●日用品の東屋が扱うラジオとは
−−東屋はインテリアや日用雑貨のイメージですが、チボリオーディオの扱いも違和感はないですね。
東屋はNormann CopenhagenやCOVO、OBJEKTOなどといった欧米の良質なインテリア、デザインメーカーの輸入代理店を行っております。また国内の手工業者と質実な日用品を作り、販売もしています。
チボリオーディオは2003年から日本で販売を開始しました。無印良品のオーディオなどを作っているピードゥーさんが輸入元となって、輸入から電気製品の安全面やアフターサービスを全部カバーされています。我々は販売元としてマーケティング、プロモーション、販売、小売店からの回収を請け負うかたちをとっています。
−−そもそもチボリオーディオは、オーディオ開発者のヘンリー・クロスが手がけたものと言われていますが、ヘンリー・クロスについて簡単に紹介いただけますか。
ヘンリー・クロスは、マサチューセッツ工科大学在学中の1952年に、恩師のエドガー・ウィルシャーとアコースティック・リサーチというオーディオメーカーを設立しています。ここでクロスは、革新的な構造によって低音を再生する「エアサスペンション・スピーカー」を開発し、ステレオの普及期でスピーカーの小型化が求められた時代だったため絶大な反響を呼びました。特に「AR3」というスピーカーは人気モデルとなり、当時の日本のオーディオメーカーの製品開発の手本になったと言われています。1957年にはKLH社を設立して、10万台以上が販売された「モデル8」スピーカーの他、高感度小型FMラジオなどを手掛けました。
その後も数々のオーディオメーカーを設立し、1968年にはレイ・ドルビーと共同でテープ録音時のヒスノイズを低減するドルビーB方式を開発して、この方式を組み込んだオープンリール型録音機を完成させています。また1973年には世界初のプロジェクションテレビも製造しています。
そして2000年にトム・デヴェストとTivoli Audioを設立し、「Model One」と「PAL」を発売しました。これらは50年にわたるクロスの知識と経験の集大成と言っていいと思います。
ちなみにクロスは、その生涯を通じてユーザーの立場からオーディオを考え、機能性にすぐれた長く使えるリーズナブルな製品を追求し続けました。その功績は広く認められて、全米家電協会は2000年に「オーディオの殿堂」の50人の1人にクロス氏を選んでいます。 またイギリス随一のオーディオ専門誌「ハイファイ・ニューズ」は、2006年の創刊50周年記念号で、オーディオ界の功労者50名の第4位にクロスの名を挙げています。
●チボリオーディオのターゲット
−−チボリオーディオのマーケットや流通はどうされていますか?
東屋が手掛ける仕事の根本は全部同じで、「マーケットがあるから売る」というよりは、「多分今後マーケットはこうだよね。だからやろう」という感じです。ですから、僕らが売っているインテリア商材にせよラジオにせよ、民度が進むと出てくるニーズだと思っています。テレビ、ラジオ、新聞、ネットそれぞれの情報源を使い分ける見極めが進むと、ラジオは今後どんどん盛り上がると思います。だからそこに布石を打っている感じです(笑)。
−−チボリオーディオは一般の家庭以外ではどのようなところで使用されていますか。
一例としては海外ではホテルの客室です。有名なところだとミラノのブルガリ ホテルです。5つ星クラスのホテルにはよく使われていますね。操作が簡単で音が良い。インテリアとも合わせやすい商品ですので、今後は日本でもホテルや旅館で使ってもらいたいですね。
●デザインだけではないチボリオーディオの魅力
−−チボリオーディオ開発者のヘンリー・クロスはアメリカのオーディオの王道をずっと歩いてきていますが、2000年以降ずいぶんと方向転換されましたね。それが面白いと思いました。
転換というと、ハイエンドではなくなったことですね。
−−はい。高級オーディオからラジオへのシフトですからね。扱われている「Model One」など、少し説明をお願いします。
チボリの基本はラジオメーカーで、受信性能に独自の受信技術を凝らしています。「受信」と「音質」の2点で高い評価を得ていまして、オーディオというよりはラジオなんですね。モノラルでこのサイズで、ここまでいい音が出るラジオは他にないと思っています。クロスは晩年に普通の人が手にできる究極のラジオ、音源を目指しました。
実際の使い方としては、個人的にはラジオ半分、他にiPodやMacやCDプレーヤーをつないでいます。人の声が自然に聞こえるのでテレビにつないでいる人もいます。
−−アンプ内蔵スピーカーとしても使えますね。
はい。外部入力端子がありますから何でもつなげられます。iPod用のドッグなどのインターフェイスを日本でも発売しようという話はあります。海外ではドック付きの製品も発売しています。
ステレオモデルの「Model Two」は別売のサブウーファーが接続でき、専用のCDプレーヤー「Model CD」を組み合わせると、ラジオというよりはオーディオコンポになりますね。
バッテリー駆動モデルも「PAL&iPAL」「SongBook」の2モデルありますが、それはラジオですね。今ラジオを真剣に作っているメーカーはあまりないですが、ラジオはいいものだと思うので、掃除機のダイソンのような、本当に狭いところにフォーカスしたメーカーとして伸びていくといいですね。
−−ヘンリー・クロスは2002年に亡くなりましたが、その後も、チボリオーディオとしては自社製品の開発をどんどんされているのですか。
ええ、継続しています。社長のトム・デヴェストが中心になって開発しています。チボリを立ち上げる前、1976年にアドヴェント・コーポレーション社で2人は知り合い、一緒に仕事をしていました。トム・デヴェストはネットを使った販売に初期の段階から取り掛かっていて、セールス部門でも活躍していた人間です。
−−ではヘンリー・クロスのコンセプトは今も息づいているのですね。
そうですね。そこがチボリの根幹にあるところですから。
●誰にでも良い音を
−−チボリオーディオで一番目を引かれたのはデザインです。新しいスタイルのオーディオという印象がありました。
そうですね。まずは見た目で「あれ?」と思った。そして音作りのコンセプトを知り、そのバランスこそがデザインだと思いました。“顔”もいいけれど、それだけで売ろうとしていないんですよね。
例えば「Model One」は世界中の視覚障害者の方にすごく評判がいいんです。今の家電は目が不自由な方にはなかなか操作できませんが、これと「PAL」は見ないで操作ができます。かつ「人の声がちゃんと聞こえる」のです。低音と高音を上げた「ドンシャリ」という音作りにすると、派手になりますが、人の声は分かりづらくなってしまいます。チボリは中域を大切にしているので、人の声が本当に素直にきちんと聞こえるというのが特徴です。
また、目の不自由な方は「音の分離がいい」と言います。クラシックなどを聴いたときに、1つ1つの楽器の音がちゃんと全部聴こえてくると言われます。ヘンリー・クロスはそういったことを大事にして作ったのでしょう。
チボリオーディオのテーマの1つは「誰でも手にできる」、つまり価格が安いということです。ハイエンドオーディオ、ピュアオーディオの、本当に特殊な、高収入な人以外は無理という世界ではなくて、自分の人生をかけてきた研究の成果をきちっと普通の人に味わってもらいたい、ということがすごく強かったのだと思います。そこがチボリのブランドのキーポイントです。
−−中身はあり物で箱だけ変えたわけではないのですね。
はい。スピーカーも磁石、ユニットから見なおし、独自の設計が施されています。
ダイアルチューニングに関しても、つまみのサイズにデザイン上ではなく意味があります。このつまみを5度回すと1度チューニングが進む設計になっています。「5.1アナログチューニングダイヤル」といいますが、これにより細かいチューニングができます。アメリカやヨーロッパではラジオ局は日本よりもっとたくさんあるので、このように細かいチューニングができないといけません。そういう理由があってこのサイズ、ダイヤルになっています。デザインのためのサイズではなくて、機能的にこれでなくてはいけないからこそのデザインなんですね。
●チボリと東屋に共通するコンセプト
−−周波数などは日本でチューニングされているのですか?
日本の電気の周波数50Hz/60Hzの両対応や、ラジオの周波数帯域など日本のスペックを伝え、チボリオーディオ社が日本仕様の製品を作ります。
マニュアルの中身でも日本では言わなくてはいけないことや、輸入したときに検品して管理するとか、電気用品安全法を満たすなどの仕事をピードゥーさんがすべてやっています。
チボリオーディオは世界中で展開していますが、日本は特殊かもしれません。日本は局数が少ないですし、AMが根強いというのは他の先進諸国ではありえません。例えばアメリカに言わせると「いまだにAMがあるの?」という世界です(笑)。「日本でヘビーラジオユーザーはAMなんだよ」と言っても最初はなかなか信じてもらえませんでした。今は日本向けにAM機能の改善を研究しています。
−−一方で、ネットラジオも出てきました。
新しいメディアが出てきても、FM/AMの電波を受けて聞くという単純な構造の情報源は、根強いのではないかと思います。
−−ただ「ラジオ」より「デジタルメディアスピーカー」という切り口の方が、iPod世代には分かりやすい気もします。
例えば、店頭では「Model One」にiPodをつなげてデモをしたりと、両面で伝えているつもりです。ラジオという側面とアンプ付きスピーカーの両面をもっとアピールしていこうと思っています。
−−東屋さんの扱っている製品は、全般的にデザイン性に優れているなど付加価値の高いものが多いです。それはチボリオーディオもそうだと思いますが、マスマーケットに売られることに逆に抵抗があるのですか。
ないです。マスがこういう質を求めてくれると地球は平和になるだろうと思いますね(笑)。
−−いい言葉ですね(笑)。
我々が国内で作っているものは長く使えて経年変化が楽しめるようなものです。チボリもモデルの追加はあっても一度発売したものをずっと売り続ける姿勢があります。良いものを長く愛用してほしいというのは我々とチボリに共通する点です。
−−ありがとうございました。
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