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●第36回:au「INFOBAR A02」
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●第32回:エステー「エアカウンター」シリーズ
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●第31回:SONY NEX-7
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●第29回:ドコモ スマートフォン「P-07C」
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●第28回:東芝扇風機「SIENT」F-DLN100
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●第27回:OLYMPUS PEN
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●第26回:ウォークマンSシリーズ
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●第24回:パナソニック「Let'snoteシリーズ」
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●第23回:カシオ「EXILIM G」
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●第21回:Panasonic「LUMIX DMC-GF1」
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●第19回:SONY「VAIO Wシリーズ」
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●第18回:KDDI「iida」
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●第16回:ダイハツ工業「TANTO」
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●第15回:ソニー「VAIO type P」
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●第14回:デジタルメモ「pomera(ポメラ)」
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●第13回:日本HP「HP 2133 Mini-Note PC」
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●第12回:ウィルコム「WILLCOM D4」
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●第5回:日産「GT-R」
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●第2回:ソフトバンク携帯電話「913SH」
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●第1回:マツダ「新型デミオ」
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東芝扇風機「SIENT」F-DLN100
DCインバーターモーターによる扇風機の最上位を目指して
「SIENT」F-DLN100のデザイン開発

節電、省エネといった言葉がひときわ人々の関心をひく、2011年夏。高級扇風機がブームとなっている扇風機売場に登場したニューフェイスが、東芝「SIENT(サイエント)F-DLN100」だ。オーディオライクなスタイリッシュさを持ちながらも、扇風機としての機能性をしっかりと備えていることがその外観に表れている。今回は、東芝デザインセンター家庭電器デザイン担当参事の高間俊明氏、東芝デザインセンター家庭電器デザイン担当主務の内田聡氏に、「SIENT」F-DLN100が生まれるまで、デザインの特色とデザイナーの役割、ワークフローを中心に話を伺った。
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話を聞いた東芝デザインセンター家庭電器デザイン担当参事の高間俊明氏(上)と同家庭電器デザイン担当主務の内田聡氏
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DCインバーターモーター採用で静音、低消費電力(20〜3W)を実現した扇風機、東芝「SIENT」F-DLN100(クリックで拡大)
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「SIENT」の初期の手描きスケッチ(クリックで拡大)
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アイデアスケッチの1つ「Superslim」(クリックで拡大)
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「SIENT」の羽根部分の制作工程を見ていこう。一番上は設計検討のCADモデリング画像。次にモックアップ。その下は最終形状のCGレンダリング画像。最後の写真が実際の製品の後部(クリックで拡大)
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下部の丸いスタンド内に収められた操作部分(クリックで拡大)
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羽根カバーの中央に置かれたロゴの候補案。最終的に左のProposalA案が採用された(クリックで拡大)
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社内の関係者で「SIENT」のコンセプトを共有するためにデザインセンターが制作した小冊子(クリックで拡大)
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製品のパーツから。透明にして存在感を消している7枚羽根(クリックで拡大)
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後部の羽根カバー。ワイヤーには微妙なカーブがつけられている(クリックで拡大)
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スタンド部。光沢のある黒はオーディオ機器のようなイメージ。取り外し可能なリモコンホルダーも用意されている(クリックで拡大)
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オーディオアンプのボリュームつまみのような操作部(クリックで拡大)
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●「SIENT」F-DLN100開発の経緯

−−「SIENT」を開発するきっかけからお話ください。

高間:猛暑が続き、また地球温暖化への対応が問われる中、先行してダイソン、バルミューダといった高級扇風機の流れがありました。扇風機の老舗の東芝としても、現状を踏まえて「扇風機」をきちんと考え直そうというのが開発のきっかけでしたね。ただ、我々としては、これまでの後継としての製品でもあります。扇風機のラインナップ上で考えていたという点は、他の2社さんとは違うところだったかもしれないですね。

−−ダイソンやバルミューダといった、高級扇風機の路線が市場として育ってきているからこそ、老舗として何か提案していかなくてはと考えられたのですか。

内田:ダイソンがもし世の中になかったら、今回のような提案は厳しかったかもしれません。それまでの扇風機は、どうしても価格競争を念頭に置かないわけにはいきませんでしたから。低価格製品が売れるというのが当たり前だという市場でしたので、仮に高級路線の企画があっても、経営判断的には難しかったことは間違いないと思います。

高間:むしろ、競合他社さんが市場を引っ張って、風穴を開けてくれたという背景があってからこそですね。扇風機は、時期的にもマンネリ化が進んできているところでしたので。他社さんの製品を見て刺激になりましたし、新しい商品を作ろうという気持ちが後押しされたということもあります。

ちょうど、DCインバーターモーターという新しい技術が生まれた時期でもありました。もともと扇風機は省エネな製品ですが、DCインバーターモーターを使えばケタ違いの省エネが可能になります。さらに、インバーター制御により一般に使われている交流のモーターに比べて非常に細かい制御ができます。ロスが少なく、非常に効率がいいのですね。本製品の売りの1つに多段階風量調節機能があるのですが、これはDCインバーターモーターあっての技術です。また、DCインバーターモーターによって本体の小型化も可能になりました。今回は上下首振り機能のためにモーターをもう1つ内蔵しているのですが、大きくなりすぎないサイズ感で収まりました。

●「SIENT」のターゲット

−−ハイエンドかつ、フラグシップ的な扇風機を作るということで開発されたと思いますが、ユーザー層はどういった方々を想定されたのでしょう。

内田:家電製品といえば、主婦が主導だというイメージがあるのですが、価格が2万円以上になりますので、これは高い買い物です。やはりそうなってくると、男性の意見もが入ってくるだろうというのはかなり意識していましたね。ですから、企画の初期段階から、比較的オーディオ機器のテイストを持った質感や操作系を提案していました。そういったキーワードは、男性のほうがピンときますよね。我々のユーザー分析としては、ダイソン製品を購入している人は、実は扇風機が欲しいユーザーではなく、どちらかというと新しいモノが好きで、そういったものにアンテナの感度が高い人が、「風の出るオブジェ」を購入しているのだという捉え方をしていました。そこで、我々が提案する扇風機というのは、扇風機を欲している人たちが、2万円以上出しても構わないと言ってくださるようなものにしていこうと考えていました。

−−では、使われるシーンとしても、リビングやホームシアターの横に置くようなイメージを想定されていたんですね。

内田:そうですね。リビングや寝室など、本来扇風機が置かれるであろう場所を意識しています。

●デザインコンセプト

−−先行するものにダイソンやバルミューダはデザイン的にも特徴がありますが、それらのテイストは意識されたのですか。

内田:ダイソンとは、先ほど述べたようにコンセプトが違いますので、まったく別物だと思っています。バルミューダのほうがやや近いかなと思われるのは、インテリアになじむという方向性が共通しているからかもしれないですね。ただ、我々は、その中でもよりデジタルな方向というのを意識して開発にのぞみました。

扇風機が置かれる、たとえばリビングのことを思い浮かべてみると、そこに置かれているのはテレビやビデオデッキなどのオーディオ機器です。そういったものと並んで違和感がないということを意識しています。オーディオ機器、デジタル、黒物と呼ばれるようなカテゴリーの製品を意識してデザインしていますね。

−−デジタルっぽさっていうのが、キーワードなんですね。

内田:加えて、飽きがこなくて誰にでも好かれるということを考えると、あまり奇抜なフォルムを狙わないで、なるべくプリミティブ、かつシンプルな方向に落ち着きました。さらに、扇風機は、やはり回転体なので、円柱形状が基本になっていたりと、これまでの扇風機と同じアイコンを保つようにしています。機能的にはハイエンドになりますから、内容に合った高級感が出るようにといった点にも気を配りました。

−−このデザインにフィックスするまでには、他にどのような案があったのでしょうか。

内田:そうですね、たくさんありました。もっと奇抜なモノや、もっと薄いモノまで、本当にたくさん。最初の頃の案では、とにかく薄くて、まったく扇風機らしくないイメージのデザインから始めたんですね。DCインバーターモーターの薄さを生かしたくて、扇風機の持っている厚み感をなるべくなくすという方向で考えた案もありますし、首振りの動きを象徴するような、動きのあるデザインのバリエーションもありました。ガードの部分は、製品の顔になってくるところですので、ここの表現をいろいろ変えたアイデアもたくさん出していましたね。もちろん操作系からすべて考えました。

いろいろ考えた中で、東芝全体の流れの中での最上位をどう考えるということから、扇風機のアイコンを残す方向でやっていこうということになりました。

●デザイン主導の開発

−−開発のスタートはいつ頃だったのでしょう。

内田:2010年の9月くらいでしたね。アイデアスケッチ的には、その前からスタートはしていたんですけれど、基本的な設計が進んで、決定案に落とし込むためのデザイン作業というのは本当に短時間でしたね。短時間でやる場合、一番心配だったのが、価格に見合わないチープな印象になること。

それを予防するという意味で、製品カタログを作る前に、デザイン側でが主導して、手作りのカタログみたいな冊子を作りました。この扇風機はどういうコンセプトで売るべきなのか、どういう空間に置かれるのか、何を売りにするのか、そういったものをきちんとビジュアル化して、関係者に配ったんですね。

−−社内プレゼン用ということですか。

内田:そうです。これがゴールなんだよということでをデザインセンターがビジュアル化しました。ユーザーはここを見るんだから、ここのパーツは絶対気を使わなくてはいけないし、カタログに載るのはここが正面になるんだから、ここから見えるものは絶対に気をつけなくちゃいけない、どこは抑えて、どこは気合を入れるのかということがはっきりと分かるようにしたのです。

この冊子があることによって、設計の人たちと細かいフォローをするときにも、私の目が届かないところが出てきた場合、例えば営業担当が「オーディオっぽくやりたいのに、このダイヤルのところがこんなガタガタしてちゃダメだよ」ということを、私ではなく別のルートから設計の人に伝えてくださるといったこともありました。

一般用のカタログを作るときにも、デザインセンターの方に「こういうイメージで第一稿ができあがりましたが、意見を聞かせてもらえませんか」と持ってきてくださったということもありましたね。モノを作るための目と手が、どんどん増えていくんですね。今回、そういう意味ですと、全体のフォローが一番デザイナーに求められた仕事だったのではないかと思います。

−−オーディオライクというコンセプトは、技術の人も、営業の人も、共有できていたんですね。

内田:あとは、東芝の扇風機ラインナップの再考期に、デザインが何をやらなくてはいけないかということで、本質的にモノを見直すということも意識しました。今回は、DCインバーターモーターを使って超微風を作ることができるというのがポイントでしたので、やはりそこを推していきたいと。ダイソンやバルミューダとの差別化という意味でも、寝ているときにつけっぱなしでも本当に気にならない風、リビングに置いていても本当に窓から吹き込んで来ているような風、それを表現するためのデザインはどういう形なのかということで、やはり住環境に馴染み、いつまでも置いておきたくなるようなデザインがよいだろうということになりました。

市場で2万円以上もする扇風機ですから、夏場に限らず、1年中使ってほしいと思いますしね。サーキュレータ的な置き方ができて、置いていて苦にならないデザイン、主張しすぎないけれど高級感はある、バランスのとれたデザインを目指しました。

高間:例えば羽根を透明にすれば、扇風機然とした主張を抑えることもできますし、また、なるべく薄く見せるためにパーツの色づかいなどにも気をつかいました。さり気なさ、はかなさと、高級感や精緻さ、さらには、細かい制御が可能であることの表現として、操作系がスムーズに動くこと、正面のスピンドルに美しい光のグラデーションができるところなど、すみずみまで意識し、検討して作りました。

●見え方だけでなく、実用性や安全性への配慮も

−−動作している状態を拝見すると、動きによって光のハイライトの位置が滑らかに変化し、確かにこのグラデーションは美しいですね。また上下の首振りにも佇まいを感じます。

高間:動作中の見え方についてはもちろんですが、東芝の扇風機の従来のラインナップから得たユーザーの声がありましたので、そういったリクエストの声に妥協しないという姿勢もありました。

たとえば、上部には収納式のハンドルが格納されているのですが、これは従来の下位機種で聞かれた「大きなハンドルがついていて使いやすい」というユーザーの声を生かしたものです。デザイン性を損なわずに実用性をキープした1つの例ですね。

また、首の伸縮も、実際に使う人の立場に立つと、見た目だけを重視するわけにはいきません。使い勝手をデザインの犠牲にはできないので、継ぎ足す方式ではなく、ボタン1つで伸縮できるようにしました。扇風機に求められる機能はすべて盛り込もうという努力はしました。

内田:それでなお、スタイリッシュな直線のイメージが出せるよう、伸びるところ、曲がるところはなるべく隠すなどの工夫をしています。さらに言うと、実は本製品は、DCインバーターモーターを使っていますので、電気用品安全法上の扇風機にあたるものではありません。本来は、扇風機の安全基準から外れるものなのですが、やはり我々は、扇風機をしっかり作っているメーカーです。安全性に妥協してはいけないだろうということで、使う素材や強度設計、転倒の角度の調整など、細かいところもすべて妥協せずに作っています。

●7枚羽の理由

−−羽根を7枚にした理由は、何だったのでしょう。

高間:DCインバーターモーターという新しい技術を搭載した製品なのに、扇風機の重要な要素である羽根が従来の機種と同じものがついているというのは、企画上、訴求力に欠けるということと、微風がこの製品の売りなので、たくさん羽根があったほうが、きめの細かい、より心地の良い風が出せるというのが理由です。実は、羽根の設計技術は難しく、羽根と風の関係は、実際に作って動作させてみなければ分からない面もあり、なかなか難しい世界です。

内田:それと、デザイン的には、7枚羽根は薄くできるというメリットがありました。効率よく空気を取り込むことができるので羽根の全体が、5mmぐらい薄くなっています。羽根は透明にして圧迫感をなくしています。静電気を防止する処置も加えましたので、汚れにくくもなっています。

●ワークフローについて

−−ワークフローについてもお伺いしたいのですが、最初は手描きのアイデアスケッチから始まったのでしょうか。

内田:最初はアイデアを手描きすることが多いですね。今回は扇風機ということで、造型的には3Dソフトでどんどん作っていきました。モックアップはそう何台も作れませんので、ある程度方向性が変わらない限りは、3D上で修正したものでプレゼンをしていく感じでしたね。

高間:やはり絵の段階ですと、プレゼンの段階でなんだか今までの扇風機と変わらないなあ、という顔をされました。リアルに描いても、絵だけではなかなかこちらの考えていることまでは伝わらないんですよね。

やはりトップは、開発の初期段階では「もっとダイソンに勝てるようなものを」という意気込みを持った、厳しい目で見られていましたし。「普通の扇風機だな、これは」といった意見もありましたね、最初は。

−−とはいうものの、ダイソンよりも奇抜なデザインは検討されなかったわけですよね。

内田:コンセプトはダイソンとは別でしたからね。先ほどの上層部の意見は、かなり初期段階でのコメントで、後半からはもう逆に「扇風機でいいんだ」と。扇風機でいいモノを作ろうという方向になりました。

ダイソンは、デザインの面で刺激になったことはもちろん、「扇風機における高価格商品」というカテゴリーを作ってくれたという意味でも本当に刺激になりました。悔しい反面、頭が下がります。

−−この製品を写真で拝見したときに、ダイソンと言うよりむしろバルミューダのいいところも採っているなという印象も受けました。

高間:バルミューダは、DCモーターを使っていて、コンセプトは近いとは思います。しかし、バルミューダを意識したということはあまりないですね。結果として同じように見られてしまうという面はあるのですが……。バルミューダの製品は、一見我々のコンセプトに近い、プリミティブな形状ですが、風の出し方のほうを訴求されているようです。我々は風の質にこだわっていますので、商品としての落としこみの方向は少し違うのかなと思っています。

−−ちなみにモデリングはご自分でなさるのですか。

内田:今回の作業は、3Dメインで進めました。サイズ感の修正などに、Pro/Eは非常に強いですから。幅を何ミリ詰める、径を増やすといった作業も、手早くできます。今回のデザインに関して言えば、質感が重要なポイントだったので、そういう意味では手描きで伝えようとするよりも、こういった3Dのレンダリングで見せていく方が話はスムーズでしたね。

レンダリングには、nStylerやKeyShotを使っています。データ自体はサーバーを介して工場等とやり取りがスムーズにできるようにしています。デザイン開発の早い段階から設計部門とやりとりができるということですね。

−−フォルムの承認に関しては、モックアップの段階ですか。

内田:そうですね。最終的にはモックアップを見ての承認がなされます。今回は、モックアップ段階のモノからさらに改善できたというのがよかったですね。

−−RPなどもお使いになるのでしょうか。

高間:そちらは外注でお願いしました。弊社のデザインセンターにもRP、3Dプリンタはありますが、今回はリモコンのフォルダーに使用しました。

●老舗家電メーカーのこだわり

−−最後に「SIENT」の魅力をお願いします。

高間:やはり微風にはこだわりがあります。風は超微風から強風まで7段階の調整が可能ですが、1段階目や2段階目といった弱い風は本当に微妙な差です。ユーザーの好みというのは、小さくなればなるほど微妙なこだわりが出てきますので、細かな制御を生かして工夫を凝らしています。風の流れや動きを数値的に考えるということは難しくないのですが、実際に人間が体感して気持ちの良い風を作りだすのは、本当に難しいことだと思います。

何が気持ち良いかというのは、そのときの気温であったり、体調であったり、個人の感じ方でまったく違ってきますので、なるべく多くの選択肢を提案していきたいというのが、我々が超微風からの多段階設定にこだわりをもつ理由になっています。もともと、東芝の扇風機自体が微風にこだわりをもって開発されており、他社の製品よりも、ゆっくりめの風が静かに出せます。今回は、その流れをさらに突き詰めたという感じですね。

内田:また、今回は7という数字を商品アピールのキーポイントにしました。7枚羽根もそうなのですが、カタログなども7つのコンセプトを前面に出したデザインを採用することなどを、デザイン側から提案して展開させています。ネーミングも、当初は別の名前を付けていたのですが、それを商品企画の人たち、営業の人たちと再検討して現在のものになりました。ただ、そういった製品開発の過程で、ロゴマークのアクセントや販促の展開などもデザインの提案を盛り込むことができました。この製品を開発することは、デザインセンターにとっても大きな意味を持っていたのではないかと思っています。

−−本日はありがとうございました。



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