上から順に、話を聞いた東芝の加茂 朗氏、山下 彩氏、本田達也氏
2007年3月登場のU101、U201。「スマート」デザインによるものだ(クリックで拡大)
2007年5月登場のU102、U202。プラスキーを継承した「クール」デザインを採用(クリックで拡大)
2007年7月に発売されたU103は日本の伝統色24色のラインアップ(クリックで拡大)
2007年11月に発売されたU104、U205、U206シリーズ。さらに2008年3月には同デザインで4GBメモリ搭載のU407、U408も登場している(クリックで拡大) |
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●最近のDAPトレンド
−−まず最近のDAPの市場ですが、どのようにご覧になっていますか。
加茂:DAP市場は、二極分化していると思います。簡単に言いますと、音楽を楽しむためのオーディオ機能に絞った製品と、映像、動画+静止画も楽しめる製品の2タイプですね。メーカーサイドとしては後者の楽しみ方を訴求していますが、オーディオだけで十分だとおっしゃるお客さまはまだまだ多いですね。
また、メモリの大容量化・低価格化に伴いハードディスク内蔵タイプが少なくなって、メモリタイプで満足されるユーザーがほとんどです。市場は二極分化しつつ、数量的には国内は横ばい状態が続いています。
−−横ばいはいつ頃からでしょうか。
加茂:2006、2007年度ですね。ほぼ飽和状態ではないでしょうか。
−−DAPには国内外のメーカーが相当数参入されていますが、東芝gigabeatシリーズのシェアはどのような状態ですか。
加茂:調査機関にもよりますが、一般的にはアップルさんが45〜50%、ソニーさんが25〜30%、当社が3番手で5〜10%です。
−−1位のアップルiPodが断トツで強いという状況ですね。先ほどメーカーとしてはビデオ再生機へシフトしたいというお話でしたが、そう考えると音楽や音質重視というユーザーさんは少なくて、やはり皆さんビデオプレーヤーとして使いたいのでしょうか。
加茂:そこは微妙なところで、ユーザーさんは音質を重視していないわけではないと思います。前提として、アップルさんはiPodのビジネスモデルをうまく立ち上げられました。ハード単体を売るのではなくiTunesを含めたライフスタイル的提案まで確立して、市場を先に作られた。
各メーカー同時スタートであれば、おそらく音質への評価はもっと高くなったと思いますが、アップルさんが作り上げた市場の中で比較されると、音質への評価は相対的に低いのかもしれません。
デザイン性を含めたiPodの戦略には簡単には勝てません。そこでgigabeat Uシリーズではオーディオプレーヤーとしての本質である音質の良さを徹底的に追求していこうと考えました。
ただし、外で音楽を楽しむDAPはいくら密閉式のヘッドホンを用いても、外の雑音が入りやすい状況です。ユーザーは割り切っていて、室内で聴く据置き型コンポと同等の音質は最初からDAPには求めていない傾向があるかもしれません。
−−確かにコンポと同等のクオリティは、DAPでは環境的に難しい。
加茂:ただ徐々にではありますが、iPodを使っていらっしゃるお客さまに同じ曲を私どもの商品で聴き比べていただくと、「音が全然違う」とおっしゃる方が増えてきています。音質の良さだけで市場を急に立ち上げることはできませんが、継続してハード、ソフトを含めた音作りに今後も注力していく考えはあります。
−−他社にはノイズキャンセラ機能を設けたDAPもありました。
加茂:特に男性ユーザーは、ご自身で好きなヘッドホンを買うという傾向がけっこうあります。場合によっては本体以上に高いヘッドホンを購入されるお客さまもいらっしゃいますし、実際DAPによって高音質で高額なヘッドホンが飛ぶように売れる時代になりました。そういう状況で私どもがノイズキャンセラヘッドホンを付けたとしても、後追いですし、あえてそこは追従しませんでした。
−−「gigabeat」というブランドを採用されて何年になりますか。
加茂:2002年からですので6年になります。
−−オーディオプレーヤーからビデオプレーヤーへのシフトというのは、今後はより進むとお考えですか。
加茂:進むと思います。競合がひしめくDAP市場の中で戦っていくときに、今の軸足からもう少し映像寄りにするというのは1つの方向性だと思っています。
−−gigabeatにはV、S、Tなどシリーズがいろいろありますが、ボリュームが多いのはどれでしょうか。
加茂:数量的にはUシリーズが圧倒的に多いです。
−−あとはみんなビデオプレーヤーになってきているのですね。
●「クール」と「スマート」でユーザー層を広げる
−−デザイン面のお話をうかがいますが、今回gigabeat Uシリーズのデザインを担当された本田さんは、これまでもgigabeatシリーズをデザインされてきたのですか。
本田:いえ、以前は冷蔵庫、テレビをデザインしていました。gigabeatなどのAV機器を担当して1年半になります。
−−gigabeatはデビュー以来、十字型のカーソルキーがとても印象的です。これはデザインのアイコンとして本田さんも踏襲されましたね。
本田:そうですね。ただ営業や商品企画から、プラスキーが好みでないというユーザーの声も聞いておりました。そこでUシリーズに関してはなるべく広いターゲットに広めたいということで、あえてプラスキーのないモデルもデザインしました。
加茂:補足しますと、我々は買ったお客さま、もしくは買わなかったお客さま、東芝を選ばなかったお客さまの声を店頭やいろいろなところで聞いています。その1つの要素としてプラスキーがちょっと使いづらいなという声もありました。
−−使い勝手というより、好き嫌いが分かれてしまう、それほど強烈な印象を持つデザインだと思いました。
本田:アイコンとしては優れていると思います。
−−gigabeat Uシリーズのコンセプトとデザインのアイデアをお話いただけますか。
本田:Uシリーズの前にPシリーズという機種がありました。東芝の製品は男性ユーザーに好まれるという傾向があったので、女性ユーザーも獲得したいというリクエストもあって、Pシリーズが生まれました。このPシリーズは、かなり意図的に女性にターゲットを絞った製品開発をしていたのですが、今回のUシリーズではそこまでターゲットを絞らずに、いろいろな年齢層に幅広くアピールしたいというのが狙いです。内部機構は単一モジュールですが、外装を2タイプ用意することで2倍のお客さまに訴えかけようという戦略です。
そこでアイデアの段階で「クール」と「スマート」の2つのテーマを設けました。「スマート」はわりとカジュアルでポップ。フェミニンすぎずに、男女どちらでも受け入れられるようなユニセックスなデザインを狙っています。そして従来からのプラスキーを用いた「クール」はもう少しソリッドで、金属感のあるギアっぽいものをモチーフにして展開しています。
−−どちらを先に発売されたのですか?
加茂:時期的には「スマート」のほうが少し早かったです。
山下:「スマート」が2007年3月、「クール」が同年5月でした。
−−数的には「スマート」と「クール」、どちらが売れたのでしょうか。
加茂:「クール」のほうが売れています。
−−「クール」はプラスキーを採用されましたが、「スマート」は本田さんのオリジナルデザインですね。
本田:そうですね。中身は基盤やディスプレイ、ボタンの配置に至るまでまったく同一です。ですから外装でイメージを変えるのは非常に難しかったです。素材の違いやアールのつけ方などで、イメージがかぶらないように詰めていきました。
−−同じ中身からこれだけ違う印象のデザインをされ、仕上げのクオリティも非常に高いですよね。
本田:特にクールの外装はアルミ製で質感が高いものです。このアルミは構造体ではなく化粧パネルとして貼っています。そのおかげで24色の「日本の伝統色」シリーズなど、色のバリエーション展開が可能になりました。また、カバー用のネジが外側に露出しないようにするなど、目立たないように工夫しています。
−−基盤は真ん中のクロームの部分で支えられているのですか。
本田:当初はそういう目論見だったのですが、実際には筐体のモールドパーツで挟み込む構造になっています。
−−そうすると、全部バラバラになるのですね。基盤の配置などは「クール」を想定して作られたのですか。
本田:絵は「クール」のほうが少し早かったのですが、その後、開発自体は同時に進んでいました。エンジニアのほうはそれぞれ担当が1人ずつ付いて、デザイン側は私が1人でデータを作っていきました。
−−Uシリーズは店頭などでも音質の評価が非常に高いようですが、内部機構に何か仕掛けがあるのですか。
山下:Uシリーズはデジタルをアナログに変換する肝となるチップに、東芝製のデジタルオーディオ用プロセッサを搭載しております。これは「Direct Charge Transfer Switched Capacitor(DCTSC)-1bit DAC」というプロセッサで、音質の向上に大きな役割を果たしています。
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