●auのデザインプロジェクトの流れ
−−auのデザインケータイといえば、「au design project」にはじまり、2009年4月モバイルプロダクト・ブランド「iida」へと進化し、新たな歩みを始めました。スマートフォン全盛になった現在、auのデザインブランドはどのような位置付けで展開しているのですか?
砂原:「iida」という名前が一時期に比べ目立たなくなったので、なくなってしまったのでは? という声もありますが、基本的にauの中でのモバイルプロダクト・ブランドとしての位置付けは変わっていません。「iida」がスタートした2009年からしばらくはCMなど大々的に打ち出していたので、なんとなくauブランドと並ぶ存在のように見えていたかと思うのですが、本来はauがオリジナルで企画する携帯電話/スマートフォンのブランドなんです。その辺りをもう一度整理し直して、現在に至っています。今回の「INFOBAR A02」の製造メーカーはHTCさんなのですが、商品企画やデザインは、弊社が行っているので本体にはメーカー名は記載していません。
−−現在、iidaの製造メーカーはHTC中心なのですか?
砂原:いえ、「INFOBAR」でいうと、今回のA02はHTCさんですが、前回のA01、C01はシャープさんでした。
「INFOBAR」は、2001年にプロトタイプを発表してから、もう12年になります。2003年10月に初代INFOBARを発売し、その後2007年12月にINFOBAR 2を発売しました。そして2011年6月にスマートフォンとしてINFOBAR A01、2012年2月にはテンキー付きのスマートフォンとしてC01を発売しました。このA01、C01は、フィーチャーフォンを使用していた方がスムーズにスマートフォンに移行できるように、片手でも使いやすいサイズ感やテンキーを搭載するなどケータイとスマートフォンのいいとこ取りを目指して企画しました。
一方、今回発売したA02は、たとえば、写真や音楽、動画、電子書籍、SNSと、スマートフォンだからこそ高いクオリティで楽しめるサービスを心地よく使いこなせる製品を目指しました。前モデルでもそうしたサービスは利用できたのですが、例えばマンガを読むにしても画面が小さいので拡大しながら読む必要があります。A02では、サービスを快適に使うのに最適なサイズやインターフェイスは何かを考えることからスタートしました。
それと、A01やC01で実現できなかったことやユーザーからあがっている不満点をA02で改善したいと考えました。例えばカメラ性能やイヤホンジャック搭載、ワンセグアンテナ内蔵、ストラップホール、防水・防塵対応といったことです。
●「INFOBAR A02」の開発経緯
−−「INFOBAR A02」はどのようなスマートフォンを目指したのでしょうか?
砂原:どういうエクスペリエンスを提供するのか、それをどういうサービスやコンテンツで実現するのか、それらにアクセスするためのインターフェイスはどうあるべきか、最後に最適なハードウェア、インダストリアルデザインは何かという順序で企画しました。また、自社で提供しているサービス、「うたパス」や「ビデオパス」、「ブックパス」などを自然な流れで楽しめるためのユーザーインターフェイス、スペック、デザインのあり方を吟味しました。
−−今できることのすべてを満たそうとされている感じですが、「iPhone」対抗ということでしょうか?
砂原:対抗ではないですね。「iPhone」をリスペクトしつつ、iPhoneとは違う価値を生み出したいという点は前モデルの時と共通です。iPhoneとは違う価値、INFOBARが一貫して追求してきたのが“パーソナライズ”という概念です。たとえば、写真をホーム画面にレイアウトして自分好みにの画面にすることができます。そもそも、「INFOBAR」のプロトタイプの時のコンセプトが「みんなと同じものを持っていたい、でも、少し違ったものが欲しい」という気持ちに応えるということでした。
初代INFOBARのプロトタイプではタイルキーを好みの色に差し替えられることを考えていました。商品化に際しては、NISHIKIGOIなどINFOBAR独特の色使いで表現しました。そしてスマートフォンとなったA01、C01に搭載されたiida UIでは画面を自分好みに美しくデザインできるようにしました。そしてA02ではクラウド上の写真が貼れたり、音楽アルバムが貼れたり、友だちが貼れたりとさらに進化しています。
−−OSはAndroidですから、GUI、ユーザーと直接接する部分でのカスタマイズを意識されたということでしょうか?
砂原:そうですね、ユーザーインターフェイスの概念で言うと、スマートフォンの一般的なUIは基本的にパソコンのデスクトップメタファー、あるいはランチャーの延長で考えられていますよね。確かにデスクトップは、例えばIllustratorやPhotoshopで行うような作業のためには理想的なインターフェイスですよね。でも机の上はきちんと整理整頓しなければ散らかってしまいます。また、アプリが整然と並んだランチャータイプのインターフェイスは、シンプルですがアプリという「箱」を開けないとコンテンツ(中味)にアクセスできないスタイルなので、静的で表情に乏しい面もあります。
それに対してiida UI 2.0は、コンテンツが箱から外に出ている、表に出ている状態を基本としている。コンテンツが表に出ているので、タップするとすぐに音楽が再生できたり、友達にコンタクトできたりする。そして、コンテンツを自由にレイアウトしたり、その動きによって「表情」が生まれる。Facebookのパネルを貼っておけば、誰かが撮った季節感たっぷりの写真が出てきたり、お昼時にはラーメンの写真が出てきたりと、常にライブ感を楽しむことができます。さらにパネルを美しく編集することで自己表現ができ、「これは自分のもの」という強い意識が生まれ、INFOBARとユーザーとの関係はより親密なものになります。iida UI2.0は「表出/表情/表現」、英語で言うと「Expression」指向のユーザーインターフェイスといえるのではないでしょうか。
エディトリアルデザインにおけるグリッドシステムのように、グリッドをベースに大小さまざまなパネルを構成するスタイルなので、秩序を保ちつつユーザーならではの遊び心を付け加えることができます。さらに今回、有機的な「ぷにぷに」とした動きが加わり、無意味にずっと触っていたくなるような快感を味わうことができます。美しい秩序と機能性を保ちながら、動的で親密な心地良さ、楽しさを持つ希有なユーザーインターフェイスに仕上がっています。
−−UIがスマートフォンとしての「INFOBAR」の特徴ですか。
砂原:中村勇吾さんは、「アイコン」ではなく「モジュール」そして「コンポジション」という概念をベースに最初のiida UIを設計しました。それをさらに進化/深化させたのがiida UI 2.0です。「機能軸」から「コンテンツ軸」へというキーコンセプトからスタートし、さまざまな検討を重ねて今の形になりました。
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