●konashiの開発経緯
−−新しく開発された「konashi」についてお話ください。
青木:konashiは、スマートフォンやタブレットの入出力機能を拡張し、プログラミングができるフィジカル・コンピューティング・ツールキットです。Bluetooth 経由で、iPhoneやiPadと簡単に通信できるというのがウリです。
iPhoneアプリを開発する人は、今とても増えていますが、そういう人がハードウェアを使ったモノを作りたいと思った時に、これを使うと特殊な知識が必要なく作れるようになります。普通だったらハードウェア用のプログラミングを覚えなきゃいけなかったんですけど、konashiを使うとそれが必要ないので、アプリを作るような感覚で、簡単にLEDを点滅させたり、スイッチのオンオフといったことが簡単にできるんです。
konashiにセンサーを付けて「万歩計」や「計量器」に使うなど、いろいろと応用が効きます。メーカーズブームみたいなものもあって、自分でモノ作りをしたいという人が増えていると思います。そういう方に使っていただければいいなと思っています。
Bluetoothで通信するデバイスは昔からあるのですが、それをiPhoneでやろうとするとアップルに申請するのが大変で、お金もかかるので、大手のメーカーや法人じゃないと使わせてもらえなかったんです。それがBluetooth 4.0だと、速度はそんなに速くないのですが、個人でもアプリから簡単に通信できるようになったんですね。国内では製品化している会社がそんなになくて、同じ技術を「チームラボハンガー」でも採用しているのですが、これが初めての事例じゃないかな。なので、世の中にはまだ出回っていないのですが、ニーズが非常にあると思ったんです。
−−iPhoneやiPadがコントローラーとなり、そこから何を動かすという発想が次の市場として面白いなと思ったんです。そう意味でkonashiは興味深いですよね。
青木:ありがとうございます! 僕も最近、NIKEのFuelBandを身に付けているのですが、これもiPhoneアプリとBluetoothで接続されていて、どれくらい運動したかを記録できるんです。それだけでなく、ボタンを押すとiPhoneに同期されて、運動量を画面で管理できる。Facebookともつながっているので、その中でFuelBandを使っている友達たちと競い合うこともできたり。今月はトータル何キロ走ったなどの統計も出してくれるし、1万キロ、10万キロなどの単位で「おめでとう!」とメッセージが来て嬉しかったり。そういったご褒美がとてもたくさんあって、モチベーションが保たれるんです。基本は万歩計と変わらないんですけど、iPhoneと連動することで、楽しみ方がどこまでも広がる。そういったスマートフォンと連動するデバイスがもっと世に出てくると面白いですよね。
−−konashiを使うことによって、いろいろとユニークなアイデアが実現しそうですね。
青木:そうですね。「Kickstarter」などに製品アイデアを出したいと思っている人たちが、最初の試作品を作る際に使ってもらえればいいなと思っています。konashiで使用しているBluetoothのモジュールって、1000個単位でしか買えないんですよ。基本的にメーカー向けなので、個人が買うような単位では販売していないんです。でもやっぱり、アプリを作れる人はすべて自分でやりたいと思う人が多いんですよね。メーカーの試作部門の方などにも、ニーズはあると思います。
今のところはiOS対応のみですが、Androidで仕様が公開されれば、使えるようになると思います。販売ルートは、自社サイトと電子工作系の商品を扱っているWebショップさんなどで取り扱っていただこうと思っています。価格は9,980円です。
●自由にモノ作りができる、ユカイな現場を作る。
−−ユカイ工学は、最終的にいわゆる人間型ロボット作りを目指しているのでしょうか? それとも、今回お話いただいたような、人間型ではないけれど、生活を少し豊かにするようなモノを作っていきたいとお考えですか?
青木:両方ですね。理想とする根本は、家庭の中で役立つようなロボットを作りたいと思っています。犬のロボットが起こしにきてくれるといったような、日常生活で一緒に暮らせるロボットですね。ペット型というより、僕らは「妖怪」と呼んでいるんですけど(笑)。座敷童のように、なんとなく気配がする、くらいの感じなのかな。犬とそっくりのロボットを作ったとしても、やはり本物にはかなわないですからね。妖怪というのが一番しっくりくるんです。ジブリの映画に「こだま」とか「カオナシ」とかいたじゃないですか。「ココナッチ」もそういうイメージで作ったんです。
−−日本神話にもありますが、日本人は昔から人間以外の存在を信じているところがありますからね。それを現代のデジタルデバイスを使って生み出されているんですね。
青木:はい、まさにその通りです。人間はたくさんいるので、人間型ロボットを作っても意味がないかなと。これ以上増えて、ややこしい人間関係がまた増えるのかと思うと嫌でしょう(笑)。
−−ユカイ工学という名前の由来は?
青木:僕たちスタッフ全員、ソニー大好き人間なんですね。創業者の盛田さんの本などもたくさん読んでいるんですけど、ソニーの設立趣意書にある「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という文章がとても好きで、ユカイという言葉はとてもいいなと思ったんです。いろいろなモノを作る行為自体がとても愉快だと思うので。
ソニーの新製品を作る過程の話を聞くと、トップダウンでもボトムアップでもなく、マッチングというか、現場の技術者は会社の予算を勝手に流用して何を作ってもいいという文化があったんです。液晶テレビとハンディカムを組み合わせて、その場で確認できる製品を生み出したり。面白いと思ったものを自由に作ることができる環境だったみたいです。そして、トップの方がいつも見にくるんですね。当時は、盛田さんがひょろっと研究所を覗きに来て「面白いね」ってコメントをくれたりとか。海外からも直接電話がかかってきていたらしいです。「こういうのを見たんだけど、あれと一緒に使えるのか?」とか。そういう感じで新しいプロダクトが生まれてきたんですね。
konashiの場合も僕が何かを支持したわけではなく、現場のエンジニアが率先して製品化までこぎつけてくれました。
−−アイデア出し会議なども開かれているのですか?
青木:会議というほどではないですが、月1回「どや会」というのを開催しています。それぞれが作ったモノを「どや!」する。なんのしばりもないんですけどね。ソフトでもハードでもいい。僕の最近の「どや」は、「チームラボハンガー」の仕組みを使って、トイレに誰かが入っているかどうかが分かるセンサーを作りました。電気の照明がオンになっているかオフになっているかを感知するんです。そういう風に、「あったらいいな」を、どんどん作ってみるということを大事にしています。
−−最後に読者にメッセージをいただけますか?
青木:「ロボットを作りたい人はぜひご連絡ください!」ですかね(笑)。ロボット作りに携われるという現場はなかなかないと思いますし、ロボットはこれからどんどん普及していく分野だと思いますので、コンピュータを家庭に普及させた任天堂のような役割を僕らが担うんだと思っています。
あとは大学の研究者の方などから、自分で開発したものを、量産して安く作ることができるようにサポートしてほしいとか、そういう相談も多いんですよ。企業さんのプロダクトを試作から量産までお手伝いするケースも多いので、そういったご相談も是非お待ちしています! |