●パーソナル3Dプリンタ「Mojo」が切り拓くデスクトップマニファクチャリング 私のスケッチ ●第7回:吉岡徳仁氏の「Camper toðer」 ●第6回:第6回:山中俊治の「アスリート用大腿義足」 ●第5回:清水久和氏の「井伊直弼」と「髷貯金箱」 ●第4回:酒井俊彦氏のアットアロマ社「新型アロマデフューザー」 ●第3回:奥山清行氏の天童木工「ORIZURU」 ●第2回:磯野梨影:かみみの「はなのあかり」 ●第1回:塚本カナエ:資生堂「化粧惑星」 デジタルツールはじめの一歩 ペンタブレット「Cintiq 21UX実践 編」 ●第3回:Cintiq 21UXでCADデータの修正作業をすばやく行う! ●第2回:CGと写真の合成で作るプレゼンテーション ●第1回:Cintiq 21UXとPhotoshopで行うプレゼンテーション制作 ペンタブレット「Intuos/Cintiq編」 ●第2回:Cintiq 21UXとSketchBook Designer ●第1回:Intuos4でCADを操作する iPadでデザインワーク編 ●第5回:アイデア支援ツール、プレゼンテーション用ツールとしてのiPad ●第4回:スケッチツールとしてのiPadと「Adobe Ideas」、ノートアプリ「MUJI NOTEBOOK」 ●第3回:スケッチツールとしてのiPadと「Sketchbook Pro」その2 ●第2回:スケッチツールとしてのiPadと「Sketchbook Pro」その1 ●第1回:3DビューワとしてのiPadと「iRhino 3D」 Rhinoceros編 ●最終回:Rhinocerosを使い倒そう ●第9回:作業効率を見直そう ●第8回:融合する形状の作成方法 ●第7回:まだまだ続く2レースルスイープ ●第6回:3次曲線を使っての2レールスイープ ●第5回:Rhinocerosの本質を生かす機能「2レールスイープ」 ●第4回:フィレットは重要なデザイン要素 その2 ●第3回:フィレットは重要なデザイン要素 ●第2回:3Dは2Dからはじまる ●第1回:Rhinocerosを使い始める前に SolidWorks編 ●第5回:閉じた輪郭からのロフト曲面 ●第4回:回転とシェルで作る器のモデリング ●第3回:円柱とパイプ形状のモデリング ●第2回:直方体モデリングの応用と使い道 ●第1回:立方体は角柱モデリング 3D CADお役立ちTIPS ●第28回:キャラクターモデルの作成:くじら編 2 ●第27回:キャラクターモデルの作成:くじら編 1 ●第26回:ラムネボトルの作成 5 ●第25回:ラムネボトルの作成 4 ●第24回:ラムネボトルの作成 3 ●第23回:ラムネボトルの作成 2 ●第22回:ラムネボトルの作成 1 ●第21回:アプローチ曲面を使ったフィレットの作成 ●第20回:スケッチ定義の注意点 ●第19回:大きさが異なるフィレットの馴染ませ方 ●第18回:フィーチャーを使ったパイプ形状の作成 ●第17回:スケーリングを使った形状の検討 ●第16回:ブレンド曲面を使った形状の作成 3 ●第15回:座布団形状の作成 ●第14回:CADデータ受け渡し時の注意点 ●第13回:面取りによる見え方の違い ●第12回:ブレンド曲面を使った形状の作成 2 ●第11回:2つのエッジが合流する部分のまとめ方 2 ●第10回:不正面の修正 ●第9回:交差する溝の作成 ソリッド編 ●第8回:ブレンド曲面を使った形状の作成 ●第7回:一定幅フィレットの作成 ●第6回:2つのエッジが合流する部分のまとめ方 ●第5回:曲面の連続性を意識したフィレットの作成 ●第4回:投影を使った3D曲線の作成 ●第3回:履歴を使った形状の検討 ●第2回:楕円ボタン形状の作成 ●第1回:滑らかな除変フィレットの作成 3Dデジタルツールと立体造形 ●第9回:フィレットを施す ●第8回:複合カーブのコントロール その3 ●第7回:複合カーブのコントロール その2 ●第6回:複合カーブのコントロール その1 ●第5回:ノットの理解 ●第4回:1枚のサーフェスで表現できる形状 ●第3回:自由曲線とUVパラメータ ●第2回:自由曲線を表現するパラメータとその次数 ●第1回:Illustratorで表現される自由曲線 |
●Rhinocerosのための道具選び 気がつけば、久し振りの更新となってしまいましたが、私の時間的なキャパの関係でこの第10回をもちまして、この講座もひとまずは完結とさせてください。実は、思いのほか、この講座を支持してくれていた人たちが大勢いらしたことを知り、非常に感謝しております。 かなり慌しい実務の隙間を縫っての毎月の原稿は実はかなりつらいものもありましたが、同時に支持してくれる読者が多かったのが10回続けることの大きな励みにつながりました。そしてこのブランクの数ヵ月の間にRhinoceros関連でもいろいろなことがありました。Hayabusa、nStylerの発売がグラップス(GRAPS)さんから開始されたのも非常に大きな出来事です。リアルタイムレンダラーはプレゼンテーションでは非常に効果的なツールです。 実は、iPadなどでも、Rhinocerosのデータをビューワーとして閲覧できるアプリがすでに市販されて、WindowsからMac環境でのプレゼンも現実的に可能になっています。iTunesでRhinocerosのビューワーが販売されていること自体が驚きなのですが、これはアメリカでのRhinocerosの人気度が高いことも同時に裏付けています。 ただし、iPad上におけるシンプルなシェード表現とWindows PC画面でのリアルタイムレンダリングでの表現とを比較すれば、説得力としてはかなりの差が出てきます。 いろいろなRhinocerosビューワーが普及する中、純国産のソフトで、手頃な価格でリアルタイムレンダリングが行えるのは、ある意味恵まれています。仮にデザイナーとしてのスキルが僅差であれば、便利な道具を使っているほうがコンペなどの場では有利に働く場合もあります。もちろん、プロにとっての道具はそれぞれ相性が存在します。しかしプロとしての道具の選び方の違いが、結果的に造形における個性となっているのは間違いがないことだと思います。そのあたりは慎重に、相性の良い道具を探したいところです。 ●Rhinocerosを使い倒そう 第10回のテーマとしては、とても大事なことに触れようと思っています。それが「Rhinocerosを使い倒そう」ということです。 それは何かといえば、CGと現実の立体物とのキャッチボールのことです。CADのデータと実際の立体物との往復運動です。まず、いくらかっこいいCGでのプレゼンができたとしても、デザイナーはそのデザインに対する将来的な責任が同時に発生します。その形にメカニズムが実装され、現実の立体物になったときにどういった問題が起きるか? 往々にして誰もが予測していなかった落とし穴が存在する場合が多いのです。いかに早めに発生するであろう問題を知るかというのが、そのダメージを最小限に抑えることでもあります。よくあるのが、一見使いやすそうな曲面フォルムをしているけども、実際に立体になったら、エッジが手に痛くて使えないというようなケースです。現在、高価なABSの削り出しのモックアップは、そう何回も作る機会はなくなってきています。太っ腹なクライアントでも、ほぼデザインが固まった状態で最終確認用にといったケースがほとんどです。 18年前、私がソニーのインハウスデザイナーだった頃は、新人でも100万円以上のモデルを、次から次へと発注しまくっていた時期がありました。今思えばまるで夢の世界です。まあ、当時でも高価なモックアップを作成する前段階としては、デザイナーがそれぞれ発泡スチロールを削って、基本的なフォルムは確認はしていましたが。 また、その当時は最終的な二次元図面自体の情報量が不完全で、必ずモデルメーカーでの形状チェック、または金型の形状チェックで地方まで出かけるといった段階が途中に不可欠でもありました。イタリアなどでは、モデラーさんの地位か非常に高いというのも納得できますし、現に新人デザイナーはモデルメーカーさんのアドバイスで育てられたような一面もありました。 現在はモデラーさんを介在することもなくなり、デザイナーの作った面の情報がすべてとなっています。 現在、私の場合のデザインの最終納品形式はほとんどがSTEPのデータ納品となっています。2年くらい前まではIGESが主流だったのですが、STEPのほうがデータが軽くなりメールで送りやすいという利点もあります。Rhinocerosを含めたほとんどの3D CADで、共通して特に出力で手間がかかるようなことはありません。データが100Mバイト以内であれば、データ転送サービスなどでも簡単に世界中に送ることができます。 いずれにしてもデジタルの面データなので、まず出来上がりのモックアップの面そのものに関しては、イメージと大きく食い違うようなケースは以前のアナログの時代と比べてほとんどなくなりました。しかし、データがデジタルになっている関係で、CAD化の準備段階として自分の手で削った発泡モデルをCAD化するのに、大変な労力を要します。 もちろん、3Dスキャナのように、立体物をデータ化する方法はありますが、ポリゴンでは面の考え方を構築することができないので根本的な問題が残ります。理想の立体物の面の構成をどのように、数学的に矛盾のない方法で作成していくか? 実はそれがとてもデザイン作業における重要なポイントとなってきます。まだ、系統的に学門化されていない領域のデザイン幾何学の世界です。 そこで、今までご紹介してきたような2レールスイープやロフトなどを駆使して、作成の手順を組み立てていくわけになるのです。その組み立て方もデザイナーそれぞれ、何百通りも存在し、どれが正解というものでもありません。なぜなら、数学のように「決定的な解」が存在するわけではなく、「主観的な美学」がそれらに揺さぶりをかけてくるからです。 それは、一見なんでもないようにも見える純粋な球体や立方体の世界でも存在している部分です。特に私の場合は「液体のように流れるような曲面での構成」というテーマが頭の中に常に存在している関係で、どうしてもこのやっかいな工数のかかる作業が不可欠となっています。しかしながら、パズルを解くような、数学独特の面白さもあり、はまってしまうと、仕事なのか趣味なのかもよく分からない状態になっている自分にふと気がついたりもします。 複数のデザインプロジェクトを同時進行していると、どうしても自分の中にも造形手法としてのマイブームのようなものが出てきます。あるときは2レールでメイン面を構成していたのが、あるタイミングで突然1レールにしてみたり、パッチで偶発的にできた面を使ってみたり、ネットワークサーフェスでこつこつ作ったりと変化していきます。 とにかく試行錯誤の途中で偶発的に見つけた手法がとても美しい面を作り出すことが、往々にしてあるのです。そしてついついその手法をいろいろな部分に応用して更に複雑な段取りの世界にはまっていきます。それはそれで、仕事としては問題なく進んでいくのでいいのですが、困ったことに1カ月も経つと、面を張った張本人の自分ですら、当時、どのような手順で面を張ったかが思い出せなくなっているのです。 忘れた頃に形状修正の依頼などがきた場合はもうお手上げです。しかし、何故か必ず忘れた頃合いを見計らって、形状修正の依頼がくるものなのです。面張りの手順を散らばっているたくさんのガイドラインから拾い出し、分析して段取りを復元するだけで3日はかかってしまいます。 そこで、私の場合は必ず面張り手順の記録帖を作り、そこに面を作成した場合の手順を記録しています。「造形ノート」です。こういった記録の蓄積で、立体物をどのように幾何学的に段取りを構成するかを見いだすスキルが向上していくのだと思っています。そのあたりは、経験値の高いデザイナーほど面張りも巧みで、かかる工数も少ないのは当然です。またそれぞれの面張りの手順に関しては、デザイナーの財産でもあり、企業秘密的な要素でもあると思います。
そしてここからが本題です。いろいろと試行錯誤して出来上がった面データですが、そうしたデータはできるだけ早期に立体物にして確認する必要があります。特に、ちょっとしたサイズの感覚のずれは早期に検証しておかないと取り返しのつかない事態となることが往々にしてあります。サイズが大きくなる分にはまだ対応できても、小さくなる場合は、実際のメカや電池が入らない非常事態となります。金型発注のタイミングなどが迫っているときは、本当に困ります。そうならないためにも、早く動く必要があります。 では、実際にどのように立体化させるかといったときに、現時点で一番手っ取り早いのが3Dプリンタとなります。たまたま、現在アメリカのクライアントとプロジェクトを進行しているのですが、やはりさすがに米国はこのあたりの3Dプリンタの技術や普及率がとても高いです。先方の会社の中に機械が設置されて、なんと24時間稼動です。特に頻繁に使っているのが、Dimensionという3DプリンタでのABS樹脂を使ったモデルです。 ABS樹脂モデルは頑丈にできるので、可動部を持った構造の検証などには非常に役に立ちます。特に初期段階ではいろいろな人間が触って検証を行うので、このあたりの頑丈さはポイントが高いと思います。 一方で日本国内で普及しているのは、ZコーポレーションのZシリーズのプリンタで、これは石膏ベースの粉末を使用してマッピングした画像まで表現が可能。したがって、携帯電話のボタンのイメージなど、立体物における色やグラフィック表示の検証には非常に適しています。実はRhinocerosでも、データ出力のコマンドに、このZシリーズ用の出力が可能なように設定されています。数年前からすでに3Dプリンタの使用を前提にソフトが設計されているのは驚きです。 ただし、実際の出力形式をいろいろと試みた結果では、このZシリーズ用の出力を使用するよりも、3DSのファイル形式で出力して、同時にマッピングデータを別途、試作メーカーに支給という方法がRhinocerosの場合だと一番スムーズに立体物が出来上がるようです。このあたりの情報は、日本ではデザイナーで試みた人がまだまだ少ないようで、情報としては貴重です。調べていくと、日本国内ではこのあたりの3Dプリンタの需要はプロダクトデザインの世界よりも、むしろ趣味としてのフィギュアの出力に需要があるようです。さすがアニメの王国といった感じですが、彩色されたフィギュアが数時間で何もなかった箱がから出てくる工程は魔法の世界のようです。 しかし、数時間で出力が可能なこの驚くべきZシリーズのプリンタにも問題が残っています。1つは、ABS樹脂のモデルに比べると、どうしても石膏粉末の特性上で強度がもろいという弱点です。ヒンジ部分などの検証にはあまり向いていません。細かいパーツ、細すぎる部分などはすぐに破損の可能性があります。また、着色に関しても弱点があります。それは黒の発色が弱い点です。色も彩度が弱く、気持ちくすんだ発色になっています。もちろん、初期の試作としては十分すぎるくらいなので欲は出せないのですが、そのあたりが今後改善されていくと非常に便利なものに進化していくと思います。 実は、今からかれこれ6年くらい前に、クリートの山下健介氏に、入手したてのZのプリンタで、アクアリウムシリーズの靴べらのモデルを作っていただいたことがあります。今思えば、当時の山下さんの先見の目に改めて敬服するのですが、同時に、6年前から現在まで、3Dプリンタがそれほど進化していないことにもショックを受けています。ハイブリッドのクルマのように、使う人がまだまだ世の中には少ないということが進化を遅れさせているということでしょう。残念ですが、それが現実のようです。ここはみんなでせっせと3Dプリンタを使って普及させましょう。 デザイナーやエンジニアがDimensionとZシリーズを目的に応じて使い分けることで、ラピッドプロトタイプの利便性がさらに発揮できます。初期段階で立体物を前にした打ち合わせは、飛躍的にその後の業務を円滑にしてくれます。その繰り返しが結果的に大きな時間の財産となってくるのです。プロジェクトの後半で余裕ができる貯金作りです。 そして、数回の3Dプリンタ試作を経た後で、今度は光造形で、表面処理を施して最終形状に近いモデルを試作することとなります。この光造形のモデルも、アジア方面の値段の安いところで作成すると、磨きすぎて、サイズが一回り小さくなっているという困ったことも起きるので要注意です(笑)。最近では予算がないからと、モックアップ作成に難色を見せるクライアントが増えているのも事実ですが、まずは、3Dプリンタであればデザイナーもクライアントを説得できる範疇だと思います。デザイナー自身のためにも、ここは積極的に使っていきたいところです。 Rhinocerosに対応したリアルタイムレンダラーが存在するおかげで、初期プレゼンテーションの道具としても非常に強力なツールとなってきています。これは他のデザイナーが使うCADにおいても同じことが言えます。しかしながら、そのビジュアルの表現よりも実際に重要なのは、いかに早期に三次元の現実の立体物を起こせるかどうかという部分だと私は思います。 今後3D映像で「飛び出るびっくりプレゼン」をしてみたところでも、所詮は絵に描いた餅であり、触って得た情報に匹敵するにはまだまだ距離があります。その現実の立体物を見た段階で、場合によっては、面の張り方そのものをゼロからやり直す場合もあります。しかし、そこでの変更は極めて重要です。初期だからこそ、変更が可能なのだともいえます。 クライアントが求めない限りは、レンダリングで10案の提示、みたいなプレゼンは最近はしていません。できるだけ絞り込んだデザイン案を早期に立体化させて、できるだけの工数を造形作業にフォーカスさせる。それが結果的にその商品自体のクオリティを向上させていくことにつながっているような気がします。そういった意味でも、できるだけ若いデザイナーがCADとプリンタを使いこなして、自分自身のデザインのスキルを磨けるような環境を整える努力が不可欠です。ネットで3Dプリンタ出力と検索すれば、必ず近くのお店が見つかるはずです。費用もあまりかからないはずなので、まずそこで何か作ってみてはどうでしょうか。 とにかく、「絵に描いた餅」よりも「現物の立体」です。 また、機会がありましたら講座を再開するかも(?)しれません。1年ちょっとの間でしたが、いろいろとありがとうございました。私もよりいっそう、「面張り」に精進したいと思います。 ●参考:YouTubeによるZプリンタのデモ動画 「Digis - 3D tiskarna ZPrinter 450/3D printer ZPrinter 450」 http://www.youtube.com/watch?v=yyZtBYG0QOg |
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