「新世代デザイナーたちのモノ作り」第3弾はMicroWorksの海山俊亮氏。MicroWorksは「自分が作りたいモノを自由に発表したい」という思いから、海山氏自身がオリジナルデザインの企画、制作、商品化までを一貫して手掛けているデザインレーベルだ。個人から発信し、いまやその特徴的なデザインが広く知れ渡ったMicroWorks。その設立の経緯やコンセプト、モノ作りの発想やワークフローなどを聞いていこう。
海山俊亮
1981年東京生まれ。2003年ICSカレッジオブアーツ卒業。在学時からオリジナルデザインの企画・制作を行い卒業と同時に2003年MicroWorks設立。プロダクトデザインを中心に家具、アクセサリー、空間など素材やジャンルにとらわれず幅広くデザインを手掛けている。さまざまなプロジェクトで作品を発表する一方、セルフプロダクトレーベル「MicroWorks Label」を立ち上げ、自身の作品を生産・販売している。
http://www.microworks.jp/ |
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●デザインを自分の手でカタチに
−−まずMicroWorks設立の経緯から教えてください。
MicroWorksは、ICSカレッジオブアーツ時代に友人とチームという形で立ち上げました。当時はあくまで学校の課題とは別に、自分たちのオリジナルのデザインを作ろうという感覚で始めました。
−−ICSカレッジオブアーツは東京にあるインテリア系の専門学校ですね。
はい。僕はインテリアデザイン科でしたが、建築を学ぶ人もいればプロダクトや家具のデザイナーを志す人もいて、学科と言っても大きな枠組みでした。同じ学科の中で色々分かれていて、それが逆に良いところでもありましたね。
−−ICSカレッジオブアーツには高校を卒業後、自分の方向性をプロダクトデザインに感じて進まれたのですか。
入学した頃はプロダクトよりは空間に興味がありました。でも色々な授業を受けている内に、プロダクトは自分の手でまず形にできるという点にすごく魅力を感じました。最短距離で表現までもっていける、というか。それからどんどんプロダクトの方向にシフトしていきました。まずは家具に興味を持って、それから更に小さなスケールのモノに移行していったという感じです。
−−ICSカレッジオブアーツで3年間を過ごす中で、同時進行で自分の表現もどんどん実現させようという意図からMicroWorksの活動を始めたという流れですか。
そうですね。ただ試作1個作るのにもだいぶお金と時間が掛かるので、在学中に最終的な形になった作品は1個だけでしたね。それが「Jump Out Mirror」です。
−−「Jump Out Mirror」はインパクトがありました。
これはいろいろな素材や形で試作を相当作りました。鏡って大体の人が家に1つは持っていますよね。女性だったら複数持っている人も沢山いると思いますし。もしかしたら椅子より需要があるような物なのにあまりデザインの領域が及んでいないような気がしたんです。そういった意味でもこの作品は元々のMicroWorksの考え方を無理なく表現できたと思っていて、思い入れも強い作品の1つです。
−−プロのデザイナーとして活動するきっかけは、やはり「Jump Out Mirror」だったのですか。
そうなると思います。実際に多くの方が買ってくださったので自信にもなりました。そういう意味でも大きなきっかけになったと思います。
僕の場合は自分の世界観を作品を通して自己発信し続けて、ようやくその世界観が伝わるくらい作品が集まった時に、クライアントさんからも仕事の話をいただくようになりました。営業というより、あくまで自分の作りたいモノをどんどん作って表現してきたという感じですね。
−−その自己表現の場はコンペなどですか。
学生の頃はコンペにも出していましたが、MicroWorksとして本格的に活動してからは自身で商品化していたので、コンペに出品していた人とは真逆のことをしていたのかもしれません。表現の場は展示会やイベントでの発表が中心でした。最近はそういった発表の場が増えてきたと思うので、我々から下の世代は個人活動がしやすい環境にあるのかなとは感じています。
−−展示会が発表の場であり、ビジネスの場でもある。
そこからお付き合いが始まることもありますし、同業種の人たちとのネットワークも展示会やイベントから広がっていきましたね。
−−MicroWorksの場合、ビジネスモデルはロイヤリティやデザイン料がベースになるのですか。
基本的にはMicroWorksのブランドとして作っているので、MicroWorksがメーカーそのものです。ですから在庫を抱えてショップにも自分たちで納品しています。なのでデザイン料ではないですね。一応ロイヤリティになるのかな(笑)。クライアントさんとのお仕事の場合はケースバイケースですが、個人的にはロイヤリティが良いと思っています。売れたらその分の対価をいただく。シンプルですが自分へのプレッシャーにもなります。
あと自分でレーベルをやってることからも分かると思いますが、生み出したものとはずっと関わっていたいという思いも強いです。なので一度自分のレーベルから販売したものは基本的には廃盤にはしません。今後も作ってくれるところがある限り、ずっと同じ商品を売り続けていきたいと思っています。
−−MicroWorksが製造コストも持っているわけですね。
そうですね。その辺りのリスクは全部僕が背負っているので、自転車操業みたいなものです(笑)。資本も全然なかったのですが、その辺は知恵を絞ってやってきたという感じです。
−−そのスタイルがMicroWorksのデザインコンセプト、特徴につながるのでしょうね。
自分ではあまり意識していませんが、そうなのかもしれません。でもそれは後から分かってきたことで、最初から計画的に狙っていたわけではないですね。本当に作りたいものをどういう形で市場に流せるかを考えて、一番シンプルで早い方法を考えた結果がこういうスタイルだった、という感じです。
−−ショップとのやり取りも直販ですか。
お店にもお客さんにも基本的には直販です。MicroWorksが参加するイベントはマーケット的なのものが多くて、直接お客さんとのやり取りになります。だから、やり取り自体がものすごくリアルです。MicroWorksの作品に対して専門家に評価されるのもすごくありがたいのですが、なにより「買ってくれる」ということが最大の評価かなと思っています。
今はクライアントさんのお仕事もやらせていただいていますが、あくまで自分のレーベルを軸に両立してやっていきたいと思っています。
−−「自分で起業するのは大変だから企業に入る」と考える人は多いと思いますが、海山さんはそうは考えなかったのですか。
考えなかったです。わりと楽観的というか、とりあえず30歳くらいまではやれるだけやってみて、それでも全く芽が出ないようだったら必死に就活でもしようかなぐらいの気持ちでした(笑)。
−−自分のデザインに対しての自信というか、自分のメッセージを純度の高いまま発信したいという気持ちが強かったのでしょうか。
ズバリそうかもしれません。
自身については、デザインを勉強している学生って多分ほぼ全員が「ほかのヤツよりオレのデザインは面白い」みたいな根拠のない自信を持っていると思うんです(笑)。僕も例外なくそんな感じでした。
僕の場合は自分の作品を発表して販売してみたら実際に結構売れた、というのが大きな自信につながりました。実際、その売上でまた次の作品を作ることができるというのはすごく幸せなことですしね。そしてまたその作品が売れて・・・ということを繰り返しながら本当の自信が少しずつ育ってきたのかもしれません。
−−学校を卒業してすぐにモノ作りの現場に入ると、最初は製造現場とやり取りをするためのノウハウや知識はあまりなかったと思います。
たぶんいまだに知識はあまりないですね(笑)。逆に、僕はあくまで自分の表現したいものを最初にポンッと提案させていただきます。もちろん現実的に難しいと分かっていても、まずは言ってみようという感じです。それに対して職人さんやメーカーさんがいろいろとアドバイスをくださるので、そこから現実的な部分のやり取りを重ねていって最終的な形に落とし込むというスタンスです。
●NO HUMOR NO DESIGN!! とは?
−−ブランドのコンセプトである「NO HUMOR NO DESIGN!!」はMicroWorksのモノ自体にしっかり表われていると思いますが、改めて目指すところを教えてください。
「ユーモア」を一言で表すのはなかなか難しいと思いますが、業種や性別、年代などを問わずに共有できる1つのきっかけと考えています。
僕がデザインしている日用品やプロダクトってすごくリアルなアイテムだと思います。身の回りにいっぱいありますし、すべての人が普段から日常的に使うものなので、利用シーンを想像しやすいモノばかりです。ですから、MicroWorksの作品を見れば自分の生活の中にそれがあるシーンをイメージしやすいかと思うんです。
それが分かりやすいアフォーダンスとして表現されていたり、行為によって生まれるちょっとした笑いだったりが、僕の中でのユーモアという定義かもしれません。
また、デザインされたモノはただ表現して終わりではなくて、世の中に落とし込まれてはじめて意味があると思っています。適切な言い方ではないかもしれませんが、「売れてこそ」というか、世に浸透して生活で使われるようになってようやく意味を成すのかなと。そういう意味で、たくさんの人に分かりやすくという思いを込めて「NO HUMOR NO DESIGN」をテーマとしています。
−−MicroWorksの作品を拝見すると着眼点の斬新さにいつも驚かされます。「引くデザイン」ではなく「足すデザイン」と言いますか、「こういう発想は見たことがない」という作品ばかりです。
そんな風に言っていただけて嬉しいです。
僕は普段、机に向かって「何かを作ろう」と考えてデザインすることはほとんどありません。無理に理由をつけて新しい物を作りたくないので、日常のふとした瞬間にひらめいた自然な感覚のアイデアを大事にしています。
浮かんだ時はその場で、後で分かるようにアイディアを控えておきます。で、一度寝かせて後で見直してから作るかどうかを判断しています。なので、その時だけ盛り上がってるだけのパターンもよくあります。
僕はデザイナーとして最も心がけていることは、一生活者として普通の日常生活を送ることです。一生活者として感じるストレス、ちょっと面白い動きや気になる形など、それこそ要素はいっぱいあるわけですから、そういうものを自然な感覚で感じるようにしています。そうやって拾い集めた小さな要素をストックしておいて、後でそれらをアイデアと組み合わせる、という具合ですかね。
−−それは、ユーザーさんには使って和んでもらいたいとか、ニヤッとしてもらいたいということでしょうか。
そうですね。でもそういった部分はあくまできっかけかなと思っています。
やはり、長く使ってもらいたいし大事に使ってもらいたいという思いが第一にあります。日常の些細な行為をちょっと面白く変化させてくれるモノがあったら使う側もその都度楽しさを感じることができますし、時間の経過とともにそれが愛着に変わっていくかもしれません。そういった感情や心に訴えかけるようなアプローチが、結果的にモノを大事に長く使ってもらうことにつながるのではないかと思っています。
−−国内外問わず、海山さんが刺激を受けたデザイナーはいらっしゃいますか?
特定のデザイナーさんはいないです。
−−特に特定の誰かを目指してきたというわけではないのですか。
そうですね。「好きなデザイナーさんは?」とよく聞かれますが、いつもちょっと困ります。もちろんすごいな、面白いなと思うデザイナーさんはたくさんいますが、実際にモデルにしている方はいません。
−−デザインアイデアの発想法ですが、たとえばミラーであれば、ふとアイデアが天啓のように降りてくるのですか? それともミラーというテーマをとことん突き詰めた結果として最終的なカタチに辿り着くのでしょうか。
それはケースバイケースですね。具体的な部分も含めてパッと浮かぶ場合もあれば、なんだか分からないけどこの形は使えそうだとか、この行為は違う表現でもうまく利用できるのではないか、などといった色々な要素を組み合わせる場合もあります。
今もアイデアだけだったらすごくたくさんあります。現在はその中で作れるものから作っているという状態です(笑)。
−−アイデアは言葉に記すのですか、それとも絵を描くのでしょうか。
それはその時の状況によります。手元にメモ帳などがある場合は絵を描きます。でも僕の場合は移動中や会話中など、きちんと準備ができていない時にひらめくことがほとんどなので、とりあえずケータイのメモ機能にテキストで入れておくなんてことも多いですね。
−−一生活者の視点で周囲を見ると、日常のあらゆるモノがデザインの対象になって、興味の対象もどんどんと膨らむのでしょうね。
そうですね。そういう意味では何でもやってみたくて、家具はもちろんファッション的なアイテムにも興味があります。たまたま僕の場合は日用品に落とし込むことが多いですが、自分のアイデアを表現できれば対象物は何でも良いと思っています。
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