●スマートフォンの時代
−−ここ1、2年でiPhoneを筆頭に、iPad、Android系スマートフォンがいろいろ発売され、デザイナー、クリエイターへの浸透度も高いように見受けられます。実際にこれらのデバイスによって仕事の生産性が上がりましたか。あるいはコミュニケーションが良くなったという実感はありますか。
大谷:私はライターという職業柄、周りはアーリーアダプターが多いので、早い時期にiPhone環境が普通になっていました。圧倒的にまずメールのやり取りですよね。それと、モバイル状態でのテキストメッセージ、マルチメディアメッセージのやり取りの量が増えて、それが当たり前になってきました。
−−いわゆるガラケーでのメールのやり取りよりも、情報量の面で増えたということですか。
大谷:情報量の面でも増えました。私は早いうちにフリック入力を面白いと思ってマスターしたので、iPhoneでのテキスト入力がそんなに面倒じゃないんですよね。それから、ほとんどフルでインターネットアクセスできますから、どこでも情報を得て、その情報をまた誰かに発信していくということが非常に簡単に、楽にできるようになりました。
−−ちなみに私はiPod touchとポケットWi-Fiルーターを利用していて、通話以外はiPhoneと同じような使い方をしています。でもノートPCに比べたら遅いですよね。それにやはり画面が小さいので、メインのコミュニケーションツールにはしにくい。メールチェックと取り急ぎの返信用ですとか。ですから、どうしてもニュースなどの情報収集と音楽・ビデオなどのエンターテインメント利用が中心になります。
大谷:iPhone/iPod touchの場合はそうですね。その次の段階としてiPadが出てから、いままでノートPCで行ってきた役割がiPadに移行してきたわけです。私の周り、例えばMOSA(Multi OS Software Association)の理事会では8〜9人の半数ほどが会議にiPadを持ち込んで利用しています。
それと私は物理的な整理が苦手なので(笑)、紙のメモとかが散逸しちゃうんですよ。でも思いついたメモ書きなどが確実にある場所を作っておけば安心ですよね。それこそEvernoteに入れておいて、キーワードで引っ張ってこられるというとすごく楽なわけです。そういったメモ書きのための入口として何らかのデバイスが欠かせない時代だと思います。
それとiPadは電池の心配がいりません。掛け値なしにネット接続しながら10時間バッテリーが持ちますから。私は原稿執筆が決して早くはないんですよ。そうすると例えば新幹線で、PowerBookやMacBookを使っていると、バッテリーの残量がすごく気になってしまう。でもiPadになってからは、コンセントのない車両でも全然気にならなくなりました。
−−大谷さんにとっては、iPadは入力機器にもなっているのですね。
大谷:私の場合はそうですね。キーボードは最初は心配だったのでBluetoothのタイプも買ったんですけど、慣れたらiPadの画面上のキーボードで十分いけてます。
書きかけの原稿は、保存先をローカルでなくDropboxに入れておけば、家に戻ってMacを立ち上げDropboxからさっきの原稿の続きを書き始めればよいわけです。
−−ノートPC時代よりも今の環境のほうがよいですか。
大谷:それは目的によりますね。もちろん、ノートMacも使います。例えばpdweb.jpの原稿はMac上で書くんです。写真の整理もしながら、レタッチもしながら、場合によったら画面内に注釈も付けながら原稿も書く。こういった作業は、マルチウィンドウ環境じゃないとスムーズにいかないわけです。だから、テキスト原稿とかエッセイなどはiPadで全然問題ないんですけど、図版を作成しながらといった作業にはマルチウィンドウのコンピュータが必要ですね。
−−iPhone、iPad用のアプリケーションはそういう意味では編集的なソフトがあまりないですよね。
中林:「MUJI NOTEBOOK for iPhone」とか?。
大谷:私はMUJI NOTEBOOKはけっこう打ち合わせなどで使います。iPad上では、きちんと大画面用のレイアウトになりますし。ただ、図版は作ったとしてもあくまでもラフとしての扱いで、そのまま原稿にはしていません。あるいは「Photoshop Express」みたいなフォトレタッチ系のアプリもありますが、まだ写真を原稿用に調整して送るにはちょっと物足りない。
もちろん個々のツールとしてはそこそこいい出来のアプリもありますが、自分の仕事という意味では、それらをマルチウィンドウ環境で使えるかどうかがということが大きいですね。
ただ、アップルは、初心者のつまづきの原因の1つにマルチウィンドウの概念があると思っています。また、マルチウィンドウでフルマルチタスクだとCPUパワーやバッテリーの消費も激しくなる。
そこでiOSデバイスはあえてシングルウィンドウとして、マルチタスクもアプリケーションスイッチングに近いものとし、一方でOS X Lionにフルスクリーンアプリケーションモードや、アプリケーションアイコンのみがグリッド上に並ぶ「ラウンチパッド」画面を新たに設けて、iPadなどからステップアップしたときに戸惑わないようにした。
ですから、マルチウィンドウが使えないことは必ずしも弱点とは考えていなくて、iPadはiPadなりの用途を見つけて使いこなせばよいと思います。
−−なるほど、では中林さんのワークフローはいかがでしょう。デバイスの進化をどう生かしていますか。
中林:私はiPhoneは遅かったんですよ。日本で発売になる1年前、出たすぐのiPhoneをiPodStyleの方が持って帰ってきて、渋谷の飲み屋で男4人ぐらいで「えー、見せて見せて!」なんて言って衝撃を受けました。でもその1年後には原宿のソフトバンクには並ばなかったんですね。ちょっと様子を見てました。それで、2009年の終わりか10年の初めかぐらいでようやく入手しました。
−−何故当初見送ったのですか。
中林:それはNewtonの教訓があるから(笑)。ちょっと待とうみたいな。
−−そんな感覚、今の人は分からないですよ(笑)。
大谷:いや、中林さんと同じ思いは私にもありますけど(笑)。余談ですが、Newtonのフリーハンドで幾何学的な絵が描けて簡単にアレンジできるツールとか、私もあの機能だけは本当に欲しいと思うんですよ。あれがあると、ラフの図版作成がすごく楽になるんですよね。指でちょいちょいと描くだけで、ちゃんと幾何学図形に変換されるので。
中林:iPhoneの前はイーモバイルの通信端末を使っていて、Touch Diamondも使っていた時期がありました。Touch Diamondをモデムとして使っていたんですけど、Touch Diamond単体だと遅くて使いものにならなかった。モデムとしては速いのに、Windows Mobileがどうにもならないのでイライラして、「もうダメだ」ってiPhoneに替えちゃった。今年はどこかでiPadも導入できれば思ってるんですけど。
−−そもそも中林さんがそういう端末を利用する目的は何が多いのですか。
中林:まずはコミュニケーションですね。
−−それは従来からのメールと通話ですか。
中林:ずっと通話用にauの携帯電話を持っていたので、iPhoneでは限られた人としか通話はしていません。それとデザイン作業にはさっき大谷さんが言ったようにマルチウィンドウ環境が必要ですよね。それでMacBook Proを持ち歩いている上にiPadを導入するのもどうかなって思いますけれど(笑)。
−−面子オーバーな気がしますね。
中林:そうそう。ここから先が非常に悩ましいんですよね。今はiPhoneとMacBook Proがメインで、事務所や自宅にはもうデスクトップPCはないですからね。CAD用にHPのElitebook(Mobile Workstation)はありますが。
−−メインマシンでモバイルしているのですね。モバイル環境でもWi-Fiがあればスピード的にも問題ないですよね。
中林:ただ、こういった環境はフリーランスの人間には便利で効果的ですが、例えばインハウスデザイナーは社内で仕事をしているから、どこでも仕事を行うという気楽な感じはないですよね。インハウスデザイナーは社内LAN環境なので、そこからFacebook、Twitterさえブロックされていたりする会社もありますから。
大谷:確かにそのとおりですね。
中林:独立系の人や20人以下の会社だったら、グループウェアの「FirstClass」を利用しているところもありますね。iPad用のアプリみたいには安くないですが、自社サーバーに入れておくとそこをベースに全部コミュニケーションができる。それでもメンテナンス、バージョンアップなどに費用がけっこうかかるので、小規模な会社はそれさえも使わない。
私の知っている会社は、社員全員がFacebookのアカウントを持って、Facebook内のグループで、連絡、待ち合わせなどのやり取りを全部行っていたりするんですよね。
最近は「Evernote」や「Dropbox」が出てきたので、データレベルのやりとりまで、さらに手軽にコミュニケーションが可能になりましたね。
●Evernoteを核とした仕事スタイル
−−DropboxやEvernoteといったクラウド系のサービスは、一度登録すればどの機器でも手軽にシームレスに使えるので、簡単すぎてセキュリティが心配になりませんか。
中林:どちらも心配で仕方がないというレベルではないですね。
大谷:Evernoteは外部の記憶として使っているので、それが盗まれても、「大谷こんなこと考えてるのか」ぐらいしか分からないから別に全然かまわないんですよ。
中林:あるいは自分にしか意味が分からないようなメモを書いたりしているぐらいで、国家が転覆するような内容もないわけですから(笑)。
−−データファイルのハンドリングはどうですか。
中林:私はメールに添付されてきたファイルなど、すべてEvernoteに転送しています。
大谷:有償でも無償でもユーザー登録すると専用アドレスが与えられて、転送できるようになるんです。
中林:そうすると大切なデータはクラウドにもある、Macのローカルにもある、Windowsのローカルにもあるという状態になります。それで、例えばSolidWorksのネイティブファイルなど、例えばGmail上で見るとただのアイコンですが、WindowsのEvernoteで見るとサムネイル化されて、3Dデータがアイコンで見えるんですよね。
大谷:さすがに私にSolidWorksのデータを送ってくる人いないので(笑)、それは初めて聞きました。私は急ぎの校正など、PDFで送られてきたものをMUJI NOTEBOOKや「GoodReader」で開いて、赤を入れて送り返すとかモバイルでやっています。さらに緊急だとiPhone上で校正して送り返すという場合もありますね(笑)。
−−赤字は手書きですよね。
大谷:そうです。簡単なものだったら指で丸を書いてここはこう直すとか。あるいは修正箇所にA、Bなど合い番号を入れて、それに対応したテキストを別に打って送るという手もありますよね。
−−そういう意味では、確かにガラケーでメールでやり取りしていた頃に比べたら、ずいぶんリッチなコミュニケーションが可能になってきましたよね。
大谷:逆に言うとどこにいても仕事ができてしまうので、追いかけられるというか、言い訳はできないですよね。
−−確かに。私もそうですけど、モバイルをやる人は多分”貧乏性”ですから(笑)、何かあったときにリアルタイムで対応したいという気持ちがどこかにありますよね。
大谷:もちろん校正を送ってくる人は緊急だからそうしているので、なるべく早く対応してあげたいとかね。そういうのは当然あるし、それに応えられる環境ではあるわけですね。
中林:それと私の場合、さまざまな仕事が混在してますから、メールなどの情報は一度全部Evernoteで1つのノートになっているというのは楽なんですよ。Evernote上でタグで分けて管理しています。
大谷:さすがですね。私なんかずっと分類せずに追加している状態です。その代わり、キーワードだけは、その場で付けておきます。そうすれば、検索機能で何とかなりますから。
中林:タグ分けして全部入っているので、例えば日藝の学生に出している課題は来年になっても再来年になっても、Evernoteを見れば歴代のものが一望できます。
それと「Tumblr」(タンブラー)も使っています。デザインは言葉も重要なんだけれど、言葉じゃないものもけっこう重要じゃないですか、画像や写真など。そういったものはタンブラーでスクラップしています。
大谷:分かります。
中林:タンブラーで得た情報も、建築、デザイン、アート、サブカルという風に分類しています。比較的、更新頻度の高い人を狙ってフォローしているんですよ。設定でEvernoteのタグまで指定しておいて、これいいな、使えそうだなと思った写真などをEvernoteに送ります。
中にはプレゼンのイメージ画像に使うこともあるので、プロジェクト名の資料というタグで括っていくんです。そういうこともできるのでなかなか便利です。
大谷:中林さんは、その転送量だとEvernoteは有料ユーザーですよね。私の場合は世知辛くというか、無料のままでどこまでいけるかというのを試みていたりして(笑)。データはずっと残りますが、課金対象となる転送量はひと月ごとにリセットされてゼロに戻りますから、私ぐらいのデータ量だと案外それができちゃうんですよね。テキスト中心ということもありますが。
中林:プレゼンテーション用に「Keynote」で作った資料などもPDFにして全部Evernoteに入れてますね。でもだいたいKeynoteで30ページくらいのPDFを作ってEvernoteに放り込むと、けっこうなデータ量になるんです。ですから気軽に使いたいのでストレスフリー代として年間6,000円使っている感じですね(笑)。
大谷:機能を考えたら安いんですけどね。
−−ということはローカルのハードディスクはテンポラリーなデータが多いわけですね。
中林:そうそう。
大谷:私の場合は、逆にここまでネットは発達してるけども、それでもアクセス不能な場合はありますよね。そうなるとどうしようもない状態になるので、ローカルはローカルで取っておかないと不安があり、またそこが大変なんです。結局、先の転送量の問題や出先で3G回線で落とすことも考えて、ネットに上げるデータは厳選し、けっこうどうでもいいものも含めてローカルに取っておく癖は、相変わらずですね。
要は、自分の場合、MacBookが手元にあれば、とりあえずは全部何とかなるというような環境が、まだ必要なんですね。本当にユビキタスになって、完全にダウンタイムがないということになれば理想ですけれど。
もしかすると「iCloud」などが出てくると、それに近い環境になっていくかもしれないんですけど、そこへアクセスするためにやっぱりWi-Fiなのか、3Gなのかとか4Gなのかといった回線の確保の問題は残ります。そのあたりの問題は、まだしばらく解決しそうにないなと感じますね。
−−面白いですね。中林さんと大谷さんでは、ネットとローカルの重心の掛け方が真逆です。
中林:ネットでは「Google Reader」にけっこうRSSを登録しています。RSSは今「NewsRack」を使っているんですけど、けっこうな数になるんですよ。Google Readerに入っているのはどうでもいいニュースまであるので。それで、それこそ本当にチラッとだけでも読んでおこう、ここに出てくる数行だけだと分からないというものは、とにかく「Read It Later」に飛ばしています。Read It Laterだとどの端末でも見られるから便利なんですね。チラッと見て不要だと思ったらすぐ捨てて、本当に必要な情報だけをEvernoteへ送ります。
−−中林さんの仕事のスタイルは、今かなりEvernoteが中核になっていますよね。Evernoteがなかった1年前、2年前と今は全然違いますか。
中林:違います。今は種類の違う仕事がいくつかきても、それこそGTD(Getting Things Done)じゃないけれど、とにかくEvernoteを見ればいいみたいな(笑)。マシンがなくてもアカウント、パスワードを入れればどのマシンでも自分の状況が手に入りますからね。
−−手ぶらでもなんとでもなるような状況にしているのですね。
中林:そんなことはないですけどね(笑)。仮にIllustratorのファイルを開く必要があったとき、そのマシンにIllustratorが入っていなかったら何もできないですから。
大谷:私の場合はiPadそのものが外部記憶のようなものです(笑)。Evernoteのようなツールも含めて、日々やるべきことをセットしているので、設定した日時が来るとアラートだらけになりますが、何かを忘れずに済むというのは、すごく安心ではありますね(笑)。
−−多分私のEvernoteの使い方が一番シンプルで、基本的には1つのノートしか使いません。そこにやるべきことからアイデアメモまですべて書き込んでいって、デスクトップPC、ノートPC、iPod touch、Androidのスマホなど6つぐらいの端末で共有しています。ただiPod touchやAndroidではEvernote上で入力・編集がしにくいですね。どうしても小さい端末系はブラウズ用途がメインになります。
大谷:使い分けは確かにありますね。自分も、特にiPadを手に入れてからは、iPhoneは情報を入れる装置というよりは見ることが主体になっていますし。街角とかで両方持っていたとしても、見るだけならiPhoneのほうが全然便利だし、楽だし軽い。
−−でも本当はスマホで手軽に入力したいんです。歩いていて思いついたことを、片手でパッと入れたい。
大谷:その場合はもうボイスレコーディングですね。Evernoteも録音できるので。そうなると本当に立ち止まる必要もないし、タイピングと違って周囲への気遣いがおろそかになる心配もありませんから。
−−電話してるフリみたいな(笑)。まあでも、編集の仕事は最初の1行の思いつきメモが徐々に膨らんでいくので、スマホでもテキスト入力環境を望みたいですね。フリック入力も必要に迫られて行いますけれど、やはりガラケーのテンキーが欲しいところです(笑)。
大谷:iOS 5はまだ全貌が明らかになっていないところもあるんですけど、解析したらNuanceという音声認識の技術の痕跡があるんです。アップルは人工知能と音声解析を利用した検索システムのSiriを買収しましたが、iOS 5でいよいよ組み込んでくるのではないかと期待しています。
アップルは当分の間タイピングの機能もなくさないとは思いますが、このサイズのデバイスではタイプ入力というのは過渡期的なものだと考えているフシがありますね。だから、話したらそのまま入力もできるし、検索もできるという環境を目指しているのでしょう。
−−なるほどね。
大谷:以前からいろいろなところに書いてるんですけど、アップルにはかつて「Knowledge Navigator」という未来の情報環境のコンセプトがありました。あれが優れていたのは音声認識だけじゃないし、タッチだけじゃないんですね。タッチは位置指定は楽なんですけど、そこに何するかのは結局メニューとかを開かないとできない。そして、音声は指示は楽なんだけど位置指定が難しい。「ここ」とか「そこ」と言うだけでは曖昧すぎてダメなんですよね。
ところが、両者を組み合わせると、指でタッチした場所に対して「何々をする」と指示できるようになる。そのインターフェイスを、Knowledge Navigatorが1980年代後半に見せていたわけですが、アップルは今でもそれを狙ってると思うんですよ。マルチタッチと音声認識が組み合わさると、すごく強力なインターフェイスになるはずですから。
例えばフォトレタッチをする場合でも、ある領域を指さして「明るく」と言って徐々に明るくなっていって、パッっと離したらそこで止まるとか。そういうことがビジョンとしてはできるわけですね。そういう処理を音声認識に組み合わせてくると思うんです。
入力もちまちまやらずに、話すとそれがある程度正確な文章になってくれるとか。Evernoteも、現状でも写真を解析してタグ付けしてくれますけど、音は音声データのままです。ただ、「Dragon Dictation」という別の無料音声認識アプリでは、日本語もかなり正確にテキスト化してくれる。これに近いものをアップルがOSでサポートすれば、話した内容がテキストとしてEvernote入力されることもできるようになるはずです。
−−結局テキストにならないと後処理しにくいですから、そこまでくれば非常にいいですね。
●よく使うアプリケーション
−−Evernote周辺やDropboxなど以外では他にどんなアプリを利用されていますか。
大谷:情報収集的には「Safari」は普通に利用しています。標準のメールアプリなどももちろん使いますが、それ以外だと「Flipboard」とか「Pulse News」。Pulse NewsはFlipboardと似ていますが、ちょっと情報のオーガナイズの仕方が違ってるんです。わりとそういうRSSとかで配信されてきている情報を従来のRSSの流れではなく、もう少しオンラインマガジン的に構成して見せてくれるようなものが個人的には心地よいですね。
打ち合わせなどではMUJI NOTEBOOKや「AudioNote」が活躍しています。AudioNoteは、テキストのキーワードを入れながら録音をするとキーワードを入れたところが全部インデックスになるだけでなく、絵やイラストでもインデックスとして機能するんです。
後からテキストに起こす場合などに、メモが間に合わなかった部分とか、ちょっと曖昧なところがあれば、そのキーワードのあたりをタッチすると、すぐにその部分の音声が頭出しされます。そして、その前後を聞くだけで必ずキーワードについての話が出てきますから、効率がよいわけです。
−−テキストの入力時間がタイムラインになっているわけですね。その録音データはメールか何かで抽出はできますか。
大谷:テキスト部分と音声部分は別々にコンピュータにも送れるのですが、シンクロ再生はできません。しかし、わざわざ転送しなくても、iPad上で再生すればいいだけのことです。そのときにiPad上で再生しながらiPadで書く必要はなくて、iPadを傍らにおいて、Macでテキスト起こしをすればいいわけですね。
−−そのときにはiPadはプレーヤーになっているのですね。
中林:私は録音には「HT Professional Recorder」を使っています。これを会議モードにしてポンと置いておくと、ちゃんと距離感もひっくるめて分かるような感じで録れるんですね。最近、日経ビジネスオンラインの連載で取材に行ったときにはとにかくこのツールを使いましたね。
大谷:それからアドビのPhotoshop Express。先ほども言いましたが、直接、原稿に使うような処理はしなくても、プレゼンテーションに組み込む写真の縦横を回転させたり、暗くつぶれているところを補正するといった簡単なレタッチなどに使っています。
それから、擬似マルチウインドウ的な「Maven」というブラウザも便利な場合があります。現状のiOS用のSafariはタブブラウザではないので、開いている他のページを見るのに、一度サムネイル画面を呼び出して選ぶ必要があるんですけど、Mavenはタブで切り替えたり、画面を縦に2分割して、異なるサイトの比較も行えます。
それからFlashサイトを力技で見ることができる「Puffin」というWebブラウザも、いざというときに便利です。Flashアプリの再生はサポートされていませんが、たとえアドビのサイトにジャンプしても、ちゃんとFlashアニメーションは見ることができます。
ページを開いたとき、Flash部分にはアイコンだけが表示されるので、それをタッチすると、Flashデータがサーバー側で変換されiPadで再生できる状態にしてWebページを書き換えるんです。おそらく、FlashをMP4化しているのでしょうね。
テキスト入力用には「Textforce」もわりとよく使います。あとは「GoodReader」。GoodReaderはけっこういろいろなファイルが開けるので、添付されてきたものはとりあえずGoodReaderで確認するといった用途ですね。
−−iPhoneのメーラーでテキストの添付ファイルをもらうと化けますよね。
大谷:そういった場合にもGoodReaderで解消できることもあります。それとプレゼンテーションにはKeynoteはもちろん使います。今はiPhoneでも使えるようになりました。私は今ではプレゼンテーションもほとんどiPadで行いますが、その場合「AirPlay」がすごく便利ですね。Apple TVとAirMac Expressを持っていってローカルにネットを張れば、iPadから画像や動画を飛ばして無線でプロジェクターに表示できます。現状では、Keynoteの再生や画面のミラーリングには有線接続が必要ですが。次のiOS 5では、iPad 2からすべての映像出力をワイヤレスで行える予定です。
OfficeのファイルはiWorkで開けますが、レイアウトが崩れたりもするので「QuickOffice Pro HD」というOfficeの互換ソフトを使っています。閲覧だけでなく、編集にも対応していますし。あとはGoogle翻訳をiPhoneで使ったりとか。
−−大谷さんはさすがにライターならではの最新ツールをフル装備ですね。中林さんのアプリケーションはどうですか。
中林:位置情報のツールですが、プロジェクトチームで動く場合、わざわざメールをしなくても「foursquare」で現状を伝えることができるので便利です。仕事の連絡も「連絡するぞ」と思わなくてもそれを見ている人たちが分かっているので、そういう人たちに対しては面倒くさくないですよね。どちらかというとTwitterも同じ感覚かな。自分のクリエイションもコミュニケーション上も、Twitterのクライアントはすごく重要です。
−−これまでTwitterのクライアントは何本か使いましたか。
中林:やたら使いましたよ(笑)。今落ち着いてるのは「HootSuite」をMacbookのブラウザで使っています。iPhoneではこの”フクロウちゃん”も入ってるんだけど主に「SOICHA」を利用しています。これはTweetMeの進化系で国産なんですよ。
今1200ぐらいフォローしてるから、いろいろなニュースも入ってきますよね。後で読もうと思った情報はRead It Later、Instapaperにリンクします。Read It Laterはブックマークサービスだから、けっこう核になってます。私にとっては情報の最後の振り分けみたいなところになってるから、Read It Laterは今のTwitter利用ではもうマストですよ。
−−基本的にTwitterを利用する目的は仕事の情報収集用ですか。
中林:仕事用もプライベートも、両方ですね。入れるのと、出すのと。両面。
−−フォローする人の人選によってね、Twitterの利用方法が変わると思います。役に立つ情報を持っているという側面だけでフォローしたりしますか。
中林:そういう人ももちろんフォローしてますが、ニュースやサポート以外にも、雑多な内容が混在しているのがTwitterのメリットなので、バラエティーに富んでます。そうなっても、Twitterはリストが作れますし、それを非公開とすることもできるわけで、そういう大雑把な整理はしています。
私は公開しているリストも職業別にしています。エディター、ライター、デザイナー、建築家さんとか。非公開のリストも2つあって、その1は本当に仲の良い人たちが200人ぐらい。仲間のデザイナーを含めてね。もう1つは、例えば松村太郎さん(@ taromatsumura)やTwitterでフォローしておくと面白いNo.1になった芦田宏直(@jai_an)さんなど、自分にとっての一方的な師匠という位置付けの人たちはここのリストに入っています。
−−フォロー数が多いと、ツイートを読むだけでも時間なくなりますよね。どういうふうに処理しているのですか。
中林:一期一会。
大谷:そういうふうにしないと交通整理できないでしょう。
−−読みきれないですよね。
中林:その時間内で戻れるところはパーッと見るけれど、さらにそこから遡りはしない。
大谷:だからどこかで線を引かないと、1日は24時間しかないので。
−−中林さんはTwitterにはどの機器で呟いていますか?
中林:TwitterはiPhoneがないともうやる気しないですよ。ガラケーでやるなんてとんでもない話で(笑)。
大谷:それはもうあり得ないだろうなという気はします。
中林:iPhoneなら、歩きながら片手で写真撮ってツイートしてというのは簡単ですからね。140字ぐらいだったら全然。
大谷:私は移動が自転車なので、自転車に乗りながらはできないですよね(笑)。あと、電車に乗っていて30分以上空き時間があるとプレゼンを作ったり原稿を書くことが多いです。だから私はTwitterのアカウントはあるんだけど、発信はほとんどしてないんですよ。逆に受信は「Flipboard」で。FlipboardだとTwitterもFacebookもRSSでくるようなものも一元的というか、雑誌みたいに見えますよね。全部フラットな状態で見えるのが、気に入っています。
だからライター仲間でものすごく原稿を書いてるのに、Facebookでも書き込み、Twitterにも発信し、多分原稿の締め切りが過ぎていて編集者もフォローしているのに「六本木でタクシーなう」とか書いていたりすると驚くんですよ(笑)。自分は、今どこで何をしているのか知られたいとは思わないので、現在地を刻々と知らせている人がとても不思議に感じられるんです。
−−不思議ですよね、あれ。
大谷:半日発信しなかったら何かあったのかと思われて、Twitterで「消息知ってますか?」とかリツイートだらけになった人もいましたね。ただ、疲れて寝ていただけらしいのですが。
中林:(笑)。
大谷:あと私は、仕事で原稿を書いたら、あまり他のテキストは書きたくないんですよね。書きたいことは、原稿のほうで出し切っているので。それよりも、例えば自転車に乗っていたり、手を動かして工作しているほうが楽しいんです。それときっと職業病に近いんですけど、例えば140字でもきっちり起承転結つけようとしてしまって、気軽にツイートできないんですよね。まあ、普通、そこまで考える必要はないんでしょうけど。
−−ああ、分かります。ライターも編集も文字で飯食ってますからね。文筆業の性みたいな。
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