●E-P1が生まれるまでの経緯
−−OLYMPUS PENのデジタルカメラ版、「E-P1」は2009年7月にデビューしました。これは銀塩のハーフカメラの名機、オリンパスペンシリーズのデザインテイストをデジタル時代にリニューアルしたカメラとして、大ヒットとなりました。そして2011年初頭に「PL2」が発表され、すでに3代目、5モデルと進化の速度も速いのですが、まず開発当初からのデザインコンセプトの変遷を、マーケティングも含めて全般的にお話を伺えればと思います。
まずE-P1前夜ということで、マイクロフォーサーズ規格をパッケージする際にデザインとしての戦略、開発コンセプトはどんな感じだったのでしょう。
高橋:E-P1は2009年に発表、発売させていただきました。それ以前にスタンダードフォーサーズの「E-シリーズ」を展開していましたが、ミラーレスを作るにあたり、どういう商品にするか、どういうデザインにしていこうかはまったく白紙の状態から始まりました。最初からPENありきで進んでいたわけではありません。このデザインに至ったのは本当に最後の最後ですね。
−−2008年のフォトキナなどで発表されたマイクロフォーサーズのコンセプトモデルは、現在のPENシリーズとまったく異なるデザインでしたね。
高橋:そうですね。ミラーを持つ通常のデジタル一眼の場合ミラーボックス、ペンタプリズムが必要なので、ある程度の形、シルエットが決まってきます。ミラーレスはコンパクトと一緒でデザインに自由度があるので、どういう商品に落とし込んでいくかということを、商品企画、開発、デザインの人間とかなりディスカッションしていきました。
その中で生まれたコンセプトは、とにかく一眼レフの「楽しさ」をこのカメラに入れ込んでいくということでした。一眼レフ画質ですから当然気持ちのいい写真が撮れます。そういう楽しさの他に、撮影するという行為自体や操作する事自体も非常に楽しいものです。例えばスイッチをカチカチする心地よさであったり、レンズの絞りを調整したりとかそういう楽しさですね。それを若い人たちを含めて、今まで一眼レフを使ったことのない人たちに味わっていただきたい。そういったカメラにしていこうということで開発をスタートしました。
−−なるほど。
高橋:そこでハードウェアのデザインをどうしていこうかなと考えたときに、モダンにするのか、トラディッショナルな形にするのか。あるいはメカニカル、フレンドリー、デジタルガジェットなどさまざまな選択肢がありました。そこでまずは、そういった主なポイントを5つ、モックアップにしました。
−−(当時のプレゼンテーション資料を拝見しながら)モダンな、コンパクトデジカメっぽいデザインもありましたね。
高橋:そうですね。今どきのコンパクトデジカメ風から、昔のオリンパスペン風(以下PEN)のモックも作りました。そこで部長クラスとか年上の人間はやはりPEN風のデザインに引っかかるんですよね。「いいよね」って。
−−(笑)。
高橋:でも待てよと。これって年上の人たちが郷愁でいいと言ってるだけなのかも知れないなと。これだと今iPodとかiPhoneを使っている若い世代には通じないんじゃないのかと。いろいろとディスカッションしていく中で、社内でアンケートを取ることにしました。
八王子の事業所と、新宿の本社と合わせて約100人弱。年代は20〜50代ぐらいまでの男女ですね。意見が割れるかなと思ったんですけれども、結果として「PEN」に人気が集まったんです。年配の方だけでなくて、若い人たちがこれに響いてくれた。「いい写真が撮れそうですごくいいよね」とか、若い世代にはすごく新鮮に感じたようです。
−−ああ、逆に。
高橋:「モダンなのは逆にありがちでつまらない」、「PENはすごく精密感があって、なんだか使ってみたくなる」、「首からぶら下げて歩いただけでもおしゃれな感じがする」という風な意見がかなりありました。それで、企画もデザインも一体になって「PENでいこう」と方向性が決まりました。
−−ちなみにアンケートでは何割ぐらいの方がPENを支持したのですか。
高橋:半分以上ですね。2番目以降は票が割れました。
−−圧勝ですね。
高橋:はい。方針は決まったので、あとはとにかくカメラとしての質感にこだわりました。アルミやステンレスの磨きの部品を使って、モノとして高い完成度を目指しました。操作ボタンやダイヤルのクリック感にもこだわっています。
−−デジタルカメラでレトロデザインというのは盲点でした。そこに新たなニーズがあったんですね。マイクロフォーサーズ規格で使う楽しさの追求とのことですが、オートというよりはマニュアル志向だったのですか。
高橋:どちらも、ということですね。とにかくカメラのハードルを下げたかった。使っていただくことが一番だと思ったので、まずフルオートでいい絵が撮れます。そして使い慣れてきて、もっと何か凝りたいなと思っていただいた時にはマニュアルもできますし、アートフィルターが入っていますので手軽にいろいろなエフェクトをかけてアーティステックな写真を作ることもできます。そうやってどんどん写真を楽しんでいただきたい、といった提案ができるカメラを目指しました。
●OLYMPUS PENのユーザー層
−−PENのコンセプトを具体的な形にしていく際、ユーザー層はどこを基準にデザインを落とし込んでいったのですか。例えば男性、女性、マニア層などいろいろあると思いますが。
高橋:男女は意識していません。今までデジタル一眼というと、大きい、重たい、黒いといったイメージがあって、運動会や旅行で本格的に撮りたいときには持って行くけど、普段から持ち歩くのにはちょっと抵抗あるよねという人たちです。あるいは従来のデジタル一眼だとマニアに思われてちょっと恥ずかしいと感じる人たち。そういう層を意識しました。普段から持ち歩いて恥ずかしくない、でも画質はデジタル一眼と同等の画質。そういったカメラを提供したいということで、特に特定層に向けてこだわったわけではないです。
実はE-P1の開発当時マーケティングの方で調査したところ、コンパクトカメラユーザーの中でデジタル一眼が欲しくて検討したけど結局止めたというお客様が2割ぐらいいました。最近の調査では3割以上いらっしゃって、その方々がデジタル一眼は重い、難しそう、大きい、あとは値段の問題などでデジタル一眼をあきらめてコンパクトを選んでいます。
そういったお客様に向けて新しい市場を開こうとマイクロフォーサーズ規格を立ち上げて、その第一弾としてこのPENの投入になったということですね。
−−コンパクトデジカメとの差別化としては、ポイントとしてはレンズ交換ですか。
高橋:そうですね。レンズ交換と、デジタル一眼の画質。いい写真を撮りたいという欲求は皆さん非常に強いです。コンパクトだとなかなか自分が思った写真は撮れない。ましてケータイじゃもう全然。ブログに写真をアップしたり、あるいは友達に配ったりという時にいい写真を撮りたい。でも自分が持つカメラとしては、デジタル一眼レフはちょっと、と言うユーザーは確実にいらっしゃいます。
−−そういう層の方々は、カメラは小さくなくてもいいということですね。
高橋:そうですね。それでもPENでも大きいというお客様はいらっしゃるので、そういう方に向けて我々は「XZ-1」というコンパクトの上級機種を発売しました。PENに関しては、デジタル一眼の画質をよりコンパクトにして、レンズ交換もアクセサリーも含めて全部楽しめることがテーマです。
−−画素数は1,230万画素でしたね。マイクロフォーサーズのセンサーサイズはフルサイズに比べてどのくらいの面積なのですか。
高橋:マイクロフォーサーズは3/4インチの撮像素子ですから、対角長がフルサイズの半分になります。つまり面積でいうと1/4ですので、焦点距離は換算で半分になります。14〜42ミリのズームレンズは、35ミリに換算するとその倍の28〜84ミリになります。
−−被写界深度というか、ボケ味はきれいに出ますか。写真の好きな方はボケ味を気にされます。
高橋:撮像素子のサイズが小さいので、被写界深度という点では物理的にはフルサイズのセンサーより深くなりますけど、PENは明るいレンズを積んでいますのでボケ味も十分出ています。PENでボケ味をかなり楽しんでいただけると思います。
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