●カラーバリエーションの狙い
−−Wシリーズは表面塗装にこだわりを感じます。深みのあるカラーバリエーションですが、何か特殊な手法を使っているのですか。
界:Wシリーズは、主に部屋の中、柔らかい光のリラックスした空間で使うPCなので、表面は少ししっとりとしたフィニッシュにしています。2コート(2回塗装)で奥からの輝きも出して、高級感と優しさの両立を表現しています。
今は光沢系のツルツル、ピカピカに塗装されたネットブックが多いと思いますが、そういった製品との差別化も意識しました。
−−カラーバリエーションは、礒永さんのデザインと初期段階から最終的なイメージを共有しながら決めていくのですか。
界:はい。コンセプトを共有しながら、大きなアールの造形に合うようなフィニッシュを考えました。ハイライトが当たると美しく光を表現するような塗装になっています。
−−たしかにホワイトも深みがありますね。
界:偏光パールを使っていて、光の当たるところが少しイエローに光ります。一見白っぽい色なのですが、角度を変えて光を受けると黄色く光るという、その変化を楽しめる塗装になっています。
塗装自体は特殊なものでもないのですが、パールの組み合わせやフィニッシュのマット感などの組み合わせによって新しい見え方を意識しました。
−−今回はホワイト、ブラウン、ピンクの3色ですが、そのカラーバリエーションの狙いを教えてください。
界:先ほど幅広いユーザー層という話がありましたが、色によってユーザー層を広げる目的もあります。例えば深みのあるブラウンは、男性や年上の方などに落ち着いて使っていただけるシックな色合いを狙っています。ピンクは女性の好きなかわいい色ですので、かわいらしさと高級感を意識しました。ホワイトは万人受けするニュートラルな色ですので、清潔感をイメージしています。そのように、色によってユーザー層を広げていく意味合いがあります。
−−ピンクにはいろいろなバリエーションがあると思いますが、この色味に落ち着かれたのは何か理由がありますか。
界:かなりいろいろなピンクを検討しました。コンセプトが部屋の中でリラックスして使うPCなので、コーヒーブレイクのイメージでおいしそうな色が出せないかと考えました。そこで、最終的にピンクの中でもラズベリー系のピンクをチョイスしました。青味にもオレンジにも振れすぎていない色です。わりと女性向けに作っていますが、男性からも評判はよいですね。
−−青など寒色系のボディはあえて用意しなかったのですか。
界:初期段階では他の色も検討しましたが、おいしそうなというところで暖色系の色合いと、並んだときの色のバランス、カラーハーモニーというところでこの3色が選ばれました。
−−ネットブックのユーザーは女性が多いように思います。実際はどうでしょうか。
武上:ネットブックが出始めた当初はセカンドPCが欲しかった男性が買われたと思います。ところが、最近は国内メーカーも参入し、デザインやカラーの質が上がってきていて、店頭を見ていても、主婦の方や一人暮らしの女性の関心が高いようです。ネットブックは主婦の方で自分専用の1台を持ってらっしゃらない方がお手軽に買える値段ですからね。
界:そういう意味でタッチパッドに少しパターンをあしらっています。インテリア、フルーツ、高級チョコレートを思わせるとか、そういう世界観と親和性を持たせて、あまりメカメカしくない仕上げにしてあります。
礒永:キーボードの色もtype Pと同じシルバーではないんですよね。
界:色がきれいに映えるように、キーボードのシルバーもできるだけ白く輝くようにしています。メタル感というよりはできるだけ明るく白く調整して、外装のピンクやブラウンが映えるようにしています。
−−キーボードもボディの3色に合う色にしているのですね。ブラウンのボディもきれいです。
界:男性にはブラウンが人気です。
礒永:Webサイトなどの写真からでは、なかなかこの色の良さは伝わらないですよね。
−−ノートPCは黒は多いですが、ブラウンはあまりありませんね。
界:そうですね。黒だとビジネスモデルの色なので、黒に近いけれど少しだけニュアンスのある深いブラウンということでこの色になりました。
陰になっているとほとんど黒ですし、光が当たると赤味のあるパールが光って、赤味のあるブラウンになります。
−−ノートパソコンのデザインもグラフィックの感覚が求められてきている気がします。もう形だけではないですよね。
界:プロダクトも、例えば建築であるとかいろいろなカテゴリーが融合してきていますので、こういう機械であってもそういう要素が入ってきて当たり前になりつつあります。それに表面処理とグラフィックという要素もうまく取り入れて、ニーズが高まっていると感じます。
−−界さんはグラフィック系の仕事が多いのですか。
界:もともとはプロダクトをやっていまして、カラーも好きなので最近はそちらのお仕事をやっています。両方好きですね。やはりそこは切り離すものではありません。形があって、さらにその効果的なフィニッシュというのは、グラフィック要素もそうですけど全部合わさって1つの世界観になります。プロダクトとグラフィックの狭間のところがすごく面白いですね。
−−今までプロダクトというと形ありきでしたよね。モデルを作って最後に色をどうするかという流れがあったと思いますが、今は形を作る段階から色味を意識される時代になっているのですね。
●ワークフロー
−−デザインのワークフローについてですが、Wシリーズは企画がまとまった段階でまずスケッチされたのですか。
礒永:小型PCはデザイン=設計という面が多々あります。まずは部品関係や細かなネジに至るまで必要な情報をすべて集め、セットの基本構成を考えます。基本構成が決まったら自分でケミカルウッドを削ってさまざまなシェイプを試してみます。触感とか見た目の厚みの見え方とかラフにアタリをつけます。その後ラインを整えて2Dの図面化し、スケッチ作業、3Dデータ作成、モックアップという流れになります。
−−本体の大きさはパーツのサイズ優先なんですね。
礒永:バッテリー、キーボード、タッチパッドなどは寸法が決まっていますね。今回の場合は液晶も10.1インチと決まっていて、それに対して本体側がひと回り大きいので、必然的に丸みのある形になっていきます。
−−本体側が一回り大きくなったのは何故ですか。
礒永:基板の面積や2.5インチハードディスクなどの配置で決まっています。
−−ネットブックではコンパクト性を追求する必要もなかったということですね。
礒永:当初は薄型バッテリーやSSDを用いた薄型モデルも検討しましたが、値段がアップしてしまうので、現在のサイズに落ち着きました。
−− スケッチの段階から「スイーツ」を意識されていたのですか?
そうですね、形が決まったらプレゼン用のスケッチに入りましたが、最初から“おいしいそうなイメージで”というのは共有していました。
界:お菓子やスイーツは、光沢というより少し表面がしっとりとしているものが多いんですね。スイーツ本などをかなり参考にしました。ただ、そのままやってしまうとちょっと安っぽく見えてしまうので、光や金属感をうまく取り入れつつテイストを出していきました。
礒永:デザインの方向性がほぼフィックスしたところでカラー&マテリアルチームの堺さんに入っていただき、本体色やタッチパッドのパターンなどをまとめていただきました。
−−ありがとうございました。
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