宮田氏による歯ブラシのデザイン作業の実例を紹介していこう。CADデータとモデルの両面から形状をブラッシュアップしていく。上の画像はまず歯ブラシのレンダリングイメージ、透明色、パールなどの表現
基本データより作成した造型品(丸紅ソリューションのストラタシスによりABS樹脂の造型実施)
造形品に対し持ち加減を見ながら削ったり盛ったりして仕上げたモデル。(サーフェーサーにより塗装)
マスター部品から切り分けたボディ部およびエラストマー部
2重成型した試作品。実際に歯磨きをしても使いやすい
Designed by Noriaki Miyata
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−−ここまでのお話をまとめますと、デザイナーのモデリングツールに対するアプローチとしては、ソリッドなりサーフェスなりをとにかく覚えよう、3次元定義できるように頑張れというのがまず1つですね。もう1つは、CADは捨てて手描きのスケッチに専念し、後はモデラーの人に任せましょう。そしてリバースエンジニアリングの話ですよね。
相馬:でもリバースはCAD操作ができないと使えない。リバースは基本的に、CADが使える人が使う道具です。
−−それもオペレーターに任せるしかないと思います。リバースの場合、元のクレイモデルなどの形状は、非常に複雑になる可能性が高いですよね。完全な左右対称になるわけでもなく、きれいな形状になりづらいのでは。
相馬:リバースはそれを基にモデリングするのが原則ですから、元のクレイモデルなどは参考にしかならない。だから半身でもいいんですよ。CADを使えないからリバースをやるのは間違いだと最初に言わないと、みんな間違えて来るので。その発想は何故出るのか僕の予想ですけど、彼らはよほど3次元が使いたくないし、できないと思っているし、多分やってダメだったんだろうと思う。ただ、なんとなくあったほうがいいんだろうなと思ったときにふと目に入ったのがスキャナで、「これがあれば手でできるじゃん」という期待感を担っていたんだけどだんだんバレてきた。3Dスキャナの売り方もよくないですけどね。
宮田:点群データがそのまま製品になりますよと言っていたのかもしれないですね。
相馬:クルマメーカーは昔からやっているし、データよりもスキャンのほうが始めたのも早かったですよね。
宮田:レイアウトマシンといったものでもうやっていましたね。
比古田:あのほうが早いんですか。
相馬:測定器ですね。早いし、ほぼそれしか手がないです。だから導入した時期も早い。
宮田:クルマは左右対称に作らなきゃいけなくて、人間がやるのにはどうしても限界があって難しい。そういう意味でレイアウトマシンで計測してというのをやらないといけないんですけど、そうはいっても人間はすごいと思うのは、左右対称とか0.1弱の歪みとかを手で拾っていたということ。
比古田:職人の世界ですよね。
−−プロダクトデザインの業界で“食う”ということを考えたら、モデラーに徹するのも1つの手ですね。例えば独立系の名のあるデザイナーのオフィスではスタッフがモデリングしています。
相馬:それは著名なデザイナーの方々で、個人というより企業ですよね。そういう人に採用されて側でモデリングをやっていれば、勉強にもなるし力がつくんじゃないかな。意外と需要がないと思うのがレンダーとか、フォトリアルCG系の仕事ですかね。
宮田:そのへんはこれからなんですよ。CADデータがないと始まらないですけど、例えば家電メーカーではレンダリングを2Dを起こしてやっているところもまだありますよね。そのためだけに別途モデリングをするのは無駄な話です。
相馬:CADのモデリングが上がってきた時点でパッケージもできているというようなシステムになれば。
宮田:そういう意味で今進めている段階ですね。
−−1ソース・マルチユースがモノ作りの世界では少し遅れているのですね。DTPやWebではわりと当たり前になってきています。
相馬:ASIAGRAPHというCGクリエイターが集うお祭りにウチが協力していて、3次元データが作れる人たちを見いだしているんですよ。3D CGのモデリング力を、画像・映像だけでなくモノ作りにも生かしてほしいんです。
宮田:本当にアニメーターさんの状況に近くなっていますからね。
相馬:もともと食いぶちが少ないところにどんどん人が増えてきていて全然ダメで。じゃあ形状データ作れるんだったらモノ作り系。デザインを外からも欲しいよねとか、そのときにデザインをデータで出せる仕事をやれば…という話なんですよ。
−−CGの人たちはレンダリングもすごく得意ですからね。
宮田:CGとCADもかなり歩み寄ってきていますよ。私も16年くらい前にデザイン開発をしていたので、Pro/EとSoftimageなどの両極端にあるものをうまく組み合わせてできないかなということをやっていました。だけどその当時はCGとCADがシームレスではなかった。
相馬:CADもそもそもCGの仲間なので、CGとかCADという言い方もあまり意味はない。
宮田:CG自体はユタのエバンス&サザーランドで、その技術を使ったのがCDRSというPro/Eのサーフェシングです。そういう意味では発祥というか。使い方はエンターテイメントなど全然違うんですけど、だんだん歩み寄ってきた部分があるのかな。
比古田:私入社してCADに初めて触れたとき、CADとCGは違うと言われて、すごく違和感を感じたんです。それはデザイナーの感覚として、今でも間違っていなかったと思います。それがようやく歩み寄ってきたのでは遅いよと。CADはモデリングのもの、CGは色を表すものだというふうに育ってきたので、デザインツールとしてはまだまだですよね。
宮田:正確にモノを作っていかないといけないので情報量がやっぱり大きい。かたやCGというのがいかにデータリダクションしているか。
−−例えばCGで作ったモデルをCADの中に入れて数値を持たせる?
相馬・宮田:そうですね。
比古田:ただ、CGは設計に使えるかどうかがわからなかった。
相馬:ボクセルポリゴン的なモデリングとNURBS的なモデリングのうまい具合の転換というかな。そこはテクノロジーがキー。
宮田:最近はどこのCADメーカーにしてもそういうことは考えていますよね。Pro/EやCATIAの中にもそういうモジュールはある。
−−現実に下流工程に流れるようになっているのですか。
宮田:大丈夫ですよね。私もCGで作ったデータをデザインデータにしたりしていますから。
−−いっそShadeでデザインしようとか。
相馬:別にソフトは何でもかまわないですよね。それで本当に必要だと感じたら3次元CADに移行するのは楽。製図のCADだけをやっていて3次元CADにいくのはえらい大変だけど、3次元のCGをやっていて3次元のCADにいくのは意外と楽です。
−−それもモノによりますよね。デバイス系のものだったらShadeで外装を作って中身と合わせるのは難しい気がしますが、家具や椅子なら問題ない。
宮田:おっしゃるとおり、ビジネスチェアなんかはデザイナーが作っているものは多いですし。
相馬:CGでもモノになるというのがわかれば、モノを作る人たちの3Dデータがガンと増える。それは楽しいことなんですよね。
宮田:実は、16年前にSoftimageを使って、某玩具メーカーのキャラクターの原型とかを作っていたんです。それをアニメーションにして動かしてというのをやっていたんですけど早すぎました(笑)。某社担当者とかに見せても、すごいんだけど何だかわからないという。
−−モノ作りのデザイナーにはそれなりのノウハウがあると思いますが、そこをわからないでCGクリエイターは形を作れるのでしょうか。
宮田:無理だと思います。金型がわかっていなければ実際の金型になるデータはできません。割り方やパーティングライン等にしても。
比古田:デザインの職域はもともとは技術部意匠課だったんですよ。さらにメーカーの根本って、誰かが何かを作りたいと思って、それを現実のモノにして売るわけでしょう。メーカーの究極の姿は「商品を考えて作って売る」。販売や営業まで含めて1人で完結できれば、それは理想だと思います。
相馬:最初から理想を追い求めてもしょうがない。僕が今すごく重要だと思っているのは、なんとなく全部わかったつもりでいるけれども、3Dでモデリングするという行為自体にもう1回光を当てること。3Dデータがやっと出てきましたというにはまだまだ心もとないです。モデリングできる人はやっぱりすごいじゃんとか、モデリングするといいことあるじゃんとか、CG処理ってかっこいいというところに立ち返るべきだと思うんですよね。
プロセス論、出口論が落ち着いてきたので、もう一度入り口論。出口論は必ず入り口論に帰ると思う。それでCADベンダーがもう一度責められるとしたら、モデリングが大変ということでしょうね。
−−ではそろそろ締めの言葉をお願いします。
宮田:先ほど言ったことですけれど、CADはアイデアを他の人にシェアする上で武器になるツールだと思いますので、そういう目線で考えていただいて、できるところから始めていただくといいのではないかなと。ちょっと弱めに言いますけど(笑)。
比古田:私はインハウスにいて、3次元CADが入ってきてデザインの職域が変わったと思うんです。広がったとか狭くなっただけではなく、変わった。それは現在進行形で、現場の人間が意識してもっといいかたちにしていかないと、デザイナーが本来負うべきミッションがどこかで見捨てられていく恐れがあるという気がします。確かに造形力やツールを使う能力が上がっていいけれど、それとともに設計の構造が変わっていくことでデザイナーに降りかかってくる役割によって、デザイナーが本来失ってはいけないものが見失われる怖さがある。そういうものを見失わないためにもみんな早く3次元ツールを使って、こういうことなんだとわかった上で抵抗するべきところは抵抗したらいい。
相馬:CADなんてデザイナーの道具じゃないというのは表面的なことであって。
宮田:デザイナーがどうして知的好奇心がなくてこういうものをどんどん使わないんだという話だと思うんですよ。その時点でNGじゃない? と思います。
−−さっきと違って過激ですね(笑)。
比古田:そういうためにも、かじるだけでもいいからちゃんとわかってデザイナーとしてどういう取り組み方をしないといけないのか考えるのは、デザイナーにとって半ば義務になってきているんじゃないかな。
宮田:次の世代はCADを使うのが当たり前になってきますものね。
比古田:次の世代になったときに、デザイナーと言われた人たちが持っていた大事なものがなくなっていないかという怖さが感じられます。答えは私もないんですけど。
−−音楽にしても出版にしてもデジタルが導入された直後はクリエイティビティが低下したと思いましたが、モノ作りにおけるCADはその時期も過ぎたのではないでしょうか。
宮田:そうかもしれない。それぞれの企業さんもいろいろと工夫をして、自分たちの使い方がようやく固まってきた。
相馬:道具に振り回される時期が終わって、「道具として使ってやる」というふうに設計部はだんだんなってきたんですね。金型は昔からそうで、3次元に必ずしなきゃというところと、製図のために2次元のままでいいやとか、すごくクールですからね。それは道具になりきっちゃったから。
道具を売るために、プロセスのせいにしていた時代はいよいよ終わり。みんなが3次元ツールを使っている中で「この道具って不自由じゃない?」と言われる日はもうすぐですし、メーカーがそこに対する努力を怠ってきたのは明白です。簡単に言うと、全部のプロセスを見ていてモデリングの時間が長すぎますから、縮めろというのは必然的に出ますよ。それは楽しみです(笑)。道具の進化は見たいですから。
−−CADはデザイナーの道具としてはまだまだプリミティブだということですか。
相馬:そうそう。ユーザーがそう言い出す時代はそこまできてますよ、ということです。そしてそれはすごく真っ当な意見だと思います。
−−本日はありがとうございました。
2007年7月、東京・恵比須にて。
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