●マイクロフォーサーズをカタチに
−−まず、2008年に発売した一眼カメラ「LUMIX DMC-G1(以下G1)」「GH1」そして今回の「GF1」で採用しているマイクロフォーサーズ規格について、簡単にご説明願います。
勝浦:マイクロフォーサーズにはその元となるフォーサーズ規格があります。これはもともとオリンパスさんが提唱された規格ですが、我々が一眼カメラに参入するにあたり採用させていただきました。2006年7月に、パナソニックとして初のデジタル一眼レフカメラ「LUMIX DMC-L1(以下L1)」を発売し、その1年後の2007年に「L10」を発売しました。
フォーサーズ自体、デジタルカメラに特化した規格で、交換レンズもデジタルカメラの特性に合わせた形になっていましたが、デジタルの特性をより生かせる進化したマウント規格についてオリンパスさんと参入当初から論議をさせていただいて、フォーサーズの拡張規格としてマイクロフォーサーズ規格を共同で立ち上げました。その第1号機が2008年夏発売の「G1」となりました。
−−マイクロフォーサーズはフォーサーズ規格に対して”もっと小さく”という提案だったのですか。
勝浦:撮像素子のサイズはフォーサーズ規格と同じですが、デジタル時代の一眼のこれからを盛り込んでいくというのがマイクロフォーサーズ規格の狙いでした。
一番大きな目的はサイズのコンパクト化です。コンパクトデジカメのユーザーでも、大きなセンサーは高画質が撮れるので使ってみたいというニーズが多いです。ただ、我々の調査ではコンパクトデジカメユーザーの約20%が一眼の高画質を使ってみたいと考え、購入検討はしても実際の購入までいたっていません。その障害になっているのが、一眼レフカメラは「大きい」「重い」「難しい」という3点です。たしかに一眼レフは大きくて重たい。そして難しいという点は、コンパクトデジカメでは液晶ファインダーで見えたものをそのまま撮るのが普通ですが、一眼レフは通常、光学ファインダーをのぞいて撮影し、液晶画面は基本的には再生にしか使えませんでした。そこがコンパクトとは違う「難しさ」を感じさせる大きな要因だと分析しています。
−−光学ファインダーをのぞくという使い方が、今では「難しい」という感覚になっているのですね。
勝浦:そうですね。そこでL1でも液晶で被写体を確認できる「ライブビュー」を導入しました。ですがもともとが一眼レフベースですので、スピードや機能的に制約がありました。
さらにそれを進化させ、2代目のフォーサーズ機であるL10では、専用のAFセンサーではなく実際に撮像する素子でオートフォーカスを行う「コントラストAF」を取り入れました。さらに、顔認識機能の搭載や「フリーアングル液晶」にすることで、ハイアングルやローアングルでの撮影を可能にするなど、フォーサーズ規格の中での使いやすさを追求してきました。
そして、一眼レフベースではなく、より使いやすいものを目指すという観点で新しいマウント規格を立ち上げました。それがマイクロフォーサーズです。
今まで一眼レフカメラはミラーを内蔵していましたが、マイクロフォーサーズではミラーをなくしました。そこまで踏み込んで今後のカメラのベースとなる規格を考えました。それによってフランジバックというマウント面からセンサー面までの距離が、40ミリから20ミリへと非常に短くなりました。それに伴いボディ自体も小さく薄くなりますし、レンズも小さくなるなど、システムとして非常にコンパクトになるのがマイクロフォーサーズの一番大きなメリットです。
ミラーを取り外し、撮像素子そのものでファインダーを見る「フルタイムライブビュー」を実現することで、ほとんどコンパクトデジカメと同じような操作感が実現できます。マイクロフォーサーズにはサイズ以外にも3つの大きな特徴がありますが、「フルタイムライブビュー」が1つ目の特徴です。
−−ライブビューはセンサーを通した映像なので、どうしても若干遅くなるという話も聞きます。
勝浦:被写体がすごく速く動いている場合などにはタイムラグは多少はでます。例えば、レーシングカーを撮るというときには課題になりますが、普通にお使いいただくには問題ありません。
また「コントラストAF」はAF精度が高いのが特徴ですが、方式的には専用のAFセンサーを使用するものに比べAFスピードの面で不利です。我々としてはAFのスピードは今までの一眼レフと変わらないものを達成しようということで、高速化の仕組みをマイクロフォーサーズの規格自体に練り込みました。従来の一眼レフと比べても遜色なく「AFが快適できれいに撮れる」。これが2つ目の特徴です。
3つ目は「動画」です。マイクロフォーサーズは当初から動画を想定した規格になっていますから、フルタイムでずっとAFが追従し、ビデオ(ムービー)カメラと同じように撮影できます。
−−動画でも被写界深度はスチルと同じですか。
勝浦:基本的にはそうですね。絞りも動きますから。
−−デジタルカメラのユーザーには動画を求める声は多いですか。
勝浦:実際にグループインタビューをするとすごく使われているわけではありませんが、従来と比べると動画の使用が増えてきたのは感じます。
ビデオ(ムービー)カメラだと、だらだらと1時間も撮り続け、見るときに負担になることもありますが、一眼カメラはもともと長時間の動画を撮影するスタイルではありませんから、ちょい撮り的な1分2分の撮影が多いと思います。GH1/GF1は、写真と動画が時系列に再生できるようになっているので、気軽に動画を撮っていただいて、撮った順番に見ていたくことが可能です。
−−逆にビデオカメラもスチルが撮れるようになっているので、どちらからもムービー、スチル両方にアプローチできる時代ですね。
伊藤:パナソニックには両方ありますので(笑)。ライフスタイルはいろいろあるので、競合はしないと思っています。運動会や入学式で長時間撮るとなると人間工学的にビデオカメラの方が向いているかと思いますし、一眼カメラにはビデオカメラにはできない画作りや空気感が楽しめます。
中村:日常的に赤ちゃんのちょっと動いたところを撮るなど、ちょい撮りの気軽さでは、デジタルカメラで動画を撮る方がニーズはあるのかなと思いますね。
●Gシリーズのターゲットユーザー
−−マイクロフォーサーズの特徴を、どういったターゲットユーザーに向けて、どういったパッケージにしようと考えられたのですか。
勝浦:レンズは撮像素子の位置関係で決まりますが、ファインダーは電気式ですのでデザインの自由度は非常に高い。ですからどういうデザイン、構成にしていくかは、これまでの一眼レフと比べたら好きなようにできます。
マイクロフォーサーズ機を作るにあたって、はじめからGF1的なデザインバリエーションも考えましたが、最初にファインダーのないフラットなカメラを出してしまうと、きわもの的に捉えられてしまうという危惧がありました。デザイン調査もしていますが、「きれいに撮れるカメラ」の典型的なカタチは何十年前から続いていて、ユーザーの頭の中に刷り込まれていますよね。パソコンソフトなどのカメラを示すアイコンもそういう形をしています。
そこで高画質なカメラということがはじめにありきですので、第1号機となった「G1」では変に奇をてらったものではなく、あえて一眼レフスタイルにしました。
−−G1のデビュー当時、CMなどでは女性を意識したプロモーションが目に付き、いわゆるハイエンドアマチュアカメラマンは見ていないのかなという印象がありました。それはどうでしょうか。
中村:たしかにコマーシャルのイメージが強いと思います。最終的にモノができてマーケティングの段階でそういうCMになりますが、女性を念頭に置いてデザインしているわけではありません。基本的にはデザインはユニセックスですし、カメラの基本性能を追っていくスタンスです。
−−デザインの段階で女性ターゲットだと考えていたのではないのですね。
中村:ターゲットは女性だけとは考えていません。基本的にユニセックスです。カメラの本質とコンパクト性や使いやすさを視野に入れたデザインです。カラー展開も含め、結果的に女性にも受け入れられるデザインになりました。
勝浦:サイズでいいますと、やはり「大きい・重い・難しい」がより障害になっているのは女性ですよね。
−−一眼レフカメラよりコンパクトデジカメのほうが市場サイズは大きいと思います。そこは意識されていましたか。
勝浦:一眼レフカメラユーザーだけではなくて、今までコンパクトデジカメの枠を越えられなかったような人を取り込んでいき、一眼の世界を広げていこうというのは当初からありました。
−−「一眼レフ」と「コンパクト」の間に「一眼」を持ってくる。これまでなかった市場とも言えますね。
勝浦:そうですね。新規市場を創造していこうという想いはあります。今までの一眼レフのコーナーは黒いカメラばかりで難しそうだから近づけない、寄せ付けない雰囲気がありました。それがこういった小さくてカラフルなタイプがあるからということで女性にもそのコーナーに気軽に立ち寄っていただいています。我々の想いが伝わってここまできているのかなという気がしますね。
伊藤:「カメラ女子」という言葉も聞かれますが、マイクロフォーザーズは小さくできるので女性に適してしていると思います。「私でも使えるかしら」というデザインになっているので新しい市場のキーは女性だと考えています。
勝浦: G1は女性層だけではありません。マイクロフォーサーズはフランジバックが非常に短いので、マウントアダプタがサードパーティーからもたくさん出ていて、ほとんど世界中のどんな形のレンズでも付くようになっています。ライカ用のマウントアダプタを付けたり、コレクションはしたけれど押し入れに眠っていたレンズなどで楽しまれているコアな方もおられます。その2面性があるんです。
−−レンズの楽しみもあるのですね。
勝浦:年配の方には「小さい・軽い」という部分を非常に評価いただいていますし、幅広い方に使っていただいていますね。
−−G1は、銀塩時代からの一眼レフマニアやカメラマニアの方からも、受け入れられたでしょうか。
伊藤:最初はレフが無いことで、カメラとしては否定的な意見も一部いただきましたが、実際にG1を手にとって使っていただくと一転してファンになってくださった。それはやっぱりビューファインダーがすごくきれいだということと、AFも速いし、使い勝手もいいという点です。最初にサブカメラだと言っていた方がレンズを換えてメインに使ってくださったり、それこそ遊び心いっぱいでご利用いただくとか。
勝浦:G1はファインダーに一番驚いてもらっているんですよね。最初は電子式はどうなのかなと言われるけれど、実際にのぞいてみて、すごくきれいで使い勝手もいいと評価をいただいております。
−−光学式のファインダーに慣れた人だとピントがきているのかいないのか分からないという感じもあると思いましたが。
伊藤:G1のファインダーは約144万ドット相当あります。光学と違ってピントを合わせたい部分をズームアップできるのですごく撮りやすいとの声をいただいています。
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