左が初代のINFOBAR、中央が製品となったINFOBAR 2、右は最終的なモックアップ
(クリックで拡大)
auや深澤直人氏とのコミュニケーションの中心となった主任企画員の徳原康隆氏
INFOBAR 2の設計を担当した主任技術員の岩佐圭一郎氏
雲形定規で実測して鳥取三洋電機で作られた初期のモックアップ(クリックで拡大)
左が製品の形状、右が基板を入れることを前提に作られたモックアップ。かなりシェイプアップされたのが分かる(クリックで拡大)
ボディカラーを検討した際のモックアップ(クリックで拡大)
精密に積み上げられた内部機構が確認できるINFOBAR 2のスケルトンモデル(クリックで拡大)
|
|
●コンセプトモデルの衝撃
−−今回、鳥取三洋さんがINFOBAR 2の製造を手掛けることになった経緯を教えてください。
徳原:初代のINFOBARも弊社が担当させていただきました。そこで、できればINFOBAR 2も弊社にて作らせていただきたいと前々から思っていました。ただ、デザインに関しては、KDDI様がデザインモックを発表された段階で、我々も初めて見たという状況でした。
−−そういえば初代は、製品化に際してコンセプトモデルより厚くなったという話を聞きました。
岩佐:確かに当時は技術的な問題で実現できない面がありました。
徳原:やはりアンテナですよね。コンセプトモデルではアンテナがなかったんですけど、4年前の技術ではなくすことができなかった。
−−INFOBAR 2のコンセプトモデルを初めてご覧になって、いかがでしたか?
岩佐:INFOBAR 2のコンセプトモデル発表の後、初めてモックを見せていただきました。雲形定規などで曲面の縦、横、厚みを実測し、それを元に弊社で3Dのデータを作って、内部構造の検討や部品の選定を始めました。
−−INFOBAR 2も御社が手掛けたかったというお話ですが、それは機能的な面でということですか。
徳原:そうです。弊社では初代でやり残したこと、アンテナをなくしたり、もっと薄くしたり、そういった内容を検討していました。
−−初代INFOBARの成形技術は非常に評価が高かったと思いますが、さらに2になって普通これはできないだろうというような印象を持ちました(笑)。
徳原:そうなんですよ。正直言って想像を圧倒的に超えていたので「これはちょっとできないか?」と思いましたね(笑)。企画の目から見た正直な感想はそれでした。でもうちの技術は作ってしまったんですね。深澤直人さんのデザインの力だと思います。
−−岩佐さんはコンセプトモデルを最初に見てどう感じましたか。
岩佐:事前にネットなどで発表された画像を見てはいたんですが、実際は予想以上に丸いなと、曲面にびっくりしましたね。初代は四角が特徴だったので、それから比べるとすごく丸かったので驚きました。
−−それをご自分で作ることを想像して、いけると思いましたか。
岩佐:モックは角がスーッと薄くなっていて、これは難しそうだなという印象でした。
●想像以上に薄い曲面にフルスペックをどう収めるか?
−−モックの段階で寸法を測って、それを御社がCADでモデリングされたのですか。
岩佐:何もデータがない状態だと内部構造の検討ができないので、ざっくりした形状を作りました。そしてまず基板の配置を行い、ざっくりとこのサイズに必要な機能が入るかどうかの検討を済ませて、ある程度いけそうだとなりました。
ちょうどそのくらいのタイミングでKDDIさんからCADの2次元図面データをいただきましたので、それを元にもう一度作り直して、そこから詳細検討に入りました。
−−auさんからきたCADデータは深澤さんのところで作られた、曲面が生かされた図面ですね。
徳原:まさにコンセプトモックの図面ですね。
岩佐:DXFで受け取りました。最初は2次元できて、もう少し後に最終的な3次元のメインデータが届きました。
(モックを見ながら)こちらが弊社で実測した寸法からモデリングして削り出したものです。これで大体の部品の配置を検討しました。こちらが深澤さんからの2次元図面を元にうちでモデルにしたものです。
真ん中の断面の形状は同じなんですけど、両端が違いますよね。最初は部品を入れやすかったので厚みがあるほうを提案したんですけど、それはNGになりました(笑)。
−−この段階では当初予定されていた内部機構は全部収まっていたのですね。
岩佐:ただ最初はバッテリーの角が飛び出して収まりきらなくて。それで深澤さんと打ち合わせしたときに、再度持ち帰りまして(笑)。内部構造をもう1回見直して、なんとか収めました。
−−バッテリーの形も変えているんですね。
岩佐:通常はもうちょっと角ばっているんです。
−−INFOBAR 2専用のバッテリーですね。全部専用部品化していくと製造コストも上がると思いますが、汎用で使える部品もあるのですか。
岩佐:通常はできるだけ使うようにしています。
−−今回はどうですか。
岩佐:カスタムや新規採用が多いですね。バッテリーにしてもそうですし、ELディスプレイもそうです。また専用ではないですけど新規に採用した部品としてはスピーカーやレシーバー、バイブモーターなどがあります。コネクター関係も多いです。
−−ストレートタイプは、二つ折りの携帯電話に比べたら容積は増えているので、そういう面では基板の収納は楽なのかなと思いますが。
岩佐:楽な部分もあるんですけど難しい部分もあります。実際に基板に使える面積は広くないので、部品をいかに配置するかというところがけっこう大変でした。中央部分は厚いですけど、実際の容積としてはあまり使えないですね。
−−つまり薄い部分を実装部分と考えるしかないのですね。膨らんでいる部分は回路的には使えないのですか。
岩佐:使われているところもありますけど、使っていない部分もあります。一番薄い部分ですと10ミリもないですね。
徳原:そこに入るような薄めの部品をうまく集めました。
−−配置の妙もあるのですね。どういった機能がどこに入っているかを教えていただけますか。
岩佐:メイン基板は1枚です。それにバッテリーがあって、表側にELディスプレイです。
−−バッテリーとディスプレイの間に基板が入るということですね。基板は1枚だけですか。
岩佐:メインの他にサブ基板が2枚あります。カメラ関係のライトや赤外線モジュールなどが載ったサブ基板が入っています。もう1枚はFeliCaとUIMカードです。
徳原:分厚いものといったらスピーカー、カメラ、バッテリーですね。
岩佐:あとはバイブモーターですね。モーターが意外と場所を取るんですよ。今回も薄いコイン型を採用しました。あとはワンセグのアンテナです。
徳原:通常のワンセグ機はホイップアンテナを引き出して使用しますけど、電波状態が良ければしまっていても見られます。今回は外付けのアンテナがありまして、それを付けない状態ではホイップアンテナをしまっているのと同じくらいの感度です。ですから東京の山の手エリアなどであればとくに問題なく視聴できると思います。
●ボディとキーボード
−−ボディの素材は何ですか。
岩佐:PC+ABSです。それだけだと剛性などの強度が足りないので、内部にマグネシウムのシャーシを入れています。マグネシウムのシャーシを土台として、それにメイン基板やELなどの部品を組み付けていって、最後にPC+ABSでカバーするという構造です。
徳原:マグネシウムのシャーシを搭載したのは初代のINFOBARからです。
岩佐:最近の携帯は内蔵アンテナになっていますので、金属は使えないです。電波を遮断してしまうので。INFOBAR 2ではちょっと工夫をしていて、アンテナの周りは他の素材で作っています。
−−こういう部品のやりくり、入るか入らないかの検討はCAD上で行うと思いますが、CADは何をお使いでしょうか。
岩佐:CATIAを使っています。
−−深澤さんからきたデータをCATIAに入れて、あとは全部CATIA上での作業ですね。
岩佐:そうですね。以前はPro/Eを使っていました。初代INFOBARはCATIAでの1号機です。
−−キーボードの部分もまたすごく大変そうですね(笑)。
岩佐:角が落ちているので、スペースを確保できないところで苦労しました。設計が終わった段階でキーボードの専用メーカーさんに相談するんですけど、何社か声をかけた中でもできると言っていただいたメーカーは1社しかありませんでした。
他のメーカーさんは難しい、できるかどうか分からないという回答でした。やはりここまで曲がったキーは初めてなので、やってみないと分からないという意見がほとんどでした。
−−キーボードは御社からまた外注の専門業者へ行くのですね。
岩佐:専門家さんでないと作れないということですね。そのメーカーさんにできないと言われたらデザインを変えるしかなかったんですけど、なんとかモノにしていただくことができました。
徳原:ここがこだわりですからね。
今回は本当に、一番最初のコンセプトモデルと何も変わらないモノができました。それだけ妥協がなかったということです。
すべての外観が出来上がったときに深澤さんにご挨拶したんですけども「今回は非常に楽だった」とおっしゃっていただきました。「1回も鳥取に行かなかったし」と(笑)。そういうお褒めの言葉をいただきました。
初代のときには何度か足を運んでいただかないといけなかったのですが、今回それだけ弊社を信用いただけたことをうれしく思います。
●デザイン携帯と量産モデル
−−デザインモデルということで末端価格もそれなりの値段になると思いますが、製造に際してコスト的な制約はあまりなかったのですか。
徳原:我々も製造業ですからコストは下げないといけませんが、通常のモデルに比べると制限は緩くなっています。もちろんデザインに価値を置いた、お金をかけても作るというモデルですから、そのへんは事業者さんもよくわかってらっしゃいます。
−−量産モデルとは分けているのですね。
徳原:通常は弊社のインハウスデザイナーが「こういうデザインをやりたい」と言っても、コスト面でできないことがあるのですけど、このモデルでは、よっぽどでない限りやりましょうということですね。
−−深澤さんの存在は大きいですよね。この曲面を通せるか通せないか(笑)。
徳原:作る方のモチベーションも上がります。なんとしてでもやってやるという気になりますね(笑)。
−−技術面で、鳥取三洋でなければできないと自負するところはありますか。相当高度な製造技術だと思いましたし、機能的にもフルスペックですよね。
徳原:一番のアドバンテージとしては、初代を作ったという実績があります。過去の経験がありますから、開発期間を考えるとうちが一番早いんじゃないかなと思います。
−−メイン基板にも、技術的なノウハウはあるのですか。
徳原:SMT(表面実装技術)に関しては、高い良品率での高集積を実現できるノウハウがあります。先ほど岩佐から説明がありました、INFOBAR 2の曲面を生かした基板実装は、このノウハウがあったから実現できたとも言えますね。
−−auさんのデザインモデルで御社が手がけられた機種は何がありますか。
徳原:初代INFOBARとtalbyと今回のINFOBAR 2です。7つのうち3つを担当させていただきました。
−−talbyはマーク・ニューソン氏のデザインですよね。あれも画期的なデザインでした。
徳原:talbyも機構担当は岩佐です。
−−デザインモデルは全部が岩佐さん、素晴らしいですね。
岩佐:巡り合わせが良くて。ちょうど他のモデルが終わった時期とかタイミングが良かったんです(笑)。
−−デザインモデル以外の量産モデルも作られていますが、ビジネスとしてはそちらがメインですか。
徳原:そうですね。
−−量産モデルは基本的に御社のインハウスデザイナーさんが手がけられ、それをKDDIさんにプレゼンして、コミュニケーションしながら作るという流れですか。
徳原:流れとしてはそのとおりです。ただしデザインに関しては、量産モデルでも外部のデザイナーに発注することもあります。デザイナーの名前を出すか出さないかはそのときの判断です。
KDDIさんの今の量産モデルは、ウォーターデザインスコープの坂井直樹さんがディレクションされていますので、どのモデルも力が入っているのが分かります。
−−最後に読者に対してメッセージをお願いします。
岩佐:INFOBAR 2はやはりデザインが一番大きな売りです。コンセプトモデルとおりに実現できるかが大きな課題でしたが、今回は本当に実現することができて、しかも機能的にも考えられるものはすべて搭載して、かなり満足のいく仕上がりだと思います。ぜひ使ってください。
−−意地悪な質問ですが、デザインのために技術的に妥協した点などはないのですか。
岩佐:実際ないですね(笑)。
−−徳原さんはいかがですか。
徳原:岩佐が言ったとおりですけども、au design projectモデルを手がけさせていただく上で一番大切なのは、デザイナーさんの声を100%再現して、それをユーザーに届けるということです。今回は100%やりきりました。
さらにINFOBAR 2はauの中でも最新の有機ELを備えたモデルです。それからFeliCaなどの最新機能をすべて搭載。デザインだけではなくトータルとしての使い勝手もしっかり保っている。
そういう意味で、今回のモデルはデザインを優先する方、そうでない方、皆さまに受け入れられるモデルになったと自負しています。初代INFOBARと同じように長く使っていただきたいですね。
|