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●第36回:au「INFOBAR A02」
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●第35回:ユカイ工学
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●第34回:スペックコンピュータ
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●第33回:シャープ「COCOROBO」
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●第32回:エステー「エアカウンター」シリーズ
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●第31回:SONY NEX-7
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●第30回:Dyson Hot + Cool
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●第29回:ドコモ スマートフォン「P-07C」
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●第28回:東芝扇風機「SIENT」F-DLN100
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●第27回:OLYMPUS PEN
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●第26回:ウォークマンSシリーズ
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●第25回:シャープ「IS01」
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●第24回:パナソニック「Let'snoteシリーズ」
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●第23回:カシオ「EXILIM G」
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●第22回:富士通「FMV-BIBLO LOOX U」
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●第21回:Panasonic「LUMIX DMC-GF1」
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●第20回:Tivoli Audio
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●第19回:SONY「VAIO Wシリーズ」
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●第18回:KDDI「iida」
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●第17回:富士フイルム「FinePix Z33WP」
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●第16回:ダイハツ工業「TANTO」
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●第15回:ソニー「VAIO type P」
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●第14回:デジタルメモ「pomera(ポメラ)」
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●第13回:日本HP「HP 2133 Mini-Note PC」
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●第12回:ウィルコム「WILLCOM D4」
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●第11回:リコー「GR/GX」
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●第10回:オンキヨー「KM-2W」
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●第9回:東芝gigabeat Uシリーズ
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●第8回:ティアック「SL-A200」他
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●第7回:NEC携帯電話「705iμ」
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●第6回:ソニー「XEL-1」
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●第5回:日産「GT-R」
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●第4回:au携帯電話「INFOBAR 2」
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●第3回:新幹線車両N700系
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●第2回:ソフトバンク携帯電話「913SH」
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●第1回:マツダ「新型デミオ」
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新幹線車両N700系
新世代新幹線「N700系」の
デザイン開発ストーリー

2007年7月、新世代の新幹線車両、N700系がデビューした。今後、東海道新幹線はN700系が主流になるという。そのスタイリングは700系を踏襲しているが、ディテールのブラッシュアップが施され、また上質なインテリアは、乗客にかつてない快適さを与えてくれる。2007年度のグッドデザイン賞金賞に輝いたN700系。世界最高峰の車両としてここにいたる経緯を、TDO(Transportation Design Organization:トランスポーテーション デザイン機構)のデザイナー、福田哲夫氏に聞いた。

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福田哲夫
東京都生まれ。日産自動車を経てフリーランスデザイナーとして活動をはじめる。1985年、エイアンドエフ(株)を設立。インダストリアルデザイナーとしてオフィス用家具・椅子他、各種産業用機器開発、また自動車、船舶、航空機などの開発をサポート。1987年、TDO(Transportation Design Organization:トランスポーテーション デザイン機構)のメンバーとして鉄道車両のデザイン開発に参加。主なプロジェクトには、JR新幹線車両の300系、700系、E2系、E4系、N700系(のぞみ、つばさ、はやて)などがある。2005年より首都大学東京教授。

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図の左上から0系→100系→300系→その進化系。それが右下のWINGと合体し、700系の原型となる(クリックで拡大)
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N700系のフォルムは、先頭車のときにノイズを減少させ、最後尾では動揺を抑える(クリックで拡大)
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700系のDNAは受け継がれていく。福田氏のスケッチより(クリックで拡大)
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福田氏の手によるN700系のロゴ
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前方が見やすいN700系の運転席
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福田氏によるN700系のスケッチ
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N700系のモデルを前面から撮影
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同じくモデルを右上から撮影。見る角度によってまったく異なる表情を見せるのもN700系のデザインの魅力だ
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足のせが装備され、走行中も快適なオフィス空間を提供してくれる
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音楽用のヘッドホン端子やライト・ヒーターなどを備える座席横の操作パネル
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N700のジェントルな優しさは福田氏の笑顔から生まれたのかもしれない
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* ●N700系を生んだ日本の鉄道の歴史

−−N700系のグッドデザイン金賞おめでとうございます。今回はN700系にいたるTDOの新幹線車両に対するデザインコンセプトをお話いただければと思います。

N700系の前に、まず少し新幹線のバックグラウンドをお話しましょう。東海道新幹線ができた1960年代当時、実は世界では高速車両は開発されていなかった。イタリアやイギリスでは試みていたけれどあまりうまくいかなかった。ようやく1981年にフランスがTGVで開業して、10年後にドイツのICEができます。

その時代の長距離移動は世界的に鉄道から飛行機へ移行する時代でした。飛行機の需要は戦前のプロペラ機から戦後のジェット機時代になって急速に伸び、長い間ボーイングやエアバスが主役を務めていた。そして画期的なボーイング787やエアバスA380などが誕生し、今またさらに伸びようとしています。

一方、鉄道はどうかというと、戦前まではアメリカにも大陸横断鉄道があり盛んだったが、戦後は自動車や飛行機など石油を使う産業に力を入れはじめる。アメリカの旅客鉄道業界は斜陽となるわけです。

ヨーロッパでもジェット化の波に乗って、鉄道は人気がなくなってしまった。そこでオランダの当時の国鉄の総裁が「トランス・ヨーロッパ・エクスプレス」という構想を掲げました。そして各国ご自慢の豪華な車内設備の特急列車を作って相互に乗り入れるようにしたのです。

この頃、日本はいち早く1964年に東海道新幹線を開業し、これからの鉄道のサービスは“スピード”だということで高速化を目指します。ところがヨーロッパは、車両を豪華にする方向を目指すものの世界的に交通手段としては飛行機がますますもてはやされ、快適性は追求するものの鉄道にお客さんはついてこなかった。ここで世界の長距離移動に関する乗り物地図が大きく変わってくることになるわけです。

1970年代に入って、石油ショックとともに地球環境破壊や資源枯渇の問題が出てきて、1990年代以降はエコロジーの観点から省エネルギーで利用できる鉄道が見直されるようになってきた。そういう時代になったのですね。

今では、ヨーロッパやアメリカでも次世代型路面電車のLRTなどがもてはやされてきている。また近距離、中距離の電車が復活しているというのは、9.11の問題だけじゃないはずです。鉄道に「環境対応」の追い風が吹いているともいえるのです。

フランスより20年早く、ドイツよりも30年早く、鉄道のスピード化を果たし、今世界中のモビリティに対して大きく貢献する新幹線プロジェクトに関われたことを、私は日本人としてとても誇りに思います。

−−日本が当時、新幹線に力を入れたのは、小さな島国では飛行機のメリットが出にくいという面もあったのでしょうか。

戦後は航空機の開発が制限されていたこともありましたが、むしろ運搬できる量の問題でしょうね。1960年代の日本は高度成長期で、飛行機と鉄道では人もモノも運べる量が全然違いますから。また、将来に対する洞察というか、社会インフラとしての読みではないかと思います。

−−新幹線は必然だったのですね。

●N700系の源流

−−ではN700系の源流をお聞かせください。TDOで手がけられた新幹線車両のデザインは300系以降とのことですが、なかでも700系やE系は斬新で、今までの鉄道車両になかったフォルムだと思います。「カモノハシ」とも呼ばれていますね。

「カモノハシ」はマスコミの方たちが言い出したんですよ。私はカモノハシを作ったつもりは全然ないですね(笑)。

−−そうだったんですか(笑)。

デザインは、機能と造形が良い形で掛け合わされたときに、本当に良いものが生まれるのではないかという話をいつもしています。

昔の蒸気機関車というのは、機能と機能を組み合わせた形となった。ボイラーで水を沸かして蒸気を作り、それをシリンダーに運んでピストンを動かす。また連接棒を介して動輪に伝えていく。それがみんな見えていて、形になっています。

−−機能の組み合わせでしかなかった。

機関車は1930年代中頃に、カバーリングされる流線形の時代がやってきますが、基本的にはそうですね。
そして、20世紀の終わりに我々が700系で成し得たことは、形と形を組み合わせることで新しい機能を生み出すことができたということです。

新幹線は0系からはじまり、100系、300系とスピードが上がってくるにつれ、高速化に対応するために先端がどんどん尖ってきました。その300系の形の下に走行安定性を持たせるためのウイングの形状を置くと…。

−−700系になる!(笑)。700系の独特のフォルムは、尖った先端の下部にウイングを組み合わせた形だったのですね。

700系以前は、水滴形やくさび形が一番美しくて速いと言われていた。でも700系以降、スペインの最先端の車両をはじめ、世界中の高速車両はこういう複合形態に変わってきたんです。

大先輩たちが新幹線で世界の高速鉄道をリードしていって、システムとして、エンジニアリングとして一等賞になった。そして手前みそですけど、デザインの力で新幹線の快適性についてさらなる進化を促したと思っています。

なぜ700系はこういうデザインになったのか。ただのファッションではなく理由がある。その理由を見つけたのがデザイナーだった。スピードと快適性への対応は、エンジニアからは台車や車輌間ダンパーなどで機械的に行う提案もありましたけど、それを私はカタチで実現しました。

●700系のカタチは飛行機がヒントで生まれた

−−700系は1999年にデビューしていますが、エアロストリームと呼ばれる独特の形状はいつ頃生まれたのでしょうか。

1987年、国鉄が民営化されたすぐ後に、TDOはリニアモーターカーのプロジェクトに参加しました。まずモックアップを手がけましたが、リニアモーターカーの初期のスケッチでは、もう複合形態案を出しています。垂直尾翼まで付けているのですが、そういう概念は1987年すでに提案していました。山梨実験線では磁気浮上式リニアで500キロ以上のスピードを出しますから、高速性に対する形状はその頃から検討していました。

やがてリニアモーターカーに参加するうちに「営業車をやってみない?」という話になって、新幹線のデザインを手がけることになりました。そこで我々がまず手がけたのが1992年にデビューした300系のデザインです。

−−最初に700系の造形を提案したときには、業界的にはすごく斬新な驚きがあったのではないでしょうか。

そうですね。300系の形に羽を付けたデザイン案も用意しましたが、それは理解されなかった。飛行機じゃあるまいしとか、漫画じゃないんだからと言われました(笑)。ただ700系の形はいくつかの設計要件を満たすための必然だったのです。

まずトンネルに入るときに生じるトンネル微気圧波(高速で走行中の車両がトンネルに突入した際に、空気が衝撃波のようになり、トンネル出口で大きな音を発生させる現象)を抑える必要があった。トンネル自体をラッパ状にして徐々に空気を逃がしながら入っていく方法や、トンネルに縦孔を設けて空気を逃がしていく方法も考えられますが、車両自体も空気を滑らかに流す形状が求められます。

もう1つは、リアの横揺れをなくしたいということ。新幹線の車両は25メートルあって、車両が16両編成だと400メートルになります。これが高速で走るとヘビの尻尾のように横揺れします。これは戦前から分かっていて、いろいろな研究を機械的にはやっていました。それが700系の形状にしたら、横揺れが止まった。運転席の両側の空気が流れていくときに抑制してくれるというのが、風洞実験によって分かったわけです。

−−すごいですね!

定性的な理論ですよね。最初、エンジニアの方たちと会議するのに言葉が分からなくて…(笑)。そこで空力の本を調べたり、数学は弱いのですが、いろいろ勉強させてもらって、会話ができるようになりました。でもあくまで定性的な話ですよ。

でも、デザイナーはただ絵を描くだけではないということが十数年かかってやっと分かってもらえました。最初は絵を描いたらありがとうございましたと言われ、後工程はお任せ。デザイナーの手を離れると、コストかけずに作りやすく、という方向にいっちゃいますよね。デザイナーが入ると余計なことを言って高くなるというイメージがあるようで(笑)。

本当はデザイナーはネジが8本のところが4本で済むような仕事をしているのですが、なかなか絵描きとしてしか見てもらえない。時間をかけてプロジェクトを1つずつクリアすることで、デザインの力を認めてもらうしかない。ですから工場など現場にも足繁く通いましたし、治具を考えたりといろいろなことをやりました。

我々はカタカナ商売でけっこう腰が軽いようなところもあるかもしれないけど(笑)、でも実は肉体労働で、工場に通って現場の人と一緒に汗をかかないといいモノはできないですよね。

−−700系の形状は実際に作るのが難しそうですね。

700系は、当初こんな作りにくい曲面はできないと言われたこともあったんですけど、それができなかったら、今の世界をリードする高速化は無理でしたね。やはりそれを作ろうと思ってくれた技術者たちの気持ち、努力の結果です。きれいでしょう、芸術品ですよ。

それに、700系のときには先頭形状に700枚くらいパーツがあったけれど、N700系では38枚で済んだそうです。溶接が少なくなり、精度は上がるし、きれいになる…、いいことづくめです。加工精度と空力性能が上がり部品が一体化して軽量化され、溶接の工程が減れば人件費も減るし、何より塗装の下地処理も楽になるとか、こういうことにつながっていくわけです。

−−曲面について福田さんがイメージしたラインはちゃんと出ているのですか。

そうですね。RhinocerosでモデリングしてCADベースで製造していますから、うちで作ったデータそのままです。

−−700系はデビューして随分走っていますが、走っている段階で問題点や改良点が見つかってN700系につながったのですか。

700系をさらに磨き上げたのがN700系と考えてもらえれば分かりやすいと思います。さらなる高速化、低騒音化を目指し、遺伝的アルゴリズムが700系から台湾新幹線の700T型、あるいはN700系につながっていくのです。

700系は「カモノハシ」と呼ばれましたが、むしろ鳥の頭部に近いのです。視界をジャマしないくちばしがあって、目の部分は運転席です。自然の摂理に近づく必然性があったと感じています。

−−すごく理に適っていますね。

●居住空間もデザイナーのこだわりが

−−N700系になって、インテリアにもこだわりを感じます。

上質な空間を提供しようというのがコンセプトです。最速・快適・エコを高次元で融合した次世代型空間です。単に速いだけでも単に快適なだけでもない、それぞれをクリアしながら五感に響く移動空間を心がけています。スピードアップしながら環境性能が良くなっている点も注目です。

例えば、デッキスペースなどは曲面による視覚的な錯覚を利用して、狭いところを広く長く見せていきます。心理的に圧迫感のないようにということで作りました。

多目的トイレは、オストメイトという人工肛門を使用される方や、いろいろな方への対応装備があります。ドアは丸い形状で、車椅子の人が入ってきてクルッと回転して出られるようになっています。便器も全部デザインしていて、少ない水で全体が清浄できるようにしてあります。他にも洗面所など、インテリアはかなり進化しています。

グリーン車用座席はコンフォートシートと言って、普通はリクライニングするとYシャツがだんだん上がってきます。そうならないように、ヒップポイントや第三腰椎のサポートも変わらずにシンクロする快適なシートです。オフィスには似たような概念のシートも各種ありますが、今までの乗り物にはなかったはずですね。

もちろん普通車用座席もより快適に進化しているのは言うまでもありません。

それから連結部はものすごく静かになっていますから、携帯電話も通話しやすくなりました。

−−700系の時代ではインテリアはそこまでは達成できなかったのですか。

いや、700系のときも相当良くなったんですけど、設計要件にはプライオリティがあります。300系から700系では、軽量化の実現で性能がものすごく進化しました。軽量化はもうやり尽くしたようなところがあったんですけど、N700系では「感性評価」ですよね。もっと五感に、快適さを訴えかけたかった。

300系はグッドだったとして、700系でベター、N700でベストというところで、今度は質の向上に時間をかけようと…。スピードが保証されてきたから、上質で快適な空間に議論が移ってきたのだと思います。最初からN700系の快適性を実現しようと思っても、解決すべき問題はたくさんありましたからいっぺんには無理ですね。

−−そういう意味では順当な手順を踏んでいますね。

皆さんが究極の新幹線だと言っているのはそういう意味です。N700系は集大成であって、先人たちによる1964年からの、あるいは戦前の弾丸列車構想から積み上げてきた安全性や高速化という夢がやっと21世紀の今、N700系新幹線として結実した。そんな思いです。

−−ありがとうございました。
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