●ユカイ工学設立経緯
−−まず、東京大学時代に設立されたチームラボから、ユカイ工学設立に至るまでの経緯を教えてください。
青木:僕は、学生時代に猪子寿之くんと一緒にチームラボを設立したんですね。彼は同級生だったので、一緒にベンチャーやろうよという話をいつもしていました。会社設立前は、僕はソフト開発のアルバイト、彼はネット広告の代理店でアルバイトをして社会の仕組みを勉強したり。もともと就職しようという考えはなくて、その話がダメだったら大学に残って研究をするつもりでした。僕は小さい頃からロボットが作りたかったんです。中学2年生の時に「ターミネーター2」を見て、これが作りたい! と思ったんですね。中二病まっさかりの時期です(笑)。
−−チームラボは、大学の研究の延長線上で活動をはじめた感じですか?
青木:そうですね。猪子くんが「会社にしたらいっぱい研究できるよ」と言うのでついつい口車に乗ってしまいました(笑)。学生は研究というキーワードに憧れがあるので。実はまだチームラボに在籍しているんですけどね。「チームラボハンガー」もハードウェア部分は弊社で開発しました。でも僕はロボットが作りたかったので、その後チームラボを離れたんです。
チームラボはもともとソフトウェアの会社なので、僕は技術の方をやっていたんですけど、2004年くらいにロボットブームがあったんですね。世間的にはあまりピンとこないかもしれませんが。ROBO-ONE(二足歩行ロボットによる競技大会)ができた頃でしょうか。
チームラボを設立した当時はインターネットが衝撃的すぎて、これで世界が変わっちゃうなというワクワク感があった。ロボットがビジネスになるというのはまだあまり考えられなかったですが、何年かするうちに次第にロボットの会社が増え始めて、これはうかうかしていられないぞと。それでユカイ工学を始めたんです。とはいえ、僕自身はソフトウェアをずっと作っていたので、ハードウェアには詳しくなかったんですね。だから、チームラボに出入りしていた学生にロボットの魅力を伝えて何人かメンバーを募ったんです。2007年に活動をスタートしました。
●ユカイ工学が開発した製品
−−設立以降、具体的にはどんな活動をしてこられましたか?
青木:未踏IT人材発掘・育成事業の一環で、情報処理推進機構(IPA)から支援をいただき、目玉のおやじ型のロボットを開発しました。
ロボットがいろいろと教えてくれるようなゲームを作れないかと考えていた頃に、水木しげる記念館と組んで作ることになったのです。「デジタル妖怪探し」という企画・実験だったのですが、目玉のおやじロボットが妖気を探知すると首を振って知らせてくれるんです。参加者はそのヒントをもとに、近くにあるモノをiPhoneのカメラで撮影する。撮影ポイントが合っていれば妖怪が画像内に出てくるという仕組みです。ロボットはセンサーの役割なんですね。IT関連会社のユニシスさんが、情報通信技術を利用したアミューズメントを生み出そうとして開催した実証実験でした。
2010年には、同じく情報処理推進機構(IPA)からの支援で、パソコンとつなげて遊ぶソーシャルロボット「ココナッチ」も開発しました。メールの送受信をもっと楽しくできないかと考えて作ったんです。パソコンや携帯で送ったメールを声に出してくれるんです。「こんにちは」とか「了解」といった感じで。柔らかくてプニプニしたひよこまんじゅうみたいで、ほかにはない形だと思います。名前はココナッツが由来。豆っぽい形にしたいなと思っていたので。揺れるのがかわいいんですよ。
ロボットってガッチリしたイメージがありますが、我々は戦闘ロボットを作りたいというわけではないので、どちらかというとAIBOやASIMOといった、女の子にも喜んでもらえそうなものを作ろうと思ったんです。家庭の中で使われるためには、女性の支持が必要ですからね。内部のモーターも音が出ないように気をつけました。プリセットされている言葉は約20です。音声はネットからダウンロードして増やす機能もあります。
また、「ココナッチ」の応用例で、コクヨさんと組んで”会議を楽しくやろう”という企画もありました。タッチパネルと連動していて「ココナッチ」がいいねボタンの役割を果たすのですが、しゃべっている人が「いいこと言ってるな」と思ったら押すんですね、すると「ココナッチ」が「いいね!」と言ってくれるんです(笑)。これはインテルさんにも販売実績があって、現在でも会議室で使っていただいています。
あとは、ダイワハウスさんですね。ダイワハウスさんはスマートハウスに力を入れていて、家電をコントロールしたり、電力の消費状況を画面で見ることができる家を作っています。でも、節電をしようという時に、「お風呂が湧きました」とか、「電気を使いすぎています」なんてアナウンスが一時間おきに流れると居心地が悪いじゃないですか。そこで「ココナッチ」の登場です。電気を使いすぎていると本体が赤くなるなど、電力の使用状況に応じて色が変わるようにしたんです。プニっと押すことで、省電力モードに切り替えることも可能にしました。
それ以外では、チームラボと共同開発した「チームラボハンガー」などもあります。アパレル企業さんなどで採用していただいているのですが、Bluetoothを搭載していて、ハンガーをお客さんが持つと、そこにかかっている洋服の着用イメージが画面に映し出されるという仕組みです。デジタルサイネージとの連動ですね。着こなしイメージが分かると売り上げにつながるみたいで、アースミュージック&エコロジーやヴァンキッシュといったアパレルブランドなど、全国数十カ所で採用していただいています。タトゥー入りのストッキングの販売にも採用していて、これも選ぶと実際に履いている映像が見られるので評判です。デバイスはコンパクトですので、既存のハンガーに後付けできるところも画期的でした。
−−脳波で動くネコミミ「necomimi」も面白いですね。
青木:コンセプト自体はNeurowareというチームの発案で、テクノロジー部分を僕らが手がけました。ニューロスカイさんという、脳波だけを研究しているアメリカのベンチャーの会社があるんですね。病院で使われているような、頭にいくつも装着して持ち運びができないものしか今まではなかったのですが、ニューロスカイさんはそれをもっと簡単に1〜2カ所装着するだけで脳波を計れるセンサーを開発したんです。データの精度的にはシビアではありませんが、手軽に脳波を感知できるということで、玩具として使えないかという狙いで開発しました。
人間の脳波の種類にはアルファー波とベーター波があるのですが、リラックスしているとベーター波が出て、集中しているとアルファー波が出るんですね。そのどちらかの種類を感知して、リラックスしていると耳が垂れてきて、集中度が高い時はピッと耳が立つんです。あと、「ゾーンに入る」というモードがあるのですが、野球選手はバッターボックスに入っているとき、興奮状態にありながらもどこかリラックスしていますよね。そういった、一番良いコンディションになると、耳がぐるぐる回るという面白いモードもあります(笑)。
−−ユカイ工学では家電も手がけられていらっしゃいますね。
青木:国内の大手家電メーカーの掃除ロボットのソフトウェア制作を担当しました。また、オリジナルの掃除ロボットも弊社で開発致しまして、テレビ通販会社から販売を予定しています。
−−掃除ロボットは「ルンバ」が先行しています。
青木:技術的には劣ってはいないと思います。しかしながら「ルンバ」は、シンプルな技術を使って、低価格で量産化して市場に出しているという点ですごいと思います。
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