●深澤直人+中村勇吾、究極のコラボ
−−中村さんは最初から「INFOBAR」に関わられているのですか?
砂原:最初のスマートフォン版INFOBAR、A01からですね。それまではユーザーインターフェイスも含め、深澤さんとKDDIそして端末メーカーの3者で開発していました。
−−今回のA02は、深澤さんと中村さん両者の考え方が融合されたものというわけですね。
砂原:そうですね。ハードとソフトが区別なくシームレスに融合し「一つの塊」として機能するという深澤さんのコンセプトに呼応する形で中村勇吾さんがUIのアイデアを出し、途中、何度もやり取りを重ねながら完成させました。
深澤さんはA02が目指したものは「最中(もなか)ではなく、羊羹(ようかん)」なんだと言います。INFOBAR A02の発表会でこの話をしたら「新しいINFOBARはようかん!」なんて書かれてちょっとおかしなことに(笑)、形が羊羹なわけでも、インターフェイスがぷにぷにしてるから羊羹だということではなく、もっと哲学的な話なんですけど。
これまでのプロダクトは、最中の皮とあんこみたいに外側と内側、ハードとソフトが別々に設計されて組み合わさっていました。携帯電話でも洗濯機でもそうですけど、ハードがあって、小さな窓がちょこんと開いていて、そこで中のソフトと対話する。ハードのボタンを押すと窓の中でソフト側の反応が表示される。でもボタンを押すという動作と、反応として返ってくる画面の表示との間に、自然なつながり、連続性はほとんどありません。
これまでは小窓でよかったのでそれで済んでいたわけですが、スマートフォンのようにほとんどすべてが画面で、かつ表示装置だけの役割でなく主要な入力装置としての役割も画面が担っているわけですから、これからは最中でなく、羊羹のように外側と内側がなく、ハードとソフトが不可分となった1つの塊、1つのインターフェイスになっていく。INFOBAR A02が羊羹を目指したというのは、そういう意味です。例えば本体左上の電源キーを押すと、その真下からアイコンがニュッと出てきたり、ホーム画面のパネル1つの高さと、左サイドの音量キー、ファンクションキーの高さが揃えてあったりします。ハードとソフトを同調させることで、一連の所作がスムーズに完結できるよう設計しています。
−−ソフト中心になってくると、深澤さんをはじめ、プロダクトデザイナーが関わられる部分がどんどん少なくなっていきませんか?
砂原:例えばテレビは、どんどんディスプレイの額縁が狭くなって、今ではもうデザインできるところは脚くらい。プロダクトデザイナーが失業してしまうなんて笑い話をよく聞きますよね。いや笑えない話かもしれませんけど(笑)。ユーザーからしてみれば、ディスプレイだけの方が映像が宙に浮いてる感じでカッコいいし、無理に額縁をデザインして欲しいとは思わないですよね。ただ、形とか色をいじれる範囲は狭くなったとしても、モノとしての存在がなくなるわけではないですし、モノとしての佇まいとかモバイル製品だったら持ち心地とか、そういったところはプロダクトデザイナーが本領を発揮するところですよね。
−−中村さんが構築されたインターフェイスを、実際にAndroid上にプログラミングするのはどなたがされているのですか?
砂原:普通、ソフトウェアは仕様書に基づいてプログラムしていくものですが、iida UIの場合、仕様書では表現できない動きやインタラクションがあるので、まず中村勇吾さん側でFlashによるインタラクティブなデモを作成します。それをHTC側に渡し、FlashのコードをJAVAに置き換え、Flashのデモに忠実な動きやインタラクションを実現していくというユニークな手法を取っています。
−−A02を少し触った感じですと、速度的な部分も含めてHTCのソフトウェア技術は優れていますね。
砂原:そうですね。 今回のiida UI 2.0は一見すると前回のiida UIと変わっていないように見えるかもしれませんが、有機的なアニメーションであるとか音楽アルバムパネルやFacebook/Twitterに流れている写真が表示されるパネルを用意したりと飛躍的に進化しているんです。例えば写真も、前回は本体に保存されている写真をホーム画面に貼ることができるだけだったのが、au Cloud やFlickerなどクラウドフォトストレージサービスと連携させたり、アルバムとして貼れるようにしたり、サイズをシームレスに変えられるようにしたりと、写真だけでもかなり複雑なことをやっています。それをやり遂げたHTCさんの能力は賞賛に値しますね。
−−ちなみにハードウェアは、現時点での最高スペックですか?
砂原:現時点で最高スペックを謳っているモデルは、基本的にCPUがクワッドコア、ディスプレイは5インチのフルHDという構成になっています。A02のCPUも1.5GHzのクワッドコアですが、ディスプレイは4.7インチのHDです。動画や電子書籍をストレスなく楽しむという観点で十分なサイズは何か、加えて筐体のデザインや持ち心地の観点での最適なサイズは何か、これらを総合的に検討した上で、4.7インチを採用することにしました。
●デザインから製造までの流れ
−−デザインから量産までのワークフローはどのような感じで進められたのでしょうか?
砂原:プロダクトデザインに関する基本的な流れはこれまでと大きくは変わりません。今回の商品企画やスペックについて深澤さんにお伝えし、深澤さんから提示されたレンダリングやモックアップをベースに詳細な検討を進めていきます。メーカーと量産設計のキックオフをした後は、3D CAD図面やプロトタイプと睨めっこしながら、深澤さん、KDDI、HTCの3者で精度の高い検討と修正を積み重ねていきます。先ほども触れましたが、今回は、ソフトとハードの同調が大きなテーマでしたので、深澤さんと中村さんが密にディスカッションする機会を何回か設けました。これは今までにない進め方です。
−−最初のコンセプト出しから発売に至るまでの期間はどれくらいでしたか?
砂原:一番最初の企画書を作ったのが2011年の11月で、発売が2013年2月なので、約15ヶ月ですね。コアな期間は8ヶ月〜10ヶ月くらいですが。
−−最後に、日本のスマートフォンは今後どのように進化すると思われますか?
砂原:難しいですね(笑)。Androidに関して言えば、ワンセグ、FeliCa、赤外線、防水機能と日本仕様も手に入れ、Android 4.0以降はパフォーマンスも高まり、安定してきています。トレンド的にはサイズは大型化しつつありますよね。ファブレットという言葉も生まれてきているように、スマートフォンとタブレットとの境が曖昧になりつつあります。この数年の間にさまざまなバリエーションのスマートフォンが出揃い、一定のクオリティにまで辿りついた今、ようやく全体を俯瞰して次のステージを考えられる時期にきたのではないかなと感じています。
−−次のモデルも現在開発を進められているのですか。
砂原:それはもちろん内緒です(笑)。
−−ありがとうございました。
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