TANTO標準タイプのエクステリア(写真上)と、カスタムのエクステリア。フロントの表情はかなり異なる(クリックで拡大)
同じくTANTO標準タイプの後部(写真上)と、カスタムの後部。標準タイプは優しげでカスタムは精悍だ(クリックで拡大)
インテリアの違い。運転席のイメージも差別化がなされている(クリックで拡大)
ママキッズプロジェクトの様子。子育てママの使い勝手を追求する姿勢が分かる(クリックで拡大)
TANTOのスケール。実際の数値より広く大きく感じるところもデザインの力か(クリックで拡大)
折りたためばテーブルになる助手席(クリックで拡大)
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●MOVE、MiraそしてTANTOへ
−−初代のTANTO(タント)は2003年11月デビュー、そして現在の2代目が2007年12月登場と、丸5年を超える人気シリーズとなりました。軽自動車を中心に展開されているダイハツの中において、まずTANTOの位置づけを確認させてください。
小山:ダイハツの基幹車種はMira(ミラ)とMOVE(ムーブ)になります。まずMiraですが、子育ての手が離れて自分の時間をエンジョイする人のためにベストマッチしたクルマです。一方のMOVEは、小さなお子様がいて家事や趣味にとにかく忙しい方のファミリーカーとしてのスタンダードの位置づけです。そして子育て真っ最中のファミリーは、もう少し広い室内がほしいというニーズがでてきます。そこでMOVEに空間的広さをプラスアルファした車種としてTANTOを開発してきています。
−−TANTOのメインターゲットは子育て中の母親ですか。
そうですね、初代は「幸せ家族空間」というコンセプトでした。「ライフスタイル」と「ライフステージ」がありますが、TANTOは子育て層のライフステージに特化したクルマです。クルマはライフステージに特化することで特徴が出ると考えています。それがだんだん拡大してくるとMOVEのように「ライフスタイル」につながってくるのではないでしょうか。
−−MOVEとの差別化ですが、ライフステージは同じですか。
TANTOは小学生くらいのお子様を持つファミリー層がターゲットユーザーで、MOVEはもう少し低い年齢層、乳幼児くらいのお子様を持つご家庭をはじめ幅広い層を想定しています。
−−子供を連れてショッピングセンターやスーパーマーケットに買い物に行く想定ですよね。
お父さんもお母さんも子供も一緒に出かけて楽しいクルマ。そんなクルマを作りたいというのが初代からのTANTOのコンセプトです。
−−これまでの一般的な乗用車もそういうニーズに対応していると思いますが、軽自動車のメリットはどういうところになりますか。
例えば、毎日お母さんが子供を幼稚園に送り迎えしたり、買い物に行くときには、サイズの小さい軽自動車のほうが運転しやすいですよね。そういう使い勝手の良さが軽自動車の基本だと考えています。
−−ダイハツは軽自動車を中心に複数のモデルを展開されています。コンセプトやターゲットなどで社内競合は起こらないのでしょうか。
MOVE、Miraを中心に、軽に特化してお客様のニーズにお応えするために幅広く用意しています。例えばMiraよりさらに軽の本質であるシンプル性を追求したESSE(エッセ)。走りでいうとCopen(コペン)ですね。これもお客様のニーズです。デザインは、お客様のニーズや要望、使い方によって形は変わると考えています。「形態は使われ方に従う」という考えです。網羅するというより、お客様の使われ方に対応しているだけなんです。
●TANTOのカタチが決まるまで
−−TANTOのデザインはどのように固まっていったのですか。
初代TANTOの開発は、それまでの軽自動車にはない新ジャンルのクルマでしたので、デザイン開発の進め方にも新たな取り組みをしました。TANTOは3台のフルスケールモデルを作り、それをダイハツとしては初めて社外クリニックにかけました。一般ユーザーがどのような評価をするのか、客観的評価を得るためです。でも、結果的には社外クリニックで一番点数が高かったデザインを選んだわけではありませんでした。
−−それは面白いですね。
一般的にお客様は、ある程度心地のいいものを選びがちです。パっと見たときに違和感があったり見慣れないモノは、最初は選びにくいものです。例えば、最初にビールを飲んだときには苦いと感じておいしくないけれど、何回か飲んでいるとおいしくなります。ああいう感じではないかなと思います。TANTOは、結果的には一番点数の低かったデザイン推奨案で製品化することができました。そこには我々デザイナーは、次の世代を担うスタイリングは “これだ!”という確信がありました。
−−デザイナーさんの視点で選んだものが絶対だと思っても、社外クリニックや社内で他の案がいいという話になってしまうと、それを覆すのは大変ですよね。
大変でしたね。実際、デザイン審査ではデザイン推奨案はあまり印象が良くなく、役員や関係部署は当然点数が高い案を押しました。どうしても可能性を捨てきれないデザイン部としては後日、デザイン部長と室長が、スケッチを持って役員一人ひとり説明に回りました。最終的には、デザイン部の強い熱意を汲み取ってもらえ、デザイン推奨案をベースにもう少しフレンドリーな要素を加えることで了解を得ることができました。
−−点数の高かったデザイン案では今までのイメージの中に取り込まれてしまう可能性があったのでしょうか。
そうですね、小型車の縮小版であるとか、弊社のATRAI(アトレー)というワンボックス系と被ってきたりします。フロントにエンジンがあって超ビッグなキャビンに超コンパクトなノーズがチョコンとくっ付いた、ちょっと面白いプロポーションが新しさのポイントでした。
−−経営陣はマーケティング的に一番大きいところを狙いたくなりそうですね。
気を付けなければいけないのは、今点数が良かったからといって明日が良いとは限りませんよね。2年後、3年後を想像することが大切です。
−−ではTANTOは、戦略的視点を取り入れることで大成功を収めたわけですね。
ライバル同士の相乗効果でというのはありますが、他社にこういった競合車がないのにこれだけ売れたというのはあまり例がないですね。やはりそれだけニーズがあったんですね。
−−今は不況でクルマの販売が厳しい状況ですが、軽だけはそれほど悪くはないと聞きます。若い世代はお金もないと言われていますが、その点は逆に軽自動車にとってはメリットにもつなげやすいかもしれません。
軽自動車は性能も上がってきましたし、規格も大きくなってきましたので、軽自動車で十分というところもあると思います。軽自動車は日本の文化の中で生まれてきたジャンルですから、スクーターや自転車といった乗り物に近い感覚があると思います。
−−軽自動車は高級車のような非日常的存在ではなく、日常感ですよね。
いいのか悪いのか、自動車というよりは日用品という感覚もあると思います。
−−TANTOをデザインしていく上で、元になるモチーフやアイデアはあったのですか。
TANTOは新しいジャンルのクルマを作るということで、家電製品など、違う分野からのアプローチを行いました。いわゆるシロモノ家電は日常使うものですし、広い空間が必要だということもあります。それと、建築物を研究しました。こういう大きいキャビンになると柱がたくさん出てくるので、その扱いをどうしようかというのを建築物からヒントを得たかった。建築物はいろいろ見ましたね。
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