォントに関しても、前回のPowerShot Nではドットフォントがアンバランスに感じられたものだが、SUN&CLOUDがもしアウトラインフォントであったなら、逆に違和感を感じただろう。
画面内のインターフェイスは単純な階層式だが、シンプルで分かりやすい。また、アートフィルター系の撮影モードを含め、ほとんどの機能はメニューに表示した状態でディスプレイ下のショートカットボタン(3個)を押すと登録でき、ワンタッチで呼び出し可能となる。このカメラの場合には、メニュー表示が粗めのドットフォントでも気にならない。(クリックで拡大)
|
|
(クリックで拡大)
|
アートフィルター系の撮影モードも充実しており、気軽に日常を撮影しながら、いざというときには通常の電源が確保できない状況下でも記録を残し続けられる。PowerShot Nと並んで、このようなカメラこそ、似たり寄ったりのコンパクトデジタルカメラの世界に一筋の光をもたらす存在ではないかと感じだ。
ハイコントラストのモノクロモードと、ビビッドなカラーモードによる作例。画素数は300万画素だが、Webやサービスサイズ程度のプリントには十分だ。(クリックで拡大)
|
|
(クリックで拡大)
|
|