●SNSによるビジネスの広がり
−−実際Twitterでビジネスが進んだとかチャンスが広がったとか、そういう経験はありますか。
中林:私はあります。そもそも日経ビジネスオンラインでの連載につながるローカリゼーションマップの話の発端は、Twitterを始めた最初の頃に知り合ったミラノ在住の方でした。
−−なるほど。ネット上のさまざまなツールやコミュニケーションのステージは、最終的には、仕事を含め、どう人生に役立てるかですよね。
中林:そうです。Twitterで、ほんのちょっとのことでも声をかければ、たまにしか会わない人から「ありがとう」と返ってくる。わざわざメーラー立ち上げなくても簡単にできるわけです。
大谷:iOS 5にはTwitterが標準で付きます。Twitterと戦略的な提携をしたんですよ。TwitterはFacebookに比べて今ちょっと没落気味なので、Twitterにとってもメリットがあるということだと思うんですけど。一方ではGoogleも「Google+」を始めましたから、アップルはあえてTwitterと組むことを選んだんですね。
−−Google+はどんな特徴があるのでしょう。
大谷:Twitter系というよりは、Facebook対抗です。
−−Facebookは現在世界中に7億人以上の会員がいますが、今から立ち上げて間に合うのでしょうか。
大谷:Googleがこれまで立ち上げたサービスにも、失敗して消えていったものもたくさんあるわけです。ただ、彼らとしてはFacebookにも対抗していかなくちゃいけないという意識がある。結局、インターネットのトラフィックを自分のところ回せるかどうかがGoogleのビジネスモデルの鍵ですから、最終的には広告モデルなので、そこが他に取られてしまうことを極端に警戒しています。
−−なるほど。トラフィックですね。
大谷:それと私が注目しているのは、pdwebのモバイルデザイン考でも書きましたが、「Kickstarter」というクリエイターのための資金調達サービスです。ここでデザイナーやクリエイターたちがポストした製品開発プロジェクトに出合い、それを自分が資金面でバックアップして、見返りとしてその製品が実現されたときには優先的に手に入れられる。このコンセプトは今イギリスにも飛び火して、「Crowdfunder」という名前で似たようなサービスが始まりました。
Kickstarterでプロジェクトをポストする側になるには、ソーシャルセキュリティナンバー(米国の社会保障番号)とかが必要なので、基本的にはアメリカに住んでいて住民登録とかできないと利用できません。実は「バブルスコープ」という360度のVR写真や動画が撮れるシステムを製品化したがっていた知り合いのイギリス人デザイナーがいるのですが、そういう事情でKickstarterを使えませんでした。しかし、Crowdfunderが始まったおかげで、iPhone用のバブルスコーププロジェクトを立ち上げたという連絡がきて、早速バッカー(バックアップする人)になりました。
今までさんざん出資者を募ろうとしてもうまくいかず、プロジェクトがそこから先に進まなかったものが、たくさんの人の小さな力の集合体によって出来上がる。デザイナーにとっては、発想したものを実際製品化するまでが大変ですよね。KickstarterやCrowdfunderは、そのための資金調達の部分をクラウドシステムを使って実現しているんです。
−−ネット上のファンドという新しい考え方ですね。そのプロジェクトに共鳴した個人が投資するわけですよね。
大谷:そういう点が素晴らしいなと。日本でも同様のサービスが早く始まってもらいたいものです。
中林:いわゆるマイクロファンドみたいな話が成長していくのはこれからだと思います。
大谷:Kickstarterなどでは、一応資金の目標額を立て、期限を決めて登録しますが、期日までに目標額に届かなくても手数料などは一切取られないんです。
−−とりあえず参加、と手を挙げておけばいいわけですね。
大谷:目標額に達した時点で、初めて、自分がいくら払いますという約束した額がAmazonペイメントで支払われるので、バッカーも安心です。しかも、プロジェクトをポストする側も無料なんですね、プロモーションビデオなどを自分で作ってアップロードする必要はありますが、それだけです。
例えばオークションでは、売買が成立しない場合でも手数料だけは取られますけど、それとは違って手数料も取られない。成り立ったときだけそのファンドの全体から一定の割合をKickstarterとAmazonペイメントが取るシステムなんです。だから、クリエイター、バッカー、サービス提供者の三者すべてがリスクフリーというのがすごいし、成り立ったときにはそれなりにみんなにメリットがあるという点も素晴らしい。
−−そういう仕組は本当にネットならではですよね。
大谷:ネットがなかったら絶対できないですね。
−−私はFacebookは参加してるだけで、まだ大して利用していないのですが、SNSとしてFacebookでなければいけない理由はどこにあるのですか。
中林:オープン。
−−やはりグローバルスタンダードが強いと言うことなんでしょうか。mixiのような国内のコミュニケーションステージが、海外勢に押されていくとすると寂しいですね。
大谷:グローバルかどうかというのは大きいんじゃないかな。アジアでFacebookが流行るのは、アメリカとかで出稼ぎに行ってる人とか移民した人とか、家族がバラバラとかいうケースが多いと思うんですよ。それで他国と国際的にコミュニケーションが必要になる。だからスカイプも非常に盛んだと思うんですけど、Facebookのほうが時間に関係なしにコミュニケーションがとれたりとかするから、多分そのあたりのニーズがあるんでしょうね。でも、日本は国内でだいたい閉じちゃうんですよ。
−−言語の問題がありますから閉じちゃいますね。というか日本はこれまで内需で成立できていた面も少なくないですから。
大谷:韓国の家電メーカーのサムソンなどの欧米でのプレゼンスが、ソニーやパナソニック以上に大きいのは、韓国の国内市場が小さいからですよね。そこだけでは成り立たないから、果敢に海外市場に出ていくわけです。日本は内需だけでそこそこ成り立ってしまっていたところに問題がありました。
中林:大問題でした。でも、これで今ようやくダメになってきましたよね。
大谷:内需だけではダメになったから、本腰を入れて外に打って出ていくようになったわけです。
中林:経産省のクールジャパンの戦略もそう。ただやっぱり難しいですね。先日ゲームの人たちとローカリゼーション絡みで話をしたんですけど、彼らも本当困っていました。プラットフォームが増える、隙間時間でちょっとというゲームが出るから、コンソールですごいお金を積んでどかーんとというのがもう成り立たなくなってきている。
−−確かに今はGREE、モバゲーのほうがビジネスはうまくいっていますよね。
中林:うん、でもあれでも分からないわけですよ。Facebookの中で動くゲームとか、スカイプと連動するゲームとかなってくると。そもそも私、GREEなどのガラケーゲームもやってないし。
大谷:あのCMを見て、ゲームをやる気になる人が自分としては不思議なんですが。
中林:不思議。だからびっくりします。あれが成り立ってること自体が。
−−それはおじさんには見えにくいけれども女子高生やOLなど、ガラケー主体のユーザー層が確実にいるんですよね。
大谷:スマートフォンの市場にもモバゲーとか進出してきているけど、スマートフォンのユーザーをガラケーのゲームでは取り込めないことは明らかなので、大手のゲームメーカーと提携して、人気タイトルをベースにするなど工夫はしてきました。「Infinity Blade」とか、よく取ったなと思うんですけど、そういうものも提携して取る。要は、素早くラインアップ揃えたいというのと、それなりのクオリティがないとスマートフォンでは成り立たないのが分かっているからだと思うんですよね。
−−あと本当にハードウェア、デバイスがどうなるか。ガラケーが全部スマートフォンにリプレースするのかどうなのか。それも1つのポイントですよね。
中林:今のままだと難しい気がします。
大谷:例えば、うちの妻が勤める大学の学生は、iPhone 3Gが出た頃はあまり興味を示しませんでした。既存のiモードとかEZwebとかに紐付けされたガラケーを持っていたので、それがなくなることにすごく抵抗があって、面白そうだけど乗り換えるまではいかなかったわけです。
でも1人、2人と使い始めて「いいよ」と言われると、友達の言葉ってすごく大きいんですよ。それがある臨界点を超えると、もう一気に普及しましたね。それで、以前にソフトキーボードが使いにくいと言っていても、誰か1人がフリック入力をマスターして、簡単で便利だよって言われると他のみんなも練習して使いこなしてしまう。
中林:「どれどれ。本当だ」みたいな(笑)。
大谷:Facebookもうちは私よりも妻のほうが全然使っているし、大学の学生にも留学したり、海外に友達が多い人がたくさん居るんですよ。英語教育に熱心な学校と言うこともあって、Facebookユーザーが多く、mixiを使っている人ほとんどいない状態です。
だから中林さんの言われたように、GREEなどもそうかもしれないし、mixiもこれからは辛いところですね。確かに国内だけの知り合いで済んでる人はいいかもしれませんが、海外にもコミュニケーションとか友達を求める若い世代は、どちらを選ぶかといえば、やっぱりFacebookでしょうね。
−−そうですよね。お2人ともmixiの経験はありますか。
中林:まだアカウントはありますよ。
大谷:一応私もアカウントはある。でもmixiもほとんどリードオンリーです。
中林:一応Twitterと連動の機能があるからあれでは流れているので、そっちしかつながっていない人にも最低限「生きてるぞ」は言ってるあるという。
−−Facebookのインターフェイスは個人的には使いにくく感じます。mixiに慣れていたからかもしれませんが。
中林:全然良くないですよね。身体が慣れてきますが(笑)。
−−パソコンで専用のブラウザがあるといいと思うんですよね。
大谷:おそらく、もともとはWebブラウザ上で見てるというユーザーが多かったので、使い勝手もその程度だと思って、Facebook側に何も言わなかったんだと思うんですよね。でも、iOSアプリの世界では、すでに純正アプリは使いにくいというのが定評で、サードパーティ製のものがよく使われています。
Mac App Storeの登場以降、面白いことに今まで売れなかったソフトなども売れるようになり、しかも、iOS用よりも高くても売れるという現象が起こっています。つまり、消費者にとって買いやすい環境があれば、アプリケーションもまだまだ売れるし、昨日まで人気だったソフトが、あっという間に別の優秀なソフトで置き換わるということもありうるわけです。
中林:さっきのRead It Laterもそうだし、Sparrowもそこで買ったんですよ。Mac App Storeは便利ですよね。この環境はよく作ったなと思います。
−−つぶやきは、FacebookとTwitterで書き分けていますか?
中林:そういう意味では、先ほどのHootSuiteはmixiまでいけるんですよ。
−−1つ書いてしまえば3ついける。
中林:HootSuiteのコメント欄に書くだけで、Twitter、Facebook、Linkedin、mixiなど、ソーシャルネットワークをまたいで投稿可能です。投稿時は文字数の制限が違うから、一番少ないTwitterに合わせることが多いです。もちろん、Linkedinだけに英語で書くこともできます。
−−Facebookは仕事面で役に立っていますか。
中林:役に立っています。Twitterのような「今」を切り取るメディだと発言自体にそれぞれのURLがありそれが主役ですが、Facebookは情報が「人」あるいは「組織」などに集約されているので、そういうまとまった単位から情報発信ができるからです。具体的には、友達やイベントに参加している人たちに対して一斉に告知も出せるわけです。デザインのほうで例えば小さい展示会やりますとかいうのも、そういう意味ではもうDMの代わりに使えてしまいます。それをみんなが相互に行えるところにメリットを感じています。
だから使いにくい面もあるけれど、そういう小さい単位、クラスターになってるのはすごくやりやすいし、人単位なのも電話帳代わりになるし。あとそういう意味ではSkypeですね。Skypeがないと仕事にならない。
大谷:Skypeは打ち合わせではけっこう使うようになってきてますね。
中林:もちろん相手先に大手が絡むと難しことが多かったりするのですけど。東京、大阪、うちの事務所と3箇所で話したり。Skypeの画面共有や、Dropboxを使ってのファイルを共有しながらというのを併用しています。
−−メッセンジャーはほとんど使いませんか。
中林:メッセンジャーはSkypeチャット、Facebookチャットですね。
大谷:私の場合はどうしても書籍や原稿の打ち合わせがメインになるので、実際昔こんな本があって、こういう資料があってみたいなのを実際カメラで撮って見せたりしますね。
−−中林さんぐらいツールの使い方が先行すると、ついてこれる人は少ないでしょう。そこまで使い込んでる人は周りにそれほど多くないのではありませんか。
中林:Facebookはそんなことないです。意外と数ヶ月前まではダメだった人が、急に分かるようになっていたりとかしますからね。
−−同じステージでコミュニケーションできる人も増えてきている?
中林:そう感じてます。例えば日経のローカリゼーションマップでいいねと言ってくれている人たちはどういう人たちなのかというと、職種で言えばデザイナー以外の方々も多く、日常的には接点のない人たちとのコミュニケーションが生まれる場にもなっています。
ここでのやり取りとかがあると、実際にお会いしたときも前置きを最小限にして進めることができますし、ソーシャルというキーワードに響いている人たちが、それぞれの業界にいることを実感できたりもします。
−−同一の仕事をデザイナー同士でやることのほうが少ないですよね。
中林:例えば私がデザインディレクターとしてお引き受けした場合は、狭義の意味でのスタイリング的なデザインはしません。例えば、グラフィックの人とプロダクトの人をうまくつないで、プロジェクトのディレクターとして集中することに努めます。
−−エディターはディレクター、プロデューサーでもありますから、プロジェクト単位でのライター、カメラマン、デザイナーのバーチャルな組織化が必要なんですが、実際は中林さんのように、ネット上の新しいツールでコミュニケーションを行うまでに至っていませんね。
大谷:進んでないですね。IT系の編集部はメールですけど、週刊誌などは相変わらずFAXで送ってきたり。最初の連絡はメールでくるのに、何でゲラがFAXでくるのかって思います。しかも私のいる場所を確認せずに送られることもあるので、例えば東京にいるのに大阪の自宅に送られてもチェックできませんよね。メール添付でPDFを送ってくれればすぐチェックして戻せるから、お互いのメリットになるのにと感じます。
●日本はハイコンテクストカルチャー
−−今回お話に出てきたデジタルツール群を使いこなせる人たちが集まると、仕事の内容、最終的な成果物に違いが出てくるんじゃないかと思うんですよ。もちろん道具に左右されてはいけないのでしょうが、環境自体が成果物の完成度の高さ低さを生む1つの要因になる可能性もあるんじゃないかという気がしますね。
中林:それは言えると思います。加えて、デザインを含む商品開発プロジェクト全体からすると、それぞれのステップところで必要とされる意思決定や、そこに至るプロセスもデザインを産む環境の重要な要素です。
モノ作りのときに何の情報をベースに発想してるのかというところも、顧客、顧客と言いながら実際は誰も顧客を見ていないということも多かったり、ヒアリングをした表層の情報に振り回されていたりという場面に出くわすことも少なくないです。
−−うーん。
中林:文化人類学者のエドワード・T・ホールが唱えた識別法に、ハイコンテクストカルチャーとローコンテクストカルチャーがあるんです。それだと日本はハイコンテクストカルチャーの一番上のほうにいるので、コミュニケーションにおいても「もう分かってるだろう」という暗黙的な情報を重視するレベルが高すぎるんですよね。ちなみに、アメリカなどが真ん中あたりで、ドイツや、ドイツ語圏スイスなどが明示的な情報を重視するローコンテクストカルチャー側に位置しています。
そういう人たちから見ると日本は不思議の国に見えるわけです。そのため、自分たちとは違う文化圏である認識を持っている企業などは、日本のマーケットをしっかりリサーチして戦略を立ててアクションを起こしてきます。
でも日本はそういう中でここまできていますから、海を越えて商品を展開しようとした時に、家電や日用雑貨に限らず「こんなにいいモノ作ったのになんで売れないんだ」という話になる。ハイスペック指向で「こんなにいいのに」と進んでいっても、それが現地のコンテクストと合わなければ価値にならないわけですよね。東南アジア圏で電子レンジといえばLGの名前がすぐ出るのですが、価格や性能、現地の食文化に適したものに仕立てられてる話を聞きました。
大谷:そういうところがちゃんと工夫されているわけですね。
中林:ローカルな文化に引っ張られる度合いが強い製品と、弱い製品がありますが、そういう事柄への意識がなく高機能にすれば済むという発想がまかり通っていたことを転換しないといけないんだと思っています。
商品企画やリサーチもSNSを駆使することで、少ないリソースで仮説を作るためもツールになると思うのですが、そこまでいかないですよね。インハウスのデザイナーたちもなかなか外に出してもらえないという話も聞きますので、うまく顧客の情報をつかめる体制作りも必要かな…と。
−−高機能至上主義、品質が日本のアイデンティティでもあったわけで。
中林:とある集まりの席で、日本のモノ作りをもってすればiPhoneよりも優れたものを作れるという話題を耳にしました。カメラの画素数など機能的な部分の性能を上げて、iPhoneより高性能…という製品は作れると。でもそれはただの物販モデルだから、何の発展性もないのに。だからイノベーションは起きない。
大谷:会社の組織自体がイノベーションを起こしにくい構造ですよね。もっとひどいのは、現場の人たちはこれを作ってもダメだと思ってるんだけど、会社として動いているし、上司が言うから作らないといけないというのがあるじゃないですか。絶対こんなんじゃダメだと気づいていながら、社命で作っているのは悲劇です。本当に先がない開発をしてるところもありますよね。まだ、これを作れば越えられると信じて開発できるところは幸せです。
中林:そうなんですよね。
大谷:前にある企業の年次総会で「何故iPhoneが成功してるか」という話を頼まれたのことがありました。それで、参加者の皆さんがワンセグ関連技術に従事されていたので、自分のケータイでワンセグを見ている方はどのくらいいますかと質問したところ、1人もおられませんでした。自身で見ても使ってもいないものを、どうやって改良したり、改善するのか、それで分かるのだろうかと思いました。
中林:そうなんです、分かるわけないですよね。
大谷:本当は半分とか1/3の参加者が使っていませんという話であれば、講演の導入としてよかったのですが、全員使っていないので、その場で会場が凍りついて(笑)。そこから私は90分くらいのプレゼンをする予定でしたけど、最初でもういきなりです。まあなんとか持ち直しましたが、一瞬やっぱり驚きましたよね。
中林:確かに組織デザインという考え方もあるんですけど、今のままだとさすがに難しいですよね。ここまで大きくなっちゃって、積んできたビジネスモデルはそう簡単には崩せないですよ。でも世の中、海を越えたところではダイナミックに動いている。
大谷:そうです、まさにダイナミックな動きがある。
中林:うん。で、このままだと本当に凍りついて沈没という、そこをどうしたものかなとどこの業界にいっても話題になるんだけど変わらない。
大谷:1990年代半ばのアップルも実はそれに近かったんですよ。もう倒産まで90日ぐらいのときにジョブスが戻ってきた。一旦どん底までいったからよかったという部分もあるし、そのときにジョブズが戻らなかったらやっぱりダメだったと思うんですよね。
それと同じように、どこの企業でも一度リセットがかからないとこれからはダメではないかと。不況とはいえ現状のビジネスがそこそこ回っているうちは、飛躍は難しいと思うんです。そこが辛いところですね。
あと、現場の人の中には、アップルがやろうとしていることを何年か前に考えて企画として社内にあげたという人もいるんですよ。でも、それを上司は全然理解しなかったということです。
中林:話を聞いてもらえないというのは、よくあるパターンですね。
大谷:だからね、根本的に見ているところが確かに違うと思います。アップルももちろんジョブズの顔色をうかがわないといけないんだけど、それは別に上司の顔色をうかがっているのと違う意味ですよね。ジョブズがやろうとしていることを理解できるかどうかだから。ジョブズはすごく頭の回転が速くて、それが分からないやつは全部クビにしたりしますが、自分の言っていることを理解していると思えば、どんどんプロジェクトを任せたりするわけですよね。
中林:あと、やっぱり急にiPhoneになったわけじゃないんですよ。一番最初のiPodの初代が出たときに、「え? こんなもん売れるか」とみんな言ってましたよね。だけど、そういうのをみんなどうして忘れちゃうんだろうと。日本人は今回の原発もそうなんだけど、すぐ水に流しちゃったり、片方ではメディアを信じるくせに、片方では、急にある1つのエピソードについてはメディアを信じなくなっちゃったりというのがありますよね。
大谷:拠り所となる軸がないと感じます。
中林:周りのアジア諸国は、歴史のアーカイブから、それらを拠り所に現在を捉える視点が多い…と感じる出来事が多いと思います。ミクロネシアの島々などは、第二次大戦での出来事を昨日のことのように語る人達も多いと聞きました。我々からすれば60年前は大昔ですが。日本人はスクラップ・アンド・ビルドしすぎるのかなと(笑)。それで、意外とこっちは失礼じゃないと思ってても向こうではとても失礼なんてことが…。
大谷:そういうのはありますね。
中林:だから逆に商品開発でも向こうの人たちのことを見られなかったりね。なんかもったいないなっていう。
−−海外と商品開発やコミュニケーションをしていて、例えば過去の戦争や歴史観が支障になったりしたことはありますか。
中林:私は直接経験したことはないですけど。
大谷:私は直接仕事で海外の人と何かをするということはあまりありませんが、妻は韓国や台湾の研究者とも共同研究を行います。それぞれ過去の歴史や、領土問題などがある国々ですが、それはあくまでも政治的なものですから、研究者の間で、それが支障になることはないようです。
−−話はつきませんがそろそろ時間です。ありがとうございました。
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