●製品に「参らしさ」が宿るまで
−−1つのプロダクトを結実させていくアプローチとして、リーダーシップは誰がとるのですか。
松尾:基本的には言いだしっぺです。「これをやりたい」と言った人間が責任を持ってリーダーシップをとる場合が多いです。あとはクライアントがあってのプロジェクトの場合は、
甲斐:先方の関係者と近い人が担当します。
松尾:もしくはそのプロジェクトの一番核となる分野に強い人とかですね。例えばインテリアの仕事だったら下山がメインのほうが動きやすいし、もう少しソフトウェアに近い仕事だと甲斐のほうが動きやすい。
−−実際の製品、作品からは参らしさを感じますが、それはどうやって生み出されていると思いますか。
松尾:それが分かんないんだよな〜。
甲斐:まず、それぞれの職能は置いておいて、作るモノに対してのストーリー付けというか、「これがあったらどうなる」みたいなところをある程度立場を超えて話し合います。その中から何が出てくるか、ですね。だから最初に言いだしっぺが言いだしたモノと、最終的にできるモノは全然違うことの方が多いと思うんですよね。
松尾:「スミバコ」も、僕が最初に提案したときは、それこそ本当に炭で作るゴミ箱をイメージしていたんですが、それが最終的にぜんぜん違うものになった(笑)。僕は最初、炭で作る硬いものじゃないと意味がないみたいに言ってたんですよ。
−−硬いイメージだったのですね。
松尾:それを僕はイメージしていたんですけど、2人の中ではそうじゃなかったようで。
甲斐:そんなのいらないって(笑)。全力で「いらない」って。
松尾:で、気づいたらこうなっていて。でも言われてみれば確かにこれがいいなと。
甲斐:肯定するのも否定するのも、誰かが何かを思いつかないと始まらないわけで、話し合いの中からどういうヒントを得られるかが大事なのかな。
松尾:たぶん僕が1人でスミバコを考えていたら、硬い炭で作るというところから逃れられなかったでしょうね。ぜんぜん違う視点があるということが大切だと思います。
−−柔軟ですね。
甲斐:たぶん僕たちは造形ありきできた人間ではないからかもしれません。だから絶対譲れない部分は造形ではなくコンセプトなんでしょうね。
松尾:他の2人が言っていることを理解しようとすることが重要なんです。はじめ聞いたときには「ええ?」って思うんです。でも2人が何故そういうことを言っているのかを理解しようとしなければならない。そうじゃないと3人でやる意味がないんです。
甲斐や下山がなんでイヤだと言うんだろうとか、そこをよく考えるんですよ。それで、自分も2人の言うことを1回好きになってみようとするとか。その中で理解が深まっていくんですね。そこで「俺ヤダ」「俺ヤダ」になっていくと、話が進まない。
−−それでも自分のアイデアのほうがいいと思ったら、さらに提案する?
甲斐:うん。乗せていけばいいんじゃないですかね。
松尾:アイデアの出し合いで、方向は変わっていくんだけど、結果乗せていくので上には進んでいくんです。
−−誰かが出したアイデアでも3人で揉んでいくから参らしさが出ていくのですね。
甲斐:一仕事が終わったときに、自分が最初と違う状況になっていればすごく幸せだと思うんですよね。ちょっと成長しているというか。
下山:あとは最後、「ここで出たものは自分のもの」と思えることが一番。
松尾:僕はどちらかというと参として出てきたものは、ほとんど僕が手を動かしてなくても「これはうちらが考えた」と思っちゃうんですよ。僕は参という活動が世の中にどう影響したかというところに興味がありますね。
●「日本」らしさは必然
−−参の作品を外野から見た印象としては、やはり「日本」かなと思います。日本というかJAPANというか。伝統工芸的なニュアンスも感じつつ、モダンでもあるけど、でもこれは海外のデザイナーさんのデザインではない。日本のDNAを感じるのですが、それは意識されていますか。
下山:よく言われます。なんかニュートラルじゃないんですよね。ダサさが日本っぽい(笑)。
松尾:意識して日本ぽくということは一切ないんですよ。
下山:でもいわゆる「和風」という意味ではないんですよね。
甲斐:ミラノとかでは、造形はすごいシンプルなモチーフ、丸とか四角とか、そういうものを基本にしている、でもクレバーで、アイデアがあって賢くて、みたいなことを言われたことが多かったかな。「これはすごく日本ぽいね」と向こうの人から言われたのは印象的でしたね。
松尾:空間を意識してモノ作りしていく中で、どうしても自分たちの住んでいるこの場所をベースに考えるから、いきなり石造りの建物の世界のモノにはならないのかなと思います。かといって和室を想像しているわけでもないんですが。
−−必然でもあるんですね。
甲斐:ツタが生えてるような、そんなアールデコな住居に住んでいたわけじゃないので(笑)。
下山:だから彫刻的ではないんだと思うんです。何かしらの周りの空間とかいろいろな現象の関係性で成り立っているものが多いというのも日本ぽさになっていますよね。それと、1人で作っていないというのもある。
●モノよりコンセプトの提案を
−−ビジネスモデルというか、参はチームとして採算をどうとっているのでしょうか。利益集団なのか、プロトタイプ作りメインなのか、ビジネスチームなのか自己表現的なアートチームなのか。その辺をもう少し明確にお話いただけますか。
松尾:ミラノサローネに出展した2008年が分かれ目だと思っています。そこまでは参は比較的活動の場というスタンスが強かったんですけど、ミラノ以降は僕らの中でビジネスとして参の活動を行うことに切り替えた時期です。下山が独立したというのもあります。
でもそこで利益体質が大きく変わったかというと、そんなには変わっていないです。入ってくる分は増えているんですけど、もともとの自分たちの作りたいことを作るという方で出る分も多いので。昔は持ち出しだけだったのが、だんだんトントンとか、ちょっと残るかなぐらいの感じですね。
下山:クライアント側にも参がよく分からないというか。デザイナー集団だったら分かりやすいでしょうけれど、参に依頼するという時点で、通常のモデルとは異なる気がします。
松尾:この人たちは何ができるんだろう? 何をどう頼めばいいのか、ですね。
甲斐:こういうコンセプトがあるので、最後のデザインをお願いしますというケースは基本的にないですね。
松尾:僕らに依頼があるすれば、こういう方向性で会社としてやっていきたいんだけど、それに合うコンセプトを考えてほしい、といった仕事ですね。
甲斐:やはりコンセプトモデルみたいなものが多い。
松尾:最近はそれこそモノを作らない、「会社としての考え方を一緒に考えてほしい」といった仕事の依頼もありました。
−−コンサルティングに近い感じですね。
松尾:近いですね。
甲斐:コンサルというよりも、僕らも得るものがいっぱいあるような感じです。いろいろ意見を言わせてもらって、向こうもおいしい、こっちも勉強させてもらったという感じです。
下山:参の利点って何だろうと思ったときに、最近一緒に仕事したクライアントが「代表がいないこと」と言っていました。代表がいると、その1人とクライアントを対面させてしまうんですよね。でも参は3人なので、そうすると向こうも個になってくるんですね。そういう関係性を持ててすごくよかったとおっしゃってました。
松尾:ディスカッションのスタートが、まず3人が議論し合うところから始まったりするので。「俺はこう思うけど?」みたいなところで。それに向こうの人たち反応して「いや、僕は下山さんの意見に賛同するなあ」みたいな感じですね。
今まであまりそういう仕事はやってなかったんですけど、実際にやってみて「あ、参ってこういうときに生きるチームでもあるんだな」とは思いましたね。
−−そういうオファーがあるクライアントはどういうところが多いのですか。
松尾:大手企業ですね。
甲斐:トップが強い会社だと、その体質でやればいいわけですから。少し凝り固まってしまっている状態であっても。
−−今は企業も新しい風を導入しなければいけないという危機感も強いでしょう。
松尾:昔は、製品企画を提案して、それを作ってくれる企業を探すようなスタンスもありました。今は最初からメーカーと一緒に作っていくことができるようになってきましたね。
−−メーカーが参という存在を認めてきているということですね。
松尾:それもありますし、実際メーカーが求めているものが何かを僕らが的確に判断できるようにもなってきたかなと思うんですよ。冷静に、その企業にこういうモノがあるといいだろうなという視点から入るので、比較的賛同してもらえますね。
−−メーカーさんが外部の方を使う理由はただ1つで、そういう人たちのアイデアを聞いて、売れる商品作りをしようということですよね。参に相談すればモノが売れるようになるのではないかという可能性を見い出すということは、やはり参にユーザー目線、消費者目線があるということなのでしょうか。
下山:むしろ、モノ作りの前段階で、社内の人たちの頭の活性化の役割を求められている気もしますけれど。
松尾:参商品ですごく売れたものってあまりないんですけどね(笑)。だから、売れるモノを作りたいという相談よりは、幅を広げるためのモノ作りという意味での相談のほうが多いと思いますね。
●「モノ作り」の新しいアプローチ
−−参の活動を整理すると、クライアント仕事と、自分たちの企画をクライアントに持ち込むパターンと、コンサルと、自分たちで作って自分で流通させるという4つがあるのですね。
甲斐:そうなんですね。言われて確かにそうだと思いました。
−−その4つのスタンスに共通するテーマはありますか。冒頭に生活空間という話ありましたが、そこは参としては外せないのでしょうか。
甲斐:そうですね、空間にいる人。
松尾:人だね。
下山:モノだけで終わっていないというか、モノが主人公ではないストーリーなんですよね。モノも登場人物の1人であって、男女の関係とか、そういう関係性の中で成り立っているモノ作りです。
甲斐:必然から出てくるアフォーダンス的なものとも違うと思うんですよ。そこはもっと妄想だったり、空想の世界も含めてだと思うんですね。で、きっとこうに違いないみたいな、テキトーな言いがかりをつけるという(笑)。
松尾:例えば、デザイナーによっては、これは自分の名前を出す仕事だ、あるいは自分の名前を出さない仕事だとか、ある種割り切ってやる仕事とそうでない仕事があるのかもしれませんけども、参の仕事、活動内容は、本当に全部言いたいことをやっています。クライアントの都合でオープンにできないこともありますけど。
甲斐:僕らは限られた時間で活動しているので、基本的にはワガママでありたいと思います。匿名仕事はしたくないですね。
松尾:参じゃないとできないこととか、もしくはある程度僕らが主導権を持ってやらないとできないことしかやりたくないし、やっていないですね、実際のところ。その仕事を受けるか受けないかは、自分たちがそれを面白がれるかどうかで判断しています。
−−そういう意味では利益追求集団ではないですね。
甲斐:そうですね。他の仕事でも飯は食えているので。
松尾:僕が今所属している会社にしても、ある意味、僕のクライアントという考え方なのかもしれません。
甲斐:僕もそうです。
−−アイデンティティとしては会社員ではないのですね。
下山:松尾が言った「モノ作りが仕事」というのはそういう意味ですね。
−−それは新しいですよね。
松尾:そのスタンスでいると、会社への関わり方が非常に明確になりますね。
甲斐:でもね、会社ってそういう人たちの集まりであるべきだと思うんです。自分がどうだというのを、はっきり芯を持った人たちの集まりが会社であるべき。アップルを例にするとして、アップルファンばかりいる会社は全然アップルじゃないと思うんですよね。
●参を支える自作のコミュニケーションツール
−−実際のモノ作りのワークフローですが、スケッチを描いてからどのようにモノ作りに流れていきますか。
甲斐:僕らの場合は1人が何かを造形すること以上に、3人がそれを共有することをまず求められます。下山はベースが大阪ということもあり、まずネットを活用したコミュニケーションのツールにけっこう気合を入れています。
−−朝からSkypeでやりとりされるとか。
甲斐:もちろんそれもあるし、ホワイトボードを3人で共有しながらチャットするためのツールを自作しています。
下山:あとはネット上に共有フォルダを持っていて、そこでデータ管理もしているんですけど、考え方とかいろいろなものをどんどん入れていきます。
甲斐:それぞれ日中の行動は異なるので、時間軸がずれても考えが共有できる状態というのがすごく大事だと思うんですね。
松尾:実際個人では、2D CADと3D CADを使って設計はやります。僕は昼間仕事で使っているCATIAが使い慣れているので、個人としても同じものを使うようにしています。2DはMICRO CADAMですね。
下山:使い慣れているという意味では私は2DはVectorWorksです。空間系なので。3Dもform・Zを使っていますけど、プロダクトデザイナーにはあまりユーザーがいないですよね。
松尾:だから参の中では設計はCATIAでやって、レンダリングはform・Zでやっていることが多いかな。
甲斐:僕はね、Visual Studio(笑)。プログラミングも全部Visual Studio。Visual Studioがあればなんでもできる。
−−素晴らしい(笑)。
甲斐:基本的にツール自体も僕らの興味の1つなので、もっと言うとそのCADすらも作りたいなとも思うんです。CAD高いですし(笑)。
−−話はつきませんが、時間となりました。ありがとうございました。
|